びらん

ツヨシ

文字の大きさ
18 / 22

18

しおりを挟む
「そうなんですか。でも一人一人なら勝てる相手なのに、なぜ五人そろうまでびらんが待つと思うんですか?」
「びらんは恨みと憎しみの塊だ。自分に害がない人間でも平気で殺している。そこに自分に敵対する人間が現れた。これはびらんにとっても予想外だっただろう。そんなとき、悪霊ならどう考えるか。恨みと憎しみにまみれた存在ならどう行動するか。たぶんそっちがその気なら、五人まとめて殺してやろうと考えるだろう。いわば今のこの状態は、びらんが私たちと戦うのを待っていると言えるだろう。だから五人そろうまで手は出してこない。五人そろったところでやりあうのが、今のやつの思うところだろう」
「そうですか」
「だから私たち五人がそろった時が、封印の準備が整った時が、びらんとの戦いになるだろう」
「わかりました。じゃあそれに備えます」
「そうしてもらうとありがたい」
「では。あっ、息子から着信がありました」
「おそらく息子さんのところにもびらんがでたんだろう」
「でしょうね。では失礼します」
「うん。こっちこそ失礼する」
電話は切られた。
二人の前にびらんが現れた。
おそらく草野信一の前にも。
そして桜井や大場の前にもその姿を現すことだろう。
――さて、ないとは思うが二人がびらんを見て尻込みしなければいいのだが。
本部は少しだけ不安になった。

桜井は仕事が終わってマンションで夕食を食べていた。
その時である。
何の前触れもなく、テーブルのむこうにいきなりそいつは現れた。
白に近い灰色の肌の、生気というものが全く皆無な顔をした女性。
目は深い穴のように黒い。
そして成人女性の顔の下に、三歳くらいの幼女の体があった。
首のところは目で見てもどうなっているのかよくわからない。
とにかくどう見ても生きている人間とは思えない。
――びらんだ。
桜井はそう思った。
今自分の前にわけのわからないものが現れるとしたら、びらんしか考えられない。
おまけにびらんは、若い母親と幼い娘の二人でびらんになっていると聞いた。
こいつは成人女性の顔と幼女の体を持つ。
びらんと考えるのが当然だ。
桜井の驚きは大きかったが、恐怖とかそういうものはあまり感じなかった。
それはびらんがそういう空気を醸し出していたからだ。
びらんは見ている。
ただそれだけなのだ。
そこにはなんの思考も感情も見いだせなかった。
しばらくのままだったが、やがてびらんはテーブルの向こうからすうっと消えた。
桜井は少しの間びらんの消えたあたりを見ていたが、やがて我に返り、電話を手にした。
相手は本部だ。本部が出た。
「もしもし本部さんですか。桜井です。たった今私の前にびらんがと思われるものが現れました」
「そうか、やっぱりな」
「やっぱりとは、本部さんのところにもでたんですか。びらんは」
「私のところにも、草野親子のところにも出てきたよ」
「そうですか。すると……」
「そう。大場さやのところにも出て来るな」
「そんな」
「心配するな。私たちを今すぐにどうこうしよういう気は、やつにはない。そして封印を始めるまでは安全だ」
「そうなんですか」
「そうだな。桜井さんも感じただろう。今のびらんには明確な敵意はない。敵意や殺意を出すとしたら、五人が封印を始めた時だ」
「そうなんですね」
「悪霊にはそういうやからが多い。自分の力に自信があるし、敵意を持つ相手には、相手が完全な状態であるときに叩きたい。強い恨みや憎しみは、強い想いはそれが自分の自我をも強くするということだな。プライドと言った方がわかりやすいか。だから自分に敵意を向ける相手を、自分が有利なように相手に不利なように殺したりはしない。五人が万全の時に、五人まとめて殺したいのさ」
「悪霊ってそういうものなのですか?」
「うむ。特に強い悪霊とはそういうものなのさ。私は若いころからさんざん見てきたが、みなそうだった。ところで桜井さんはびらんを見ただろう」
「見ました」
「どう思った?」
「どう思ったって。人間ではない化け物だと思いました」
「そうではなくて、怖いとか、こんなやつとやりあうなんて嫌だなあとか、思わなかったか?」
「それは全然思いませんでした」
「じゃあびらんを封印するという意思は、変わりはないんだな」
「ええ、少しもありません」
「よかった。さすが、私がみこんだけのことはある」
「ええ、少しも揺るいでいないです」
「それはよかった。おっと、着信だ。大場さやからだな」
「では大場さんのところにも」
「うむ。びらんが現れたんだろう」
「そうですか……」
「心配そうな声だが、おそらく心配には及ばないだろう。では大場さやの電話に出るぞ。それじゃあ」
「はい、お疲れ様です」
電話は切られた。
おそらく大場さやからびらんを見たと連絡が入ったのだろう。
大場はどう感じたのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...