深き水の底に沈む

ツヨシ

文字の大きさ
32 / 37

32

しおりを挟む
洞窟に着くと、正也は言った。
「ここのところ、見た化け物の数が、四体、三体、二体、一体と減っていき、今日はとうとう一体も見なかった。やつらのせいでバランスが崩れて化け物が四体に増えたが、ひょっとしたら徐々に落ち着いてきて、元に戻ってきているんじゃないだろうか」
それにはるみが答える。
「その可能性はあるわね。でもとにかく捜索はこのままで、しばらく様子を見ましょう。それからまた考えたらいいと思うわ。そう早急には答えは出ないと思うの」
「それがいいわね。正也の言う通り、化け物の数が減る、もしくはいなくなるなんてことになればいいけど。当面の命の危険はなくなるし。自由に動き回れるようになるし。そうなるといいわね」
そうなったら本当にいいなと正也は思った。
化け物がいなくなったからと言って、すぐに村から出られるわけではないが、少なくとも命の心配はなくなるのだから。
捜索もやりたい放題になる。
そうなることを望み、そうなったときのことを想像していると、外が暗くなってきた。
そして眠る。

その翌日、捜索の時間はさらに伸びた。
伸ばすと言う話はなかったのだが。
しかも一度も化け物を見ることがなかった。
捜索が終わり、洞窟に帰るとはるみが言った。
「二日間連続で化け物を見なかったわね。最初は短い時間に四体も連続で出てきていたのに」
「そうね。一体から四体に増えた反動で、逆に化け物がいなくなったんじゃないのかしら」
「それだったらいいわね。まだしばらく様子を見ないとわからないけど」
わずかながら希望が見えてきた。
正也はそう思った。
いつもは静かな洞窟内だが、余裕が出てきたせいか、少しは世間話もできた。
はるみは今は母子家庭で、母一人子一人なのだそうだ。
父親ははるみが中学生の頃に、事故で亡くなったと言う。
はるみに武道を教えたのは父親と母親だが、父が亡くなってからは父の師匠でもあった祖父が教えてくれたと言う。
それは現在でも続いているそうだ。
武道は精神修行の面も大きいと聞いたことがあるが、はるみを見ていると、それはあながち間違いではないと思えてきた。
正也は基本的にインドア系で、子供の頃でもつかみ合いの喧嘩すらしたことがない。
――自分も武道を習っておけばよかったかな。
そう思ったが、まだ十九歳なので、今更遅いと言うことはない。
この村を出ることができたら、武道に取り組んでみるのもいいかもしれない。
正也は横にいるみまを見た。
いざという時に、彼女を守れる男にならないと。
目標ができた。
目標は人を動かす。
明日からはなにに対しても、これまで以上に真剣にやることに正也は決めた。

眠り、朝になる。
みまの提案で、今日の捜索は例の地蔵となった。
村を出ようとすると、車はいつでもあの地蔵の横に戻される。
陽介の車も、はるみの彼氏の車も、あの凶悪な連中のスポーツカーもそれは同じだった。
あの地蔵にはなにかがあるのではないのか。
三人で向かう。
そして二体の地蔵を穴が開くほど眺めたが、特に変わったところは見つからない。
正也はそのうちの一体を抱えてみた。
石なので軽くはないが、抱えられないほどではない。
地蔵の底も地蔵が置いてあった石も見たが、これと言ったものはなにもなかった。
その地蔵を置き、もう一体を抱え上げた。
重さはほぼ同じか。
地蔵の底も地蔵を置いてあった石も見たり触ったりしてみたが、やはりなにもない。
正也はその地蔵を置いた。
それでもあきらめきれずに三人で地蔵を眺めたり触ったりしてみたが、結果は同じだ。
ふと、はるみが言った。
「この地蔵をもとの位置からずらせば、ひょっとしたら村から出られるかもしれないわね」
大きな期待は持てないが、可能性はゼロではない。
ゼロでなければやってみるだけだ。
正也は地蔵を横に避けた。
運転免許ははるみが持っている。
車は死んだ四人が残している。
スポーツカーの中を見ると、狭いが後部座席があった。
あの体格代わりといい男二人が、この狭いところに乗っていたのかと正也は思った。
後ろに体の小さいみまが乗り、助手席に正也。
運転席はもちろんはるみだ。
「それじゃあ、行くわよ」
車はユーターンして、登りの山道へと向かった。
こちらの方が、結果が出るまでの距離が短い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

怪蒐師

糸世朔
ホラー
第8回ホラー•ミステリー大賞で優秀賞を受賞しました。ありがとうございました! ●あらすじ 『階段をのぼるだけで一万円』 大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。 三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。 男は言った。 ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。 ーーもちろん、ただの階段じゃない。 イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。 《目次》 第一話「十三階段」 第二話「忌み地」 第三話「凶宅」 第四話「呪詛箱」 第五話「肉人さん」 第六話「悪夢」 最終話「触穢」 ※他サイトでも公開しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

余白怪談

蒼琉璃
ホラー
これは私の体験談やヒトコワ、人から聞かせて頂いた体験談などを元に脚色した作品です。余白のある、なんとなく怖い話。 ※登場人物の名前は全て仮名です。 ※全十一話

処理中です...