闇の中の黒い闇

ツヨシ

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喫茶店に入ると、一番奥のテーブルに近田が座っていた。

「よお」

大道はテーブルを挟んで近田の前に座った。

近田は大道が座るやいなや言った。

「早速だがいきなり要点からいくぞ。正樹の娘だが、二ヶ月ほど前から母親から虐待を受けている」

「本当ですか」

「ああ、本当だ。並木が殺された頃からみたいだな」

「裏は取れているんですね」

近田はそれに答えず、大きな声でブレンドを注文した。

大道もとりあえず同じものを頼んだ。

近田は大道の目をしっかりと見て言った。

「裏は取れている。まず近所の主婦の証言だ。好子が頻繁にアザを作るようになったと言っていた。二ヶ月ほど前から。そして本間が目撃した。向かいのアパートから望遠鏡でね。本当にひどい虐待を見たそうだ」

「やっぱりあそこに張り込んでいたんですね」

「気づいたか。さすがだな」

「それで、虐待が始まると、非常識殺人事件も起こり始めたと」

「そういうことだ」

大道は考えた。

近田はなにも言わずに大道を見ている。

そのうちにコーヒーが二つ運ばれてきた。

大道はコーヒーを一口ふくむと言った。

「そうすると、母親が一番危ないということになりますが。でも、まだ生きていますね」

「それは俺にもわからんが。腐っても娘から見れば母親だ。他人とは想いが違うんじゃないのか」

「血は水よりも濃いですからね」

「そこで俺は考えた」

「なにをですか」

「虐待をやめさせることを」

「どうやって?」

「俺は刑事だ。やり方はいくらでもある。児童相談所にも顔が利くし。それに児童虐待は、法治国家日本においては犯罪だ。母親を送検することだって出来る。近所の主婦と本間の証言があれば、なんとでもなる」

「でもそれでは、今までの事件解決には結びつかないんじゃないんですか」

「そんなことは今はもう、どうでもいい。どうせあの子を捕まえて、有罪にするなんてことは出来そうにないしな。犯罪を未然に防ぐのも警察の仕事だ。それに……」

近田は口をつぐんだ。

見れば怒りとも悲しみともつかぬ、なんとも言えない複雑な表情をその顔の上に作っていた。

大道が未だかつて見たことのない顔だった。

大道は近田をうながした。

「それに……なんです」

「なんでもない。俺ももう年だ。定年まで長くはない。これが最後の事件になるかもしれない。だったら気の済むまでやろうと思ってな」

「気の済むまで、ですか」

「ああ、そうだ。気の済むまでだ。どうせこの年まで独り身で、なにかあっても悲しむ奴なんていないさ」

「なにかあっても?」
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