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ノービレ学院
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あの婚約式から二年が経ち、私は十三歳となった。
イストリアの貴族は十三歳になれば、ノービレ学院に入学することが義務づけられている。なので、私も入学だ。人生二回目の一年生だ。
私は自室に置かれている学院の制服に触れた。
懐かしい……。
以前は毎日のように着ていた制服……。
学院の制服は、男子生徒は黒のズボンに白のシャツ。そして家門を示す色のネクタイを着用し、その上にローブを羽織る。そのローブも表地は黒で、裏地に家門の色を使用している。
そして女生徒は、細胴とそれを強調する緩やかなスカートで構成されたローブ・ア・ラ・フランセーズが制服となる。こちらも表地に黒を使用し、ローブの前開き部分から覗き見える部分に家門を示す色が使われている。
私は制服を見つめながら、家門の色を示す生地に指を滑らせた。
イストリアは大国で貴族の数も多いので、当然ながら生徒数も多い。それを区別するために学院内で色が振り分けられているのだ。
わざわざ訊ねなくても何処の家の者かをひと目で見分けることができるから、便利といえば便利なのよね。
そして我が家はブル・アドリアーティコという海のような緑みがかった青色だ。とても綺麗な色なので、気に入っている。
「…………」
でも、ドレスって窮屈に感じるのよね。
以前はそんなこと感じなかったのに、やり直してからは神子服ばかり着ているせいか、重くて動きづらいドレスは正直好きじゃない。これを毎日着るのかと思うと辟易するけれど、これからも貴族社会で生きていくなら、嫌とも言ってられない。
それに私はイヴァーノの隣に並ぶ者として、窮屈とか言っていないで、ちゃんとしなければならない。イヴァーノや我が家の評判を下げないように努めたいと思う。
私は好き嫌いではなく用途に合わせて上手に付き合っていこうと、制服を見つめながら心に決めた。
「アリーチェ様、早く用意しないと初日から遅刻しますよ」
「でも、エレナ。とても緊張してしまって……」
私が制服を見つめたまま固まっていると、侍女のエレナが私の肩を軽く叩く。彼女の言葉に答えながら、私は緊張で張り裂けそうな胸をぎゅっと押さえた。
やり直す前は毎日のように通った学院だけれど、今はどことなく遠いものに感じてしまう。
でも入学すると、イヴァーノやルクレツィオ兄様とも毎日会えるし、楽しみといえば楽しみなのだけれど、やっぱり緊張するものは緊張する。
「うう、友達が一人もできなかったらどうしましょう」
フェリチャーナ……今回も仲良くしてくれるかしら。
それに神殿にも今までのように気軽に行けない。……それが何より悲しいし寂しい。
「アリーチェ様ったら、大丈夫ですよ。絶対に人気者になれます。それにアリーチェ様が仲良くしたいと声をかけて断る方はいません」
「それではダメなのよ。本心から仲良くなれなければ意味がないわ」
以前はそう思っていた。私が望めば、誰も断らないと。でも、それは友達とはいわない。
そわそわと落ち着かない私とは違い、エレナはとても楽しそうだ。
私は幼い頃から神殿にこもっていて、貴族としては変わり者だという自覚がある。オシャレより薬草触っているほうが好きだし。
だから、人気者は無理だと思う。
「それにいずれ王妃となるなら、人気者になってくださらないと困ります。アリーチェ様が主導で流行を生んでくださらないと」
「流行を生む……。そう言われると自信がさらになくなってしまったわ」
「もう! 背筋を正して胸を張ってくださいませ!」
バシッと背中を叩くエレナに、励まし方がダーチャに似てきたなと、私はしみじみ思った。
そして、拳を胸の前で握ってにこっと微笑む。
「うん、そうね! 頑張りましょう!」
あー、でも今日から家を出て学院の寮で生活するのよね。鬼司教、大丈夫かしら?
