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マンシャンをひどく険しい顔で見ているのも同じだ。
桜井は車を停車位置に停め、車から降りた。
そして女をあらためて見た。
あの目はマンションに敵意を持っているとしか思えなかった。
そうだとしたら、最近の自殺者が連続して出ていることと、あの女はなにか関係があるのだろうか。
――身内?
そうも思ったが、一言も発しない見知らぬ女を見ても、結局のところなにもわからない。
そこへ誰かがやって来た。
マンションの住人だろう。
桜井の知らない女だが、一万人近い人口を誇るこのマンションの入居者のほとんどを、桜井は知らない。
ふてぶてしさを絵にかいたようなそのふくよかな中年女は、その入り口の女に気づき、すたすたと女の方へと歩いて行った。
そしてあろうことか、女のすぐ横に立って女を凝視したのだ。
キスができるほどの距離だ。
もちろんそこには遠慮というものは全く存在しない。
すぐ横に誰かが立って自分の顔をまじまじと見れば、見られた方は当然気づくだろう。
しかし見られている女に、なんの反応もなかった。
それは自分を見ている女を、あえて無視しているように見えなかった。
本当に気がついていない。
そんな感じだ。
まさに眼中にないとはこのことだ。
――気づいてないのか。
桜井はもう一度見た。
桜井から見て、険しい目つきの女が自分を見ている女に反応しないのは、どう見ても気づいてないだけに見えた。
それほどまでに全ても神経を集中させて、マンションをにらみつけているのだ。
ふくよかな中年女はしばらくじっと見ていたが、まるで反応がないのであきれたような顔を残して、その場を立ち去った。
それからしばらくして、マンションを親の仇のように見ていた女も、その場から消えた。
――ほんと、なんなんだあの女は。
桜井の脳裏には不可解という言葉しか浮かんでこなかった。
大場はマンションに住み、目的を果たすために行動した。
とにかく情報を集めること。
それにつきるのだが、大場は住んでみて、予想以上に自分がマンション中の注目を集めていることに気がついた。
考えてみれば当然なのかもしれない。
空き部屋が何十とある巨大マンションで、死人が出たばかりの部屋をわざわざ契約し、そのまま住んでいるのだから。
しかもそれが女子大生一人なのだ。
大場もマンションに関心があるが、マンションの住人も大場に興味があるのだ。
したがって目的を遂行するのに、思ったほど苦労しなくて済んだ。
なにせ多くの人が野次馬根性で大場を見、中には大場に話しかけてくる人さえいるのだから。
もちろんストレートに「なんであんな部屋に住んでいるんですか?」と聞いてくる人はいない。
しかし避けながら話をしていても、結局知りたいのはそこなのだ。
だから大場が「自殺した人がいるみたいですね」と直球に話を振ると、みんな少し興奮しながらいろいろと聞いてくるのだ。
その好奇心丸出しの質問を適当にかわし、大場は自殺した岡田たまきの話に持っていく。
巨大マンションと言うだけあって、岡田たまきと会ったことがない人もいるが、大場が会うのが必然的に大場の部屋の近所に住んでいる人が多いため、多少なりとも話が聞ける人が何人かいた。
しかし残念なことに、岡田たまきがなぜ自殺をしたのか、どんな悩みを抱えていたのかというたまきの心象にかかわる話になると、みなよくわかっていないことが大場にはわかった。
巨大マンションの近所付き合いとはその程度なのだろう。
――けっこう話が聞けたのに……。
大場はいきどおりを感じたが、まだ目的は達成されてない。
このまま調査を続けることにした。
それがいつまで続くのかはわからないが。わからないが大場はやめるつもりは全くなかった。
桜井の妹のあんりが大学を卒業した。
そして就職も決まった。
なかなかいい会社に就職することができた。
そこまではよかったのだが、なんとあんりが桜井の住むマンションに引っ越すと言う。
同居ではない。
棟も違う。
その理由は就職した会社から近いからだ。
確かに近い。
桜井が今務めている会社とは比べ物にならないほどに。
それでもここ最近、連続して自殺者が出たマンションに住むなんて。
桜井が言うと、あんりが言った。
「でもお兄ちゃんだって住んでいるじゃない」
そう言われると返す言葉がない。
自分が今住んでいるマンションを、不吉だから危険だからやめろと言っても、まるで説得力がない。
それの大場さやのように自殺者の出た事故物件に住むわけでもない。
超巨大マンション。
開いている部屋は常にいくらでもあるのだ。
「ご近所さんだから時々遊びに行くわね」
あんりにそう笑顔で言われると、桜井はもう説得をあきらめるしかなかった。
大場が大学から帰ってくると、マンションの入り口に女が立っていた。
――あれは……。
聞いたことがある。
桜井は車を停車位置に停め、車から降りた。
そして女をあらためて見た。
あの目はマンションに敵意を持っているとしか思えなかった。
そうだとしたら、最近の自殺者が連続して出ていることと、あの女はなにか関係があるのだろうか。
――身内?
