鬼畜皇子と建国の魔女

Adria

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第一部

27.結界の効果

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「ふむ。試してみるか。では、ルドヴィカ」
「何だ?」
「全力で斬りかかってこい」
「………………」



 いや、だから……八つ裂きになるレベルだと説明しただろう? 此奴は私がどうなっても良いのか? そういえば、先程の結界の構築の際に弾き飛ばされた時も心配する言葉すらなかったしな。




「嫌だ。殺す気か……このクズ」
「すぐに回復すれば良いだけの話ではないか」
「………………」



 此奴……私が斬ってもくっつく何かかと思っていないか?
 どうせ回復すれば良いと思っているから、殴って蹴って斬るのか?




「クズ……っ! ぐっ……ゲホッ、ッく!」




 私がクズと呟くと、ルキウスが私を床に叩きつけた挙句、背中に座った。



「やめろ! 上からどけ! 最低だな! このクズ!」
「ルドヴィカは愚かだな」
「は?」



 別に私は己が愚か者な事くらい分かっている。        
 だが今更だろう? 何故、そのように哀れなものを見る目で見るのだ?



「珍しく考えたかと思えば杜撰ずさんな上に浅慮だ。クッ、本当に頭が足らない事だな。正妃教育で色々叩き込んでやっても、全く成長が見られぬ。浅慮で愚かなままだ」
「なっ!?」



 私はルキウスに座られながら、わなわなと震えた。
 そ、そんな事は言われなくとも分かっている。だが、馬鹿は馬鹿なりに頑張り、色々な勉強について行っているのに……。それに、結界まで張ってやったのに、杜撰ずさんで浅慮?



 何故、そこまで言われなければならないのだ。


 私は腹が立ち、頭に血がのぼってしまい、背中に座っているルキウスに攻撃魔法をぶっ放そうとして、城の結界には魔力を吸われうち消え、ルキウスの結界からは攻撃を受けるはめになった。



 体中、傷だらけで血塗れのボロボロになったまま、床に突っ伏していると、ルキウスはまた私の背中を踏んだ。瀕死な人間を踏めるとは、本当に救いようがないクズだな。




「ふむ、これは良いな。戦にも使えそうだ」
「……………」


 頭に血がのぼると、結界の存在が頭から消え去る癖を何とかせねば、体がいくつあっても足りぬ……。



「ルドヴィカ、其方は己の力を過信しているが故に、己の事を忘れがちだ。本来ならば、何よりも先にする事があるだろう?」
「……? 何をだ?」
「…………だから浅慮で愚かだと言うのだ。己で考えて少しは成長しろ」



 私がルキウスの足の下で己を回復しながら、首を傾げると、ルキウスは更に私をドスッと踏んで、そう言った。



 一体、何なのだ?



「だが、この程度か……。瀕死か即死かと思うたのにな……」
「いや、充分瀕死だったが?」
「そうか? 其方はすぐに己で回復してしまうので、いまいち分からぬな。ふむ、魔法耐性のない他の者で試してみるか……」




 いやいや、即死かと思ったってどういう事だ?
 私が即死だったとしても気にしないという事か? くそっ……。




「ルキウスのクズ。最低。暴君。破綻者」
「クッ。毎回、一辺倒で面白味に欠けるな。もう少し捻りをきかせてみろ」



 そう言って、ルキウスはまた私を蹴り飛ばした。もう駄目だ、此奴に人間らしさを求めた私が馬鹿だった。




 その後、する事があると言ってルキウスは部屋を出ていったので、私は湯浴みをして、静かに眠る事にした。
 まあ、恐らく裏切りの疑いがある者を使って、結界の実験でもするつもりなのだろうな。そういう恐ろしい事を考えている時は放っておくに限る。



 それにしても、結界まで張ってやったのだから、優しく礼くらい言えぬのだろうか? あやつは、ずっと私を踏んでいたのだが……。










 神学や古語の授業の時に昨夜のルキウスの事を先生から聞いたのだが、昨夜は色々と大変だったようだ。



「それで殿下は大丈夫だったのですか?」
「ええ。ルイーザ様の結界がありましたから、指一本動かす事なく終わりました」



 ふむ。私の結界は優秀なようだな。
 だが、疑わしき者を挑発して、わざわざ攻撃させ試すなど鬼か、あやつは。



「ルイーザ様も己の身に結界を張っておられるのですか?」
「え? わ、わたくしですか?」


 己の身に結界を張る?
 おおぅ……その考えはなかった……まさかルキウスが言っていた先にするべき事って、己の身に結界を張る事か?