あの方は相変わらず、恐ろしい量の仕事を抱え込んでいる。そりゃ、私の手伝いなんて大したことはないかもしれないけれど、それでもないよりはマシだと思う。
できるなら、側にいて手伝いつつ、適度に休息を取らせたいのよね。それに暗殺者のことも気になるし。
お義母様から暗殺者の件を聞いてから、もう二年が経つけれど、未だに送られてくる。
ここまで失敗したら諦めてくれそうなものだけれど。諦めが悪いのか、ただのバカなのか……。
まあ、あの鬼司教が簡単にはやられないと思うけど。
私は転移の魔法陣を施した布を、いつも腰につけているポーチの中から取り出して、胸の前で抱き締めた。実は、「其方は小さいから縮こまれば大丈夫だろう」と言って、荷物運搬用の魔法陣をもらったのだ。
これがあればいつでも神殿に行くことができる。
片道用なのが残念だけれど、帰りは鬼司教が転移させてくれるし、問題はないだろう。
早く私もこの魔法陣を自在に扱えるようにならなくちゃ。
「ねぇ、エレナ。このポーチを制服にもつけていい? いつも持っているものだからないと落ち着かないの。必要なものも入っているし……」
「別に構いませんけど、変に目立ちませんか? 普通のご令嬢はご自分で荷物を持ちませんし」
「……私は普通じゃないから大丈夫よ」
「アリーチェ様。何が大丈夫か分かりません」
エレナの呆れた声に、私は誤魔化すように笑った。
でも、本当にこのポーチは大切なのだ。
ここにはポーションも入っているし、薬草も入っている。それに、鬼司教からもらった魔法陣だって入っている。とどのつまり、ないと困るのだ。
じっとりとした目で見てくるエレナを無視して、私は今着たばかりの制服の腰にポーチを装着した。そして、玄関へ向かい、皆の見送りを受けてから馬車に乗り込む。
「よし! 行きましょうか!」
「はい! 私も学院には久しぶりに行くので楽しみです。先生方にもご挨拶をしなきゃ」
我が家に仕えてくれている者は、ほとんどが貴族だ。なので、私に付き添ってくれる皆も、なんだかそわそわと落ち着かないように感じる。
そうよね。先生たちやかつての同級生たちと再会できるのは嬉しいことだものね。
「そういえば、アリーチェ様は文官コースと正妃教育なのですよね? 領主候補生のコースは取らないのですか?」
「ええ、お義母様が正妃教育を施すから、それは必要ないと仰ったの」
「なるほど……」
正妃教育って聞くだけで、とても大変そうだし、なんだか気が引き締まる思いだ。頑張らないと……。
それに学院に着いたら、フェリチャーナを探して、また仲良くなりたい。きっと大丈夫よ。うん、絶対に大丈夫。
「アリーチェ様。ほら、学院の入り口が見えてきましたよ」
私がフェリチャーナのことを考えている間に、馬車が学院の門をくぐる。
ノービレ学院への入り口は王都にある。だが、学院自体は王都にはない。門に転移の魔法陣が施されていて、そこを抜けると学院に着く仕組みになっているのだ。なので、本当の学院の場所は一般には知られていない。
以前は気にしたことがなかったその仕組みに、今はときめく。ときめいてしまう。
一体、どれほど大掛かりな魔法陣が組み込まれているのだろう。
基本的に転移の魔法陣は始動させる時に目の前が一瞬ぐらりと歪む。でも学院の門に施されているものは、とても高度なものなので、視界が歪むことがない。私はその高度な魔法に、高鳴る胸をおさえた。
それに通る時に門が光るとか、そういうこともないので、以前の私は転移しているとか何も考えないで通っていたのよね。今なら、それが勿体ないことだって分かる。
……確か学院創立の際、国を守る聖獣が施してくれたものらしいけれど、真偽は定かではない。大体、聖獣なんて本当にいるかも怪しいし……。まあお伽話よね。
「アリーチェ!」
学院に着くと、イヴァーノとルクレツィオ兄様が待っていてくれ、馬車を降りる私に二人が手を差し伸べてくれる。
えっと、この場合はどちらの手を取るのが正解なのかしら?
