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本編
39.事の顛末
痛い……お腹が痛い……。
お腹が熱くて痛くて……、まるで体が乖離してしまうのではないかという程の痛みの中で光が見えた気がした。
その光は私のお腹から出て、何処かに行ってしまいそうな不安があった。だって今にも出て行こうとしている。
自然と涙が溢れて止まらない……。
行かないで……。
ねぇ、側にいて……。
そう何度も願っても光が段々と小さくなっていくように感じる……。
嫌……嫌よ……。
「行かないで……お願い、側にいて……」
「シシー」
泣きながら手を伸ばすと、その手がしっかりと握られた。目を開けると、涙でボヤけているけれど、そこには確かにフィリップがいた。
「側にいる。側にいるよ、シシー」
「フィリップ…………怪我は? 怪我はもう良いのですか?」
私が泣きながら抱きつこうとすると、フィリップから抱き締めに来てくれて、「まだ起きあがっちゃ駄目だよ」と言ったので、私は枕を背中に当てて貰い、少しだけ体を起こして貰った。
「もう大丈夫だよ。心配をかけて悪かったね」
その後、フィリップは泣いている私の手を握りながら、事の顛末を話してくれた。
魔獣の変死は、魔獣を乱獲していた者がいて、その者が魔獣を殺しきれずに魔石に出来なかった事から始まっていたと……。
「本来なら魔石となるはずの魔獣の死体が腐敗してしまい、その魔力が森に染み込んでいた。さぞかし、無念だったのだろう。その魔力には憎しみがこもっていたよ……」
「可哀想に……」
「だけど、もう大丈夫だよ。ちゃんとその死体を自然へと還し弔って来たし、その乱獲者も捕らえたし、今後はこのような事は起きないと思う」
良かった……。
私は魔獣を見た事はないけれど、同じ生きているもの同士、共存していくべきだと思う。害をなすなどあってはならない。
彼らの恩恵を、私たち人間は確かに受けているのだから……。
「これからは森に警備兵を配置し、魔獣を保護する事にしたよ」
「それはとても良い考えですね。良かった……。あ、あのフィリップが落馬をしただなんて……本当なのですか? その乱獲していた者に傷つけられたのですか?」
フィリップは私と違って乗馬も得意なので、まず落ちるなんて考えられない……。きっと、襲われたのだと思う。
「それは……」
「兄上は、乱獲者とのやり合いの最中、敵にやられそうになった騎士を庇った時に、落馬したのだよ」
「ロベルト様……」
ロベルト様のお話では、乱闘になりながら指示を出していると、騎士の方が敵に殺されそうになった時に魔法で助けたのだけれど、その一瞬の隙をつかれて、矢を胸に打たれてしまい、その時に落馬し頭を打ったらしい。
「胸に矢……!?」
「それはもう大丈夫。落馬した時は意識があったからね、すぐに治癒魔法を施したんだ。でも頭を回復する前に意識を失ってしまったんだ。すまない、何とも間抜けな話だ……」
シシーにはかっこつけていたかったのに……とフィリップはしょんぼりしている。
かっこいいとか、そんな問題ではないと思うの。どんな状況でも生きて帰ってきてくれる事が何より大切なのだから。
「でも、良かったです。無事で……」
「最初から全て魔法で方を付けてしまえば良かったのだよ。痴れ者相手に、わざわざ剣で戦ってやる必要はないと思わないかい?」
「だが、私は必要以上に魔力を使いたくはないんだよ。それはロベルトもだろう?」
「まあ、気持ちは分かるけどね……」
それは何となく分かる気がする……。
魔法が珍しいこの国において、魔力を持っている者はどうしても奇異な目で見られる事がある。私だって、普通であれば良かったのにと思った事があるくらいだから、きっとフィリップもロベルト様もあるのだと思う。
「まあ、私の事はもう良いんだよ。それより、シシーの事だ」
「私? 私が何か?」
「懐妊しているのに、ギリギリまで私に魔力を注ぎ込んだと言うじゃないか。一体何を考えているんだ!?」
フィリップが何故かもの凄く怒っている気がする……。でも……確かに魔力を流し込むなど危険な行為だったのかもしれないけれど、私どうしても何か役に立ちたくて……。
………………。ん?
「…………え? あれ? 懐妊? 今、懐妊していると言いました? 誰が?」
「シシーに決まっているだろう」
「えっ!? ええっ!!?」
懐妊?
嘘っ!? 私がフィリップの子を!?
「嬉しい……」
「だが、とても危険な状態だ。今は少し安定したとはいえ、いつ流れたっておかしくはない状況には変わりはないのだよ。君は、懐妊していた事を知らなかったみたいだけど、君にとっても腹の子にとっても危険な事をしたのだよ。反省したまえ」
「は、はい……申し訳ございません……」
ロベルト様に、とても冷ややかな声で叱責されて、私は小さく縮こまりながら謝った。
ロベルト様……やっぱり怖い……。
「フィリップ、お腹の子はまだ私のお腹にいてくれているのですよね?」
「うん、ちゃんといるよ。ただ、落ち着くまでは絶対安静かな。ベッドから動く事は許さないよ」
「え?」
ベッドから動いては駄目なの?
