33 / 37
33
しおりを挟む
山に入り、山道もけっこうなスピードで進む。
――そろそろかな。
正也が思っていると、急に目の前が真っ暗になった。
そしてブレーキ。
視界が戻ると、車は大破した陽介の車の横にあった。
「駄目だったわね。次はどうしようか」
そう言うはるみにたいしてみまが言った。
「いっそのこと、あの地蔵壊してみたらいいんじゃない」
地蔵を壊す。
普段の正也なら、絶対にやらないことだ。
しかし今は普段の日常の中にいるわけではない。
正也は車を降りると適当な石を拾って、それで地蔵を叩いた。
何度も何度も。
しかし石の地蔵はそう簡単に壊れなかった。
正也はむきになって叩き続けたが、表面が少し欠けるだけだ。
それでも叩いていると、はるみが正也の叩いていない地蔵を抱え上げた。
そして地蔵が置いてあった石に思いっきり叩きつけた。
地蔵の首が取れた。
正也も同じようにもう一体の地蔵を石に叩きつけた。
その地蔵も首が取れた。
そかしそれではおさまらない。
二人して地蔵の首と胴体を何度も何度も石に叩きつけた。
一番近くに民家から、四人にぼこぼこにされた女が出てきてそれを見ていたが、感情のない顔でただぼうと見ているだけだった。
二人はそんな女には目もくれず、ひたすら地蔵を叩きつけ続けた。
そのうちに二体の地蔵はばらばらになった。
それを見てはるみは運転席に戻った。
正也も助手席に座る。
「それじゃあ、行くわよ」
少し息を荒げながらはるみが言った。
車は走り出した。
車は再び山道とは思えないスピードで進んで行った。
――もうそろそろか。
しばらく走り、正也がそう思っていると、急ブレーキで車が停まった。
次に正也の目の前が真っ暗になる。
やがて視界が戻ると、車はバラバラになった二体の地蔵の横にいた。
「駄目だったわ」
はるみがそう言った時、正也は気づいた。
ついさっきまでばらばらになって転がっていた地蔵が元に戻り、最初の場所に立っているのだ。
はるみも気がついた。
はるみは地蔵を見、そしてまだこちらを見ている初老の女を見て言った。
「この幻の村に存在するものは、物理的な攻撃はまるで意味がないのかもしれないわね」
はるみの言う通りだと正也は思った。
地蔵も女も、あの化け物だってそうだ。
代の男がそれこそ必死で金属バットで殴ったと言うのに、なにも感じていないように見えた。
現実に存在しない村にあるものは、現実に存在するものとはまるで違うのだ。
「とりあえず帰りましょうか」
はるみが言い、三人で洞窟に帰った。
洞窟に帰ってからの話題は、二日連続であの化け物を見なかったことだ。
「ほんとにいなくなってしまったのかしら」
みまが言いはるみが答える。
「そうだといいわね。まだ油断はできないけど。少しは望みがあるかもしれないわね」
本当にそうだったらいいな、と正也は思った。
次の日も化け物を見なかった。
――これはいよいよそうかも。
正也は思った。
捜索の成果は上がらなかったが、洞窟に帰ってからは、その話題に話が咲いた。
わずかだった希望が、少し膨らんだのだ。
心が躍らないわけがない。
いつになくい会話が弾み、久しぶりの笑顔が出た。
「もう少し様子を見ましょう」
はるみはそう言うが、言っているはるみもなんだか嬉しそうだ。
もう少し様子を見ることに異論はないが、正也はもう怪物を見なくて済むような気になっていた。
そして夜。
眠る。
正也はぐっすりと眠った。
夢も見ずに、途中で目が覚めることもなく。
目覚める。あてはないが捜索には出かけた。
正也の気分は久しぶりに高まっていた。
今日化け物を見なければ、もう二度と化け物は出てこないだろうと思っていた。
しかし正也のそんな想いは、すぐにうち砕かれた。
村に入った途端、川向うに現れたのだ。
しかも四体同時に。
四体並んでこちらを見ていた。
――そろそろかな。
正也が思っていると、急に目の前が真っ暗になった。
そしてブレーキ。
視界が戻ると、車は大破した陽介の車の横にあった。