私は逡巡したあと、二人の手を取ることにした。これで平等だ。
「アリーチェ、よく来たな」
「アリーチェ、入学おめでとう」
「ありがとうございます、イヴァーノ、ルクレツィオ兄様」
馬車を降りると、周りが騒めいているのがよく分かる。私たちをちらちらと気にしているけれど、思ったよりは騒ぎは少ない。
まあそれもそうよね。すでにイヴァーノとの婚約は周知されているし、私たちは従兄妹同士でもある。仲良くしているのは当然といえば当然だ。
「アリーチェ、周りが其方を気にしても、其方は周りを気にする素振りを見せるな」
「は、はい!」
私が周りを盗み見ていると、イヴァーノにこそっと注意されてしまう。私は首肯して、姿勢を正した。そして優雅に見えるように、イヴァーノとルクレツィオ兄様のエスコートで寮へと向かう。
「寮は、中庭にある談話室を挟んで男子棟、女子棟と分かれているんだ。基本的に皆、侍女や侍従を連れているので、相互の面会許可さえ取れれば、どちらの棟に入ることも可能だけど、一人で行くのは禁止だよ。まあ、そもそも貴族の子女は一人では出歩かないけど、アリーチェは出歩くだろう? 僕たちの部屋を訪ねる時は気をつけてね?」
「はい」
ルクレツィオ兄様の話を聞きながら、ふむふむと頷く。以前は兄様が会いにきてくれるばかりだったから、男子棟なんて入ったことなかったけれど、今回はイヴァーノの部屋に遊びに行ってみたい。
「イヴァーノのお部屋はどこですか? 遊びに行ってもいいですか?」
「アリーチェ、嫁入り前の女性が男の部屋に入るなんて、私は許さないよ」
「え? でも、侍女を連れてなら入室してもいいんですよね」
「学院の決まりではね。けど、兄としては別だな」
なにそれ……。
私がジト目で兄様を睨むと、兄様も私を厳しい目で見てくる。
私たちが睨み合っていると、見兼ねたイヴァーノが「ならば、菓子を持って私がアリーチェの部屋を訪ねよう」と言ってくれた。
「……大切な妹の部屋を下心のある男が訪ねるのも、僕はどうかと思うけどね」
「ルクレツィオ兄様。先ほどからうるさいです」
ああ言えばこう言う兄様に、私はゲンナリとした視線を送った。
まったく。私とイヴァーノの邪魔ばかりするんだから……。シスコンもここまでくると考えものよね。
イストリアの貴族は十三歳になれば、ノービレ学院に入学することが義務づけられている。なので、私も入学だ。人生二回目の一年生だ。
私は自室に置かれている学院の制服に触れた。
懐かしい……。
以前は毎日のように着ていた制服……。
学院の制服は、男子生徒は黒のズボンに白のシャツ。そして家門を示す色のネクタイを着用し、その上にローブを羽織る。そのローブも表地は黒で、裏地に家門の色を使用している。
そして女生徒は、細胴とそれを強調する緩やかなスカートで構成されたローブ・ア・ラ・フランセーズが制服となる。こちらも表地に黒を使用し、ローブの前開き部分から覗き見える部分に家門を示す色が使われている。
私は制服を見つめながら、家門の色を示す生地に指を滑らせた。
イストリアは大国で貴族の数も多いので、当然ながら生徒数も多い。それを区別するために学院内で色が振り分けられているのだ。
わざわざ訊ねなくても何処の家の者かをひと目で見分けることができるから、便利といえば便利なのよね。
そして我が家はブル・アドリアーティコという海のような緑みがかった青色だ。とても綺麗な色なので、気に入っている。
「…………」
でも、ドレスって窮屈に感じるのよね。
以前はそんなこと感じなかったのに、やり直してからは神子服ばかり着ているせいか、重くて動きづらいドレスは正直好きじゃない。これを毎日着るのかと思うと辟易するけれど、これからも貴族社会で生きていくなら、嫌とも言ってられない。
それに私はイヴァーノの隣に並ぶ者として、窮屈とか言っていないで、ちゃんとしなければならない。イヴァーノや我が家の評判を下げないように努めたいと思う。
私は好き嫌いではなく用途に合わせて上手に付き合っていこうと、制服を見つめながら心に決めた。
