深き水の底に沈む

ツヨシ

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――なにかしないといけない。
そんなことを考えていると、みまが正也の顔を覗き込んで言った。
「今すぐに出ましょう」
「ああ、そうしよう」
例のまるであてのない捜索だが、やらないよりかはわずかながらましだろうと思える。
みまの提案で、山の登り道を捜索することになった。
今までは村の中が中心で、山の方はあまり捜索していなかった。
だからそう言う提案が出たのだろう。
山道を歩いて登る。
適当なところで道を外れて山に入り、なにかないか探す。
二人ぴったりとくっついて行動した。
化け物に出会う危険もあるし、何より二人とも一人になりたくなかったのだ。
すぐそばに、肌が触れ合うほどそばに人がいてほしかったのだ。
日が高くなるまで捜索を続けた。
こんなにも長い間外にいたのは、いつ以来だろうか。
化け物に会うこともなく、その日の捜索は切り上げるとこにした。
洞窟に帰るとみまが言った。
「はるみさんの分まで頑張らないといけないわね」
そう、はるみが最後に言ったあの言葉。
「あなたたち、必ず家に帰るのよ!」
死を覚悟したはるみが言ったあの言葉。
もちろんむげにはできない。
なにがなんでも帰ってやる。
正也はそう心に誓った。

次の日も、その次の日も捜索は続いた。
山の中ばかりだが。
木がたくさん生えている山の中にも、木々を押しのけるようにして化け物は現れた。
幸いなことに、近くに現れたことはなかったのだが、何回もその姿を見せた。
それでも捜索はやめなかった。
捜索時間は短めだったが、毎日続けた。
正也もみまも、その想いはおなじだ。
なにがなんでも家に帰るんだ。
自分たちのためにも、そして死んでいったはるみのためにも。
その決意は揺るぐことはなかった。

そんなことが続いたある日のことだ。
昼頃まで山の中を捜索して、正也が、今日はこれくらいにしておこうかと思っていた時に、みまが言った。
「久しぶりに村を見て見ない」
そういえばここのところ、山の中ばかりだ。
ちょっと村を見て見るのもいいかもしれない。
正也が同意し、二人歩き出す。
しかし村に入って少し歩いたところ、村全体が見渡せるようになった時に、気がついた。
ここから少し離れた二体の地蔵と二台の車があるあたりに、人がたくさんいるのが見えた。
そして陽介の車の上には誰かがいた。
その人物は、大きな声でなにかを叫んでいるようなのだ。
「あの車の上に載っている人、陽介じゃないの」
そう言われると遠目ではあるが、なんだけ陽介のように見える。
声もそんな感じだ。
「行ってみよう」
二人で歩きだす。
近づくにつれて、車の上に立って大声を出しているのは陽介だとはっきりとわかった。
そして陽介の前に立つ、ざっと四十人はいるであろう村人たち。
陽介はその村人の幽霊に向かって、なにかを言っているのだ。
さらに近づくと、なにを言っているのかがわかった。
「だから、何度も言わせんなよな。おまえたちはもう死んでいるんだ。この村もダムの底に沈んでるんだぜ。まったく往生際が悪いぜ。こんな存在しない村なんか捨てて、さっさと成仏しろ!」
陽介はそう言っているのだ。
二人、陽介のもとにたどり着いた。
「いったいなにやってるんだ?」
正也がそう言うと、陽介が正也を見た。陽介はぼこぼこになった自分の車の上に立ったまま言った。
「ああ、正也か。朝からこいつらを集めて、説得してたんだ。おまえら早く成仏しろよと」
「朝から?」
「ああ、こいつらろくに抵抗しない代わりに、素直に言うことを聞くわけでもない。そんなやつらを一人で四十人以上もここに集めたんだ。一度集めると逃げないんだけどな。それでもいったいどれだけ時間がかかったことか」
「で、みんなを集めて成仏しろと言ってるのか」
「ああ、こいつら本当は死んでいることを知っているくせに、自分たちは死んでなくて、まだ村で平穏に暮らしていると思い込もうとしてるんだ。だからこんな現実には存在しない村ができちまった。そこに俺たちは閉じ込められている。だからこいつらをわからせて成仏させれば、村が消えて俺たちも村から出られると思ったんだ」
「村を消すだって?」
「そう、こいつらが自分たちが死んでいると認めない限りは、村はこのままだ。だから俺がこいつらに、自分たちは死んでいることを嫌でも認めさせて、この忌まわしい村をまるごと消し去ってやろうと思ってね」
そんなことができるのだろうか。
正也はそう思い、あらためて集まった村人たちを見た。
そして驚いた。
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