そうも思ったが、一言も発しない見知らぬ女を見ても、結局のところなにもわからない。
そこへ誰かがやって来た。
マンションの住人だろう。
桜井の知らない女だが、一万人近い人口を誇るこのマンションの入居者のほとんどを、桜井は知らない。
ふてぶてしさを絵にかいたようなそのふくよかな中年女は、その入り口の女に気づき、すたすたと女の方へと歩いて行った。
そしてあろうことか、女のすぐ横に立って女を凝視したのだ。
キスができるほどの距離だ。
もちろんそこには遠慮というものは全く存在しない。
すぐ横に誰かが立って自分の顔をまじまじと見れば、見られた方は当然気づくだろう。
しかし見られている女に、なんの反応もなかった。
それは自分を見ている女を、あえて無視しているように見えなかった。
本当に気がついていない。
そんな感じだ。
まさに眼中にないとはこのことだ。
――気づいてないのか。
桜井はもう一度見た。
桜井から見て、険しい目つきの女が自分を見ている女に反応しないのは、どう見ても気づいてないだけに見えた。
それほどまでに全ても神経を集中させて、マンションをにらみつけているのだ。
ふくよかな中年女はしばらくじっと見ていたが、まるで反応がないのであきれたような顔を残して、その場を立ち去った。
それからしばらくして、マンションを親の仇のように見ていた女も、その場から消えた。
――ほんと、なんなんだあの女は。
桜井の脳裏には不可解という言葉しか浮かんでこなかった。
大場はマンションに住み、目的を果たすために行動した。
とにかく情報を集めること。
それにつきるのだが、大場は住んでみて、予想以上に自分がマンション中の注目を集めていることに気がついた。
考えてみれば当然なのかもしれない。
空き部屋が何十とある巨大マンションで、死人が出たばかりの部屋をわざわざ契約し、そのまま住んでいるのだから。
しかもそれが女子大生一人なのだ。
大場もマンションに関心があるが、マンションの住人も大場に興味があるのだ。
したがって目的を遂行するのに、思ったほど苦労しなくて済んだ。
なにせ多くの人が野次馬根性で大場を見、中には大場に話しかけてくる人さえいるのだから。
もちろんストレートに「なんであんな部屋に住んでいるんですか?」と聞いてくる人はいない。
しかし避けながら話をしていても、結局知りたいのはそこなのだ。
だから大場が「自殺した人がいるみたいですね」と直球に話を振ると、みんな少し興奮しながらいろいろと聞いてくるのだ。
その好奇心丸出しの質問を適当にかわし、大場は自殺した岡田たまきの話に持っていく。
巨大マンションと言うだけあって、岡田たまきと会ったことがない人もいるが、大場が会うのが必然的に大場の部屋の近所に住んでいる人が多いため、多少なりとも話が聞ける人が何人かいた。
しかし残念なことに、岡田たまきがなぜ自殺をしたのか、どんな悩みを抱えていたのかというたまきの心象にかかわる話になると、みなよくわかっていないことが大場にはわかった。
巨大マンションの近所付き合いとはその程度なのだろう。
――けっこう話が聞けたのに……。
大場はいきどおりを感じたが、まだ目的は達成されてない。
このまま調査を続けることにした。
それがいつまで続くのかはわからないが。わからないが大場はやめるつもりは全くなかった。
桜井の妹のあんりが大学を卒業した。
そして就職も決まった。
なかなかいい会社に就職することができた。
そこまではよかったのだが、なんとあんりが桜井の住むマンションに引っ越すと言う。
同居ではない。
棟も違う。
その理由は就職した会社から近いからだ。
確かに近い。
桜井が今務めている会社とは比べ物にならないほどに。
それでもここ最近、連続して自殺者が出たマンションに住むなんて。
桜井が言うと、あんりが言った。
「でもお兄ちゃんだって住んでいるじゃない」
そう言われると返す言葉がない。
自分が今住んでいるマンションを、不吉だから危険だからやめろと言っても、まるで説得力がない。
それの大場さやのように自殺者の出た事故物件に住むわけでもない。
超巨大マンション。
開いている部屋は常にいくらでもあるのだ。
「ご近所さんだから時々遊びに行くわね」
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――あれは……。
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