「アリーチェ様、早く用意しないと初日から遅刻しますよ」
「でも、エレナ。とても緊張してしまって……」
私が制服を見つめたまま固まっていると、侍女のエレナが私の肩を軽く叩く。彼女の言葉に答えながら、私は緊張で張り裂けそうな胸をぎゅっと押さえた。
やり直す前は毎日のように通った学院だけれど、今はどことなく遠いものに感じてしまう。
でも入学すると、イヴァーノやルクレツィオ兄様とも毎日会えるし、楽しみといえば楽しみなのだけれど、やっぱり緊張するものは緊張する。
「うう、友達が一人もできなかったらどうしましょう」
フェリチャーナ……今回も仲良くしてくれるかしら。
それに神殿にも今までのように気軽に行けない。……それが何より悲しいし寂しい。
「アリーチェ様ったら、大丈夫ですよ。絶対に人気者になれます。それにアリーチェ様が仲良くしたいと声をかけて断る方はいません」
「それではダメなのよ。本心から仲良くなれなければ意味がないわ」
以前はそう思っていた。私が望めば、誰も断らないと。でも、それは友達とはいわない。
そわそわと落ち着かない私とは違い、エレナはとても楽しそうだ。
私は幼い頃から神殿にこもっていて、貴族としては変わり者だという自覚がある。オシャレより薬草触っているほうが好きだし。
だから、人気者は無理だと思う。
「それにいずれ王妃となるなら、人気者になってくださらないと困ります。アリーチェ様が主導で流行を生んでくださらないと」
「流行を生む……。そう言われると自信がさらになくなってしまったわ」
「もう! 背筋を正して胸を張ってくださいませ!」
バシッと背中を叩くエレナに、励まし方がダーチャに似てきたなと、私はしみじみ思った。
そして、拳を胸の前で握ってにこっと微笑む。
「うん、そうね! 頑張りましょう!」
あー、でも今日から家を出て学院の寮で生活するのよね。鬼司教、大丈夫かしら?
あの方は相変わらず、恐ろしい量の仕事を抱え込んでいる。そりゃ、私の手伝いなんて大したことはないかもしれないけれど、それでもないよりはマシだと思う。
できるなら、側にいて手伝いつつ、適度に休息を取らせたいのよね。それに暗殺者のことも気になるし。
お義母様から暗殺者の件を聞いてから、もう二年が経つけれど、未だに送られてくる。
ここまで失敗したら諦めてくれそうなものだけれど。諦めが悪いのか、ただのバカなのか……。
まあ、あの鬼司教が簡単にはやられないと思うけど。
私は転移の魔法陣を施した布を、いつも腰につけているポーチの中から取り出して、胸の前で抱き締めた。実は、「其方は小さいから縮こまれば大丈夫だろう」と言って、荷物運搬用の魔法陣をもらったのだ。
これがあればいつでも神殿に行くことができる。
片道用なのが残念だけれど、帰りは鬼司教が転移させてくれるし、問題はないだろう。
早く私もこの魔法陣を自在に扱えるようにならなくちゃ。
「ねぇ、エレナ。このポーチを制服にもつけていい? いつも持っているものだからないと落ち着かないの。必要なものも入っているし……」
「別に構いませんけど、変に目立ちませんか? 普通のご令嬢はご自分で荷物を持ちませんし」
「……私は普通じゃないから大丈夫よ」
「アリーチェ様。何が大丈夫か分かりません」
エレナの呆れた声に、私は誤魔化すように笑った。
でも、本当にこのポーチは大切なのだ。
ここにはポーションも入っているし、薬草も入っている。それに、鬼司教からもらった魔法陣だって入っている。とどのつまり、ないと困るのだ。
じっとりとした目で見てくるエレナを無視して、私は今着たばかりの制服の腰にポーチを装着した。そして、玄関へ向かい、皆の見送りを受けてから馬車に乗り込む。
「よし! 行きましょうか!」
「はい! 私も学院には久しぶりに行くので楽しみです。先生方にもご挨拶をしなきゃ」
我が家に仕えてくれている者は、ほとんどが貴族だ。なので、私に付き添ってくれる皆も、なんだかそわそわと落ち着かないように感じる。
そうよね。先生たちやかつての同級生たちと再会できるのは嬉しいことだものね。
