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27、方針を決める僕①
しおりを挟む王都に入りそのままお城に直行した僕たちは、休憩する暇もなくそのまま国王陛下のもとへと案内されていた。
確かにショコラ様が挨拶しに行くのはわかるけど、どうして僕やリノーも一緒にここにいるのだろうか?
そう疑問に思っている僕の横では、今もまだ男装したままであるショコラ様が涙を流しながら国王陛下に訴えていたのだ。
「あの国はもう私の力だけではどうにも出来ない状況まできているのです……」
「ふむ……確かにショコラ姫の言ったとおり、同じ情報が我が国まで届いてきておる。それもショコラ姫が国を出た事で更に大混乱が起きているそうではないか」
そして国王陛下が教えてくれたタルト王国の現状は、なかなか酷いものだった。
現在、タルト王国ではシュクル殿下が王太子から外れショコラ様がいなくなった為、思惑通り王位継承争いが起こりそうな緊迫した状況になっているそうだ。しかも国の守護神でもある聖剣がなくなった事により、今まで防衛に力を入れてこなかった国は、慌てて兵を集めたりしているらしい。
正直、この混乱に乗じて他国に攻め入られるのは時間の問題だと言われていた。
その話を聞いたショコラ様は、少しショックを受けたフリをして国王陛下に言ったのだ。
「他国に攻め入られたら、我が国はすぐに蹂躙されてしまう事でしょう。その結果どれ程の民が悲しみに包まれるのでしょうか……そんな事、私には耐えられません」
「ショコラ姫よ、そうは言うが腐った国を立て直すのは難しい。ならばその国を一度滅ぼし、新しい国へと変えた方が早い事もある……それには犠牲が付き物というのはわかっておるのだろう?」
「はい……わかってはいるのです。ですが私には耐えられません……」
ショコラ様は流れる涙を一度ハンカチで拭うと、ここからが本題だと背筋を伸ばして国王陛下を力強い瞳で見つめたのだ。
「そこで私は提案があるのです、どうか私の話を聞いて頂けますでしょうか……?」
「……ふむ、どうやら姫には最初から考があったようだが……それは我が国に何か手伝って欲しいという事ではないのか?」
「いいえ、手伝いはほぼ不要です。ですがクリーム王国には、他国がタルト王国に攻め入る前に宣戦布告をして欲しいのです」
ショコラ様の発言に、陛下の周りにいる重鎮たちがザワザワと騒ぎ始めたのだ。
それは仕方がないだろう。勝手に亡命してきた王女が自国と戦争をしろと言って来たのだ。そんなのどう考えても怪しいに決まってる。
しかし陛下だけはじっとショコラ様を見つめて、その裏を読もうとしているようだった。
そして、今もまだざわつく重鎮たちを陛下の一声が止めたのだ。
「静まるがよい! 私はまだ姫と話をしている最中なのだ」
「しかし!」
「まだ話は終わってはおらぬ、文句があるのならそれが終わってから言うがよい」
「承知いたしました……」
声を荒げたのは宰相なのだと思う。その人は凄く悔しそうな顔をして、少し後ろに下がっていた。
「騒がしくさせてすまなかった」
「いえ、私の発言が異常なのはわかっていますから仕方がない事です」
「しかし私には一つ気になる事があったのだが……先ほど姫は手伝いはほぼ不要と申したな。戦線布告をしたとして、それを手伝うなとは一体どう言う事だ?」
「ええ、それはですね……私は我が国に戦争をしかけますが、戦うのはここにいるフラムただ一人です」
「……え?」
突然紹介された事よりも、この部屋の視線を丸ごと受けてしまった事よりも、一人で戦う話を今初めて聞いた事に僕は一番驚いたのである。
「姫よ、一体どういう事だ? その女性ただ一人を戦地に送ると言うのか……」
「このフラムには、剣一振りで山を破壊する程の力があるのです。ですから何万の軍勢に襲われたとしても一瞬で消し炭にする事は簡単でしょう」
山を壊したのは半分ぐらい聖剣さんのおかげだけど、確かに人を消し炭にする事も簡単に出来そうで正直自分が怖い……。
それにこのままだと、本当に一人で戦場に向かう事になりそうだよね。
そう思いながら陛下を見ると、顎に手を当てて少し悩んでいるようだった。しかしその判断の遅さに宰相が反論してきたのだ。
「陛下、こんな馬鹿げた話を信じるのですか!? もしコイツらがすぐ逃げだして、逆に我が国が蹂躙されでもしたらどうするのですか?」
「確かにそう言われても仕方がありませんね。でしたらそちらが納得する形でフラムの監視をして頂いて結構ですよ。そして戦争時は後方に私とフラムの妹であるリノーを人質とするように兵を配置して頂いても構いません。流石に人質がいればフラムは一人で逃げ出したりはできませんからね」
ショコラ様の提案に宰相は何か言いたそうにしたが、それよりも早く陛下が答えていた。
「ふむ……それ程までに、その者の力を信じておるのだな?」
「ええ、もしその力を疑うのでしたらここで実践してみてもいいのですよ? ただし、このお城が綺麗に半分になってもいいのでしたら……」
ニコリと笑うショコラ様に、重鎮たちは顔を青ざめた。どうやら僕という脅威が懐に入り込んでいる事にようやく気がついたのだようだ。
「いや、もう良い! 姫の覚悟は理解した。しかし戦線布告するにしても理由が必要になってくるが、どうするつもりだ?」
「そこは簡単ですよ。『亡命した王女を守るため、タルト王国に戦線布告する』と言うのがわかりやすくていいと思うのです」
「確かにここにショコラ姫がいるとバレれば、いつ取り戻しにくるかはわからないならな……ならば先に仕掛けるのはありだろう。しかし姫よ、流石に無償で手伝うと言うことは出来ぬ」
「勿論わかっております、我が国を落としたら国土の一部をクリーム王国の物として頂いてかまいません」
その発言に再び重鎮たちは騒ぎだす。普通に考えて国を売るなんてありえない話だからだ。
しかしショコラ様からしたら、聖剣の為に国は滅んでも構わないと思っているようなので、全土と言わなかっただけマシなのかもしれない。
「姫には、姫の理由があると言う事なのだな……わかった。我が国はタルト王国に戦線布告を行う。すぐに書簡を準備しろ!」
「は!」
こうしてクリーム王国は、タルト王国に戦線布告をした。
その大義名分はタルト王国からしたら有り得ない内容だったのだが、ショコラ様を取り戻すには丁度良いとすぐにその戦争に乗っかる準備を始めたようだった。
その後、開戦日は1週間後とされた。
そのため国境に向かいながら、立ち寄った町々で僕は戦力UPの為のお買い物をしていた。
そこにはショコラとリノーの他に、戦争に向かう僕を気遣ってついて来たクロテッド様がいた。
今は開戦前だと言うのに、僕たちはウインドウショッピングを楽しむという中々呑気な過ごしかたをしていたのだった。
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