 ……ならば、あのように愚か愚かと言わずに教えてくれれば良いのに。ケチめ。



「……わたくしは張っていません」
「まあ、ルイーザ様には殿下がおられますし、魔法もありますからな」



 ルキウスが言うように、私は己の力を過信しているのだろうか? だが、マルクスと戦っている時にも己の身に結界など張った事がなかったからな……。




 うーん。張れば、ルキウスからの暴力を防げるが……それでは、ルキウスと私の結界が拮抗して、とんでもない事になりそうだしな……。



 私は難しい事を考えたくないので、答えを先送りにして、取り敢えず目の前の勉強を頑張る事にした。
 取り敢えず、良い評価を得て、ルキウスの鼻を明かしてやるのだ!







「………………はぁ~っ」



 そう思ったのだが、学ぶものが多すぎて、全てで良い評価を得るのは難し過ぎる。体を動かす事は得意だが、頭を使うのは下手だからな。
 今まで人任せで、己で深く考えずに生きてきた弊害だな……。


 だって、私は攻撃や回復が専門だったしな……頭を使うのは指揮する者の仕事だ。



 私はそう思いながら、ルキウスの部屋に戻り、研究部屋へと籠もる事にした。
 疲労回復に特化した薬も大体良い感じだ。8割型の疲労は回復するように思う。ただ、傷や疲労を回復するものは、完全回復まで持っていく事が、どうしても出来ぬ。




「まあ、広域的に魔法で回復出来るので、これは補助でも良いのだろうか? だが、突き詰めてみたいが……」



 どうせなら、完璧を目指したいと呟いていると、突然研究している私の手をルキウスが突き刺した。



 私は痛みよりもルキウスがいる事に驚いて、ルキウスをジッと見つめてしまった。
 まったく分からなかった。気配を消して、近寄るなといつも言っているのに……一体何なのだ? しかも、何故私の手を刺したのだ?




「ルキウス?」
「では、これを飲め」
「………………まさか効果の実験のために、私の手を突き刺したのか?」
「ああ、何か問題でもあるか?」



 問題しかないが?
 私が唖然としていると、ルキウスが私の口に無理矢理、流し込んできたので、私は不本意だが回復薬を飲むはめになった。



「ふむ。この程度か……。まあ、広域的に回復魔法が使えるなら、良しとしてやろう。では、量産しろ」
「……え? え? 何故、知っているのだ?」



 私は広域的な回復魔法について、ルキウスに話した事がなかったのにと不思議に思っていると、ルキウスは疲労回復の薬を飲みながら、独り言には気を付けろと言った。




「勝手に独り言を聞くな!」
「ルドヴィカ。広域魔法が使えるという大切な報告を怠ったのだ。罰は覚悟しているだろうな」
「え? は? 何だ? 罰って?」


 私が一歩後ろに下がるとルキウスは鞭を出して、私を追い詰めた。


 ヤバイぞ。退路が断たれてしまった……。



「ルキウス! 待て! 何故そうなるのだ!? 別に隠していた訳じゃ……。だって聞かなかっただろう?」


 まあ、本当は隠していたのが……今それを言えば、ただでは済まぬだろう。


 私がやめてくれと喚いてもルキウスは、鞭をふるい、鞭で私の腕を絡めとった。


「では、今宵はたっぷりとその身に聞くとするか。洗いざらい、全てを吐け」
「ルキウス? やめ……」



 その後、私はベッドに投げ飛ばされ、着ていたもの剣で切り裂かれるという奇行を受けるはめとなった。



 話が聞きたいなら、何故普通に会話が出来ないのだろうか? 凌辱と暴力で言う事を聞かせようとは、救いようのないクズだな。


 ああ、もう何とかならぬのか? ルキウスは、一体私にどうして欲しいのだろうか?



「い゛っ、鞭で叩くな!」
「余計な事を考えず、私の事だけを考えていろ」


 自分勝手な男だな、このクズ。
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