びらん

ツヨシ

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最近けっこうな噂になっている。
マンションの入り口に立ち、マンションをきわめて怖い目でにらみつけている女がいるということを。
横を通るときにちらと見たが、噂通り尋常ではない目でマンションを見ていた。
どう見ても普通ではない。
大場はバイクを停め、おりた。
バイクの駐輪場は、車の駐車スペースと塀の間にある細い道を通らなければならない。
エンジンをかけたまま通る人もいるが、大場はそれを危険と感じていつもバイクを押して駐輪場まで行っている。
そしてバイクを押している大場は、急に強い視線を感じた。
――えっ?
マンションンの入り口に立つ女の横を、これまでたくさんの人が通り過ぎている。
中には近くでじっと女を見た人もいたし、それだけではなく声をかけた人もいたそうだ。
しかし女は、どんな状況でも全く反応しなかったと聞く。
じっと目を離さずにマンションをにらみ続け、一瞬たりとも目を離すことはなかったという。
それなのにあの女は、今は大場を見ているのだ。
強い視線で。
ただマンションを見ていたときのように、ある種の敵意を感じるような目ではない。
そこにはそんなものはなかった。
それでも力強い眼力であることには変わりがない。
――いったいなんなの?
大場はバイクを押し続け、そして曲がった。
すると女の視線は感じなくなった。
どちらにしても曲がった時点で女から大場は見えなくなったはずなのだから。
原付を停めて、大場はバイクを押してきた道を戻った。
駐輪場の先は行き止まりで、そうしないと自分の部屋に帰れないからだ。
女がまだいるかと思ったが、女の姿はどこにもなかった。
しかし声をかけられても無反応でマンションを見続けることをやめなかった女が、どうして大場を鋭く見ていたのだろうか。
大場は考えた。
しかしなにもわからなかった。
わかるはずがない。
あの女のことはなに一つ知らないのだから。

少女は屋上へ登ってみたいと思った。
少女は時たまそう思うことがあった。
理由は自分でもわからない。
幼い女の子の思い付きに、理由などないのかもしれない。
しかも屋上は、自分が住んでいる階のすぐ上だ。
そして少女はこれまでに何度か屋上へ行こうとしたことがあった。
しかし今まで一度も屋上に行ったことはなかった。
入り口にいつも鍵がかかっているからだ。
それでも少女はまた屋上に行こうとした。
そして入り口に手をかける。
開いた。
今まで一度も開くことのなかった扉が、幼い女の子の手で開いたのだ。
少女は嬉しくなって飛び跳ねながら屋上に入った。
そして見た。
なんにもない。
コンクリートの床。
そしてブロック塀。
塀の上は金網となっている。
なにかあるとすれば、隅にある物置のようなものただ一つだ。
その上にはなにか太い円柱のようなものもあるが、少女の興味を引くものではない。
――うーん。
少女は不機嫌になった。
こんなつまらない場所はないと思った。
心のどこかで、なにかはわからないが、ないか楽しいものがあると思っていたのだ。
しかし楽しいものなどなかった。
もう二度とこんなところには来ない、と少女が思っていたとき、物置の陰からなにかが突き出ているのが見えた。
それは大人の女の顔だった。
黒髪で顔の色はよく見る肌の色ではなく、白に近い灰色だった。
少女は自分のまだ短い人生の中で、こんなにも不気味な顔色の人を見たことがなかった。
女は物置の陰から首だけを突き出して少女を見ていた。
ただその顔の位置が、幼い少女が見てもわかるほどにやけに低い。
首から下は全く見えないが、いったいどんな体勢をしているのだろうか。
奇妙この上ない女だが、少女は幼すぎて頭がそこまで回らなかった。
ただ不思議なものを見る目で、女を見ていた。
すると女が言った。
言った? 
感じた? 
耳から聞こえてきたのではない。
それは少女にもわかった。
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