闇の中の黒い闇

ツヨシ

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母子家庭で和子の収入で生計を立てている。

弟が留守なのも、おそらく仕事なのだろう。

普通の仕事をしている人は、就業している時間帯だ。

――帰ってくるまで待つか。

大道は待つことにした。


八時ごろに弟は帰ってきた。

これから弟に聞き込みをしたら、急いで帰っても和子のところに着くのはけっこうな時間となってしまう。

和子は明日になりそうだ。

「どちらさまでしょう」

まるで特徴のない男だった。

たいていの人間はなんだかの特徴があるものだが、ここまでなにもない人間も珍しい。

いつもどおりに名刺をわたして説明すると、弟は話し始めた。

「あの事件ですか。あの件で今頃訪ねてくるとは思っていませんでした」

「再取材というやつです」

「そうですか。ご苦労様です。犯人も捕まっていないし、記者さんとはいえがんばっていただけたら、事件解決のほうに少しでも向かうかもしれませんね」

記者と言う人種に良い印象を持っているタイプの人間のようだ。

大道にとっては都合がいい。

「で、聞きたいこととはなんでしょう」

「それでは前置きなしで単刀直入に聞きます。お兄さんが怖がっていたもの、あるいは苦手にしていたものとは、いったいなんでしょうか」

弟には質問の意味がわからなかったようだ。

あまりにも想像していたのとはかけ離れた内容だったのだろう。

少し見開いた目で、大道をじっと見ている。

「もう一度聞きますが、お兄さんが怖がっていたもの、あるいは苦手にしていたものとは、なにかありますか?」

「ああ、聞き違いじゃなかったんですね。でも、どうしてそんなことを聞くんですか?」

「あの事件において、重要な要因となることです」

「そうなんですか。それは身体中が骨折していたことと、なにか関係があるのですか?」

「あるかもしれませんね」

「そうですか。では兄が骨折を嫌っていたことはご存知なんですね」

「骨折を嫌っていたんですか?」

骨折を好きな人間がいるとは思えないが、弟が思い当たるほど特別に、骨折を嫌っていたということなのだろうか。

「その様子じゃ知らなかったみたいですね。どうも思い違いをしていました」

大道は同じことをもう一度聞いた。

「骨折を嫌っていたんですか」

「ええ、そうです」

「それはどうしてですか?」

「大事なときに、何度も骨折したからですよ」

「大事なときに、ですか」
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