あ……でも絶対安静なのだから仕方がないのかもしれないわ……。
「ね、シシー。分かってくれるよね?」
「は、はい! 勿論です!」
フィリップまでも少し怖い……。
笑顔がとても怖い。怒っているのだと思う……。
でも仕方ないわね、私はそれだけの危険をおかしたのだもの。
だけれど、本当に良かった。流れてしまわないで……ちゃんとお腹に留まってくれて本当に良かった……。
お腹が熱くて痛くて……、まるで体が乖離してしまうのではないかという程の痛みの中で光が見えた気がした。
その光は私のお腹から出て、何処かに行ってしまいそうな不安があった。だって今にも出て行こうとしている。
自然と涙が溢れて止まらない……。
行かないで……。
ねぇ、側にいて……。
そう何度も願っても光が段々と小さくなっていくように感じる……。
嫌……嫌よ……。
「行かないで……お願い、側にいて……」
「シシー」
泣きながら手を伸ばすと、その手がしっかりと握られた。目を開けると、涙でボヤけているけれど、そこには確かにフィリップがいた。
「側にいる。側にいるよ、シシー」
「フィリップ…………怪我は? 怪我はもう良いのですか?」
私が泣きながら抱きつこうとすると、フィリップから抱き締めに来てくれて、「まだ起きあがっちゃ駄目だよ」と言ったので、私は枕を背中に当てて貰い、少しだけ体を起こして貰った。
「もう大丈夫だよ。心配をかけて悪かったね」
その後、フィリップは泣いている私の手を握りながら、事の顛末を話してくれた。
魔獣の変死は、魔獣を乱獲していた者がいて、その者が魔獣を殺しきれずに魔石に出来なかった事から始まっていたと……。
「本来なら魔石となるはずの魔獣の死体が腐敗してしまい、その魔力が森に染み込んでいた。さぞかし、無念だったのだろう。その魔力には憎しみがこもっていたよ……」
「可哀想に……」
「だけど、もう大丈夫だよ。ちゃんとその死体を自然へと還し弔って来たし、その乱獲者も捕らえたし、今後はこのような事は起きないと思う」
良かった……。
私は魔獣を見た事はないけれど、同じ生きているもの同士、共存していくべきだと思う。害をなすなどあってはならない。
彼らの恩恵を、私たち人間は確かに受けているのだから……。
「これからは森に警備兵を配置し、魔獣を保護する事にしたよ」
「それはとても良い考えですね。良かった……。あ、あのフィリップが落馬をしただなんて……本当なのですか? その乱獲していた者に傷つけられたのですか?」
フィリップは私と違って乗馬も得意なので、まず落ちるなんて考えられない……。きっと、襲われたのだと思う。
「それは……」
「兄上は、乱獲者とのやり合いの最中、敵にやられそうになった騎士を庇った時に、落馬したのだよ」
「ロベルト様……」
ロベルト様のお話では、乱闘になりながら指示を出していると、騎士の方が敵に殺されそうになった時に魔法で助けたのだけれど、その一瞬の隙をつかれて、矢を胸に打たれてしまい、その時に落馬し頭を打ったらしい。
「胸に矢……!?」
「それはもう大丈夫。落馬した時は意識があったからね、すぐに治癒魔法を施したんだ。でも頭を回復する前に意識を失ってしまったんだ。すまない、何とも間抜けな話だ……」
シシーにはかっこつけていたかったのに……とフィリップはしょんぼりしている。
かっこいいとか、そんな問題ではないと思うの。どんな状況でも生きて帰ってきてくれる事が何より大切なのだから。
「でも、良かったです。無事で……」
「最初から全て魔法で方を付けてしまえば良かったのだよ。痴れ者相手に、わざわざ剣で戦ってやる必要はないと思わないかい?」
「だが、私は必要以上に魔力を使いたくはないんだよ。それはロベルトもだろう?」
「まあ、気持ちは分かるけどね……」
それは何となく分かる気がする……。
魔法が珍しいこの国において、魔力を持っている者はどうしても奇異な目で見られる事がある。私だって、普通であれば良かったのにと思った事があるくらいだから、きっとフィリップもロベルト様もあるのだと思う。
「まあ、私の事はもう良いんだよ。それより、シシーの事だ」
「私? 私が何か?」
「懐妊しているのに、ギリギリまで私に魔力を注ぎ込んだと言うじゃないか。一体何を考えているんだ!?」
フィリップが何故かもの凄く怒っている気がする……。でも……確かに魔力を流し込むなど危険な行為だったのかもしれないけれど、私どうしても何か役に立ちたくて……。
………………。ん?
「…………え? あれ? 懐妊? 今、懐妊していると言いました? 誰が?」
「シシーに決まっているだろう」
「えっ!? ええっ!!?」
懐妊?
嘘っ!? 私がフィリップの子を!?
「嬉しい……」
「だが、とても危険な状態だ。今は少し安定したとはいえ、いつ流れたっておかしくはない状況には変わりはないのだよ。君は、懐妊していた事を知らなかったみたいだけど、君にとっても腹の子にとっても危険な事をしたのだよ。反省したまえ」
「は、はい……申し訳ございません……」
ロベルト様に、とても冷ややかな声で叱責されて、私は小さく縮こまりながら謝った。
ロベルト様……やっぱり怖い……。
「フィリップ、お腹の子はまだ私のお腹にいてくれているのですよね?」
「うん、ちゃんといるよ。ただ、落ち着くまでは絶対安静かな。ベッドから動く事は許さないよ」
「え?」
ベッドから動いては駄目なの?
あ……でも絶対安静なのだから仕方がないのかもしれないわ……。
「ね、シシー。分かってくれるよね?」
「は、はい! 勿論です!」
フィリップまでも少し怖い……。
笑顔がとても怖い。怒っているのだと思う……。
でも仕方ないわね、私はそれだけの危険をおかしたのだもの。
だけれど、本当に良かった。流れてしまわないで……ちゃんとお腹に留まってくれて本当に良かった……。
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