「そういえば、アリーチェ様は文官コースと正妃教育なのですよね? 領主候補生のコースは取らないのですか?」
「ええ、お義母様が正妃教育を施すから、それは必要ないと仰ったの」
「なるほど……」
正妃教育って聞くだけで、とても大変そうだし、なんだか気が引き締まる思いだ。頑張らないと……。
それに学院に着いたら、フェリチャーナを探して、また仲良くなりたい。きっと大丈夫よ。うん、絶対に大丈夫。
「アリーチェ様。ほら、学院の入り口が見えてきましたよ」
私がフェリチャーナのことを考えている間に、馬車が学院の門をくぐる。
ノービレ学院への入り口は王都にある。だが、学院自体は王都にはない。門に転移の魔法陣が施されていて、そこを抜けると学院に着く仕組みになっているのだ。なので、本当の学院の場所は一般には知られていない。
以前は気にしたことがなかったその仕組みに、今はときめく。ときめいてしまう。
一体、どれほど大掛かりな魔法陣が組み込まれているのだろう。
基本的に転移の魔法陣は始動させる時に目の前が一瞬ぐらりと歪む。でも学院の門に施されているものは、とても高度なものなので、視界が歪むことがない。私はその高度な魔法に、高鳴る胸をおさえた。
それに通る時に門が光るとか、そういうこともないので、以前の私は転移しているとか何も考えないで通っていたのよね。今なら、それが勿体ないことだって分かる。
……確か学院創立の際、国を守る聖獣が施してくれたものらしいけれど、真偽は定かではない。大体、聖獣なんて本当にいるかも怪しいし……。まあお伽話よね。
「アリーチェ!」
学院に着くと、イヴァーノとルクレツィオ兄様が待っていてくれ、馬車を降りる私に二人が手を差し伸べてくれる。
えっと、この場合はどちらの手を取るのが正解なのかしら?
私は逡巡したあと、二人の手を取ることにした。これで平等だ。
「アリーチェ、よく来たな」
「アリーチェ、入学おめでとう」
「ありがとうございます、イヴァーノ、ルクレツィオ兄様」
馬車を降りると、周りが騒めいているのがよく分かる。私たちをちらちらと気にしているけれど、思ったよりは騒ぎは少ない。
まあそれもそうよね。すでにイヴァーノとの婚約は周知されているし、私たちは従兄妹同士でもある。仲良くしているのは当然といえば当然だ。
「アリーチェ、周りが其方を気にしても、其方は周りを気にする素振りを見せるな」
「は、はい!」
私が周りを盗み見ていると、イヴァーノにこそっと注意されてしまう。私は首肯して、姿勢を正した。そして優雅に見えるように、イヴァーノとルクレツィオ兄様のエスコートで寮へと向かう。
「寮は、中庭にある談話室を挟んで男子棟、女子棟と分かれているんだ。基本的に皆、侍女や侍従を連れているので、相互の面会許可さえ取れれば、どちらの棟に入ることも可能だけど、一人で行くのは禁止だよ。まあ、そもそも貴族の子女は一人では出歩かないけど、アリーチェは出歩くだろう? 僕たちの部屋を訪ねる時は気をつけてね?」
「はい」
ルクレツィオ兄様の話を聞きながら、ふむふむと頷く。以前は兄様が会いにきてくれるばかりだったから、男子棟なんて入ったことなかったけれど、今回はイヴァーノの部屋に遊びに行ってみたい。
「イヴァーノのお部屋はどこですか? 遊びに行ってもいいですか?」
「アリーチェ、嫁入り前の女性が男の部屋に入るなんて、私は許さないよ」
「え? でも、侍女を連れてなら入室してもいいんですよね」
「学院の決まりではね。けど、兄としては別だな」
なにそれ……。
私がジト目で兄様を睨むと、兄様も私を厳しい目で見てくる。
私たちが睨み合っていると、見兼ねたイヴァーノが「ならば、菓子を持って私がアリーチェの部屋を訪ねよう」と言ってくれた。
「……大切な妹の部屋を下心のある男が訪ねるのも、僕はどうかと思うけどね」
「ルクレツィオ兄様。先ほどからうるさいです」
ああ言えばこう言う兄様に、私はゲンナリとした視線を送った。
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