闇の中の黒い闇

ツヨシ

文字の大きさ
21 / 47

21

しおりを挟む
「ええ。中学生のときに、修学旅行をすごく楽しみにしていたんですが、その直前に自転車で転倒して足の骨を折ってしまい、結局修学旅行に行けませんでした。兄は本当に悔しがっていましたよ。高校、大学とバトミントンをやっていたんですが、大学のとき、大事な大会の前に今度はバイクで転んで骨折して、その大会に出ることが出来ませんでした。このときは修学旅行のときよりも悔しがっていました。卒業後、希望していた工場に就職が決まっていたんですが、入社日前日に、理由は何度聞いても本人が言わないものですからとうとうわかりませんでしたが、両手を複雑骨折して、工場は長期欠勤。結局一日も働かないままに、退社してしまいました。ここまでくると悔しがるのを通り越して、兄はしばらくの間放心状態になっていましたが。といったわけで、兄は骨折を嫌っていた。というよりも憎んでいましたね。骨折した原因が兄本人にあるのは確かなのですが。それでも兄は、骨折がまるでそれが意思をもつものであるかのように、嫌悪していました。その兄があんな死に方をして。絶対に犯人の嫌がらせだと私は思っているんですが。でもそこまで兄を恨む人間がいるのかどうか。兄は基本的に気の弱いところがありまして、誰かを怒らすようなことはほとんどしていないと思うのですが」

「そうですか」

非常識な死に方をした人間が三人いる。

そして三人とも自分が怖がっているもの、嫌がっている方法で殺されている。

三人に共通する人物は一人だ。

正木和子しかいない。

「どうしました」

大道が考えていると、弟が声をかけてきた。

「あ、いえ。そうですか。貴重なお話が聞けて、よかったです」

「そうですか。ところで」

「なんですか?」

「犯人、捕まりますかね」

「それは基本的には警察の仕事ですので。私どもにはなんとも言えませんが。早く捕まるといいですね」

「……そうですか」

弟はいかにも残念そうにそう言った。

兄思いの弟であることは間違いのないようだ。

「ではこれで失礼します」

大道が頭を下げると、弟は小さく言った。

「いえいえ」


夫が殺害されたのなら、妻は無条件で容疑者の一人となるはずだ。

しかし和子はいまだ普通に暮らしている。

ということは犯人ではないということなのか。

大道は近田に聞いてみることにした。


署に行くと近田がいた。

誰に聞いても近田が署にいることはほとんどないと言う。

それなのに大道が行くと、必ずいるのだ。

ここまでくると、超常現象的ななにかがあるのではないかと、大道は半ば本気で考え始めていた。

「近田さん、お聞きしたいことが」

「なんだ。正木正二のことか」

「そうです。よくわかりましたね」

「なにおべっか言ってるんだ。ちょっと前に俺がネタふりしたばかりだろう。確立としてはそれが一番高いに決まっているじゃないか。で、正木正二のなにが知りたいんだ」

「犯人は捕まっていないんでしょう」

「ああ。俺は直接の担当ではないが、そいつからいろいろと聞いている。何人か怪しい名前が浮かんだが、あれやこれや調べてみると、全員白だったという話だ」

「和子もですか」

「ああ。もちろん真っ先に名前があがったが、和子にはどうしようもないほどのアリバイがあったそうだ。和子が直接手を下すのは不可能だ。動機という点では一番あったんだがな」

「動機があったんですか?」

「ああ、正二は和子に対して日常的に暴力を振るっていた。娘の好子ともどもに。それは間違いがない」

「暴力ですか。正二は気の弱い男と聞きましたが」

「誰から聞いたんだ、そんなこと。って、それはいいか。とりあえず、さすが記者さんだ、と言っておこう。そいつの言うことは本当だ。正二は着の弱い男だった。だから逆に暴力がエスカレートしたんだな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...