「駄目だったわね。次はどうしようか」
そう言うはるみにたいしてみまが言った。
「いっそのこと、あの地蔵壊してみたらいいんじゃない」
地蔵を壊す。
普段の正也なら、絶対にやらないことだ。
しかし今は普段の日常の中にいるわけではない。
正也は車を降りると適当な石を拾って、それで地蔵を叩いた。
何度も何度も。
しかし石の地蔵はそう簡単に壊れなかった。
正也はむきになって叩き続けたが、表面が少し欠けるだけだ。
それでも叩いていると、はるみが正也の叩いていない地蔵を抱え上げた。
そして地蔵が置いてあった石に思いっきり叩きつけた。
地蔵の首が取れた。
正也も同じようにもう一体の地蔵を石に叩きつけた。
その地蔵も首が取れた。
そかしそれではおさまらない。
二人して地蔵の首と胴体を何度も何度も石に叩きつけた。
一番近くに民家から、四人にぼこぼこにされた女が出てきてそれを見ていたが、感情のない顔でただぼうと見ているだけだった。
二人はそんな女には目もくれず、ひたすら地蔵を叩きつけ続けた。
そのうちに二体の地蔵はばらばらになった。
それを見てはるみは運転席に戻った。
正也も助手席に座る。
「それじゃあ、行くわよ」
少し息を荒げながらはるみが言った。
車は走り出した。
車は再び山道とは思えないスピードで進んで行った。
――もうそろそろか。
しばらく走り、正也がそう思っていると、急ブレーキで車が停まった。
次に正也の目の前が真っ暗になる。
やがて視界が戻ると、車はバラバラになった二体の地蔵の横にいた。
「駄目だったわ」
はるみがそう言った時、正也は気づいた。
ついさっきまでばらばらになって転がっていた地蔵が元に戻り、最初の場所に立っているのだ。
はるみも気がついた。
はるみは地蔵を見、そしてまだこちらを見ている初老の女を見て言った。
「この幻の村に存在するものは、物理的な攻撃はまるで意味がないのかもしれないわね」
はるみの言う通りだと正也は思った。
地蔵も女も、あの化け物だってそうだ。
代の男がそれこそ必死で金属バットで殴ったと言うのに、なにも感じていないように見えた。
現実に存在しない村にあるものは、現実に存在するものとはまるで違うのだ。
「とりあえず帰りましょうか」
はるみが言い、三人で洞窟に帰った。
洞窟に帰ってからの話題は、二日連続であの化け物を見なかったことだ。
「ほんとにいなくなってしまったのかしら」
みまが言いはるみが答える。
「そうだといいわね。まだ油断はできないけど。少しは望みがあるかもしれないわね」
本当にそうだったらいいな、と正也は思った。
次の日も化け物を見なかった。
――これはいよいよそうかも。
正也は思った。
捜索の成果は上がらなかったが、洞窟に帰ってからは、その話題に話が咲いた。
わずかだった希望が、少し膨らんだのだ。
心が躍らないわけがない。
いつになくい会話が弾み、久しぶりの笑顔が出た。
「もう少し様子を見ましょう」
はるみはそう言うが、言っているはるみもなんだか嬉しそうだ。
もう少し様子を見ることに異論はないが、正也はもう怪物を見なくて済むような気になっていた。
そして夜。
眠る。
正也はぐっすりと眠った。
夢も見ずに、途中で目が覚めることもなく。
目覚める。あてはないが捜索には出かけた。
正也の気分は久しぶりに高まっていた。
今日化け物を見なければ、もう二度と化け物は出てこないだろうと思っていた。
しかし正也のそんな想いは、すぐにうち砕かれた。
村に入った途端、川向うに現れたのだ。
しかも四体同時に。
四体並んでこちらを見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?
鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。
先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる