女とじゃイケなかったので男としたらめくるめく経験をして恋に落ちました。

乃木のき

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 遊里と過ごした日の後が休日でよかった。
 さんざん酷使したお尻は鈍く痛み、中にはまだ遊里の存在があったから。このまま真面目な顔で仕事をするなんて絶対に無理だ。

 タクシーで自宅に戻るとそのままグッスリと眠った。
 それは体中がリセットされたように軽やかで、何年振りかに夢も見ないまま深く眠った。
 翌日、仕事に行くと小泉がワクワクとした顔で近づいてきた。

「なあなあ。どうだった?」

 全身で好奇心を表されて彰仁は間髪入れずに嘘をついた。

「残念でした。期待するようなことは何もなかったよ」

 あの夜のことは誰にも言いたくなかった。それは恥と言うより大切な記憶を自分の中だけにとどめておきたいと思ってしまったから。
 決して遊里との時間を後悔しているわけではない。

「からかわれただけ。あの後ふたりで軽く飲んで終わり」
「えーマジで? めくるめく体験しなかったの?」
「するはずねーだろ」

 めくるめくどころか細胞が全部入れ替えられたかのような体験。あんな事二度とないかもしれない。
 だけどすました顔で小泉に嘘を吐く。

「なんだーつまらん」

 小泉も半分からかわれたと思っていたのだろう。彰仁の顔をチラリと眺めてすぐに納得したようだった。
 聞こえないように小さく息を吐く。

 遊里とはもう会うこともないだろう。
 お互いに連絡先の交換もしなかったし、そもそも本名じゃないかもしれないし。ほんの一瞬の夢。甘くとろけるひと時。
 それだけでも十分彰仁にとっては勇気になった。

 セックスでイケない身体じゃないってわかったから。
 ちゃんと気持ちよくなれるし、一度だけじゃなく何度だって達することが出来る。
 その自信が余裕に繋がったのかさらにモテるようになった。フェロモンが漏れてるんじゃないかと思うほどアプローチがすごい。

「ちょっと、和田さんどういうことですかね?」

 あまりにもモテっぷりを発揮する彰仁に小泉は文句タラタラだ。どういうことなのか彰仁にだってわからない。

 多分遊里の植えた種が芽吹いたのだろう。

「誰か一人くらいおれに寄越せよお」
「そう言われてもあげられるものでもないしね」
「むかつく! なんだその余裕たっぷりで、くそお」

 突っかかってくる小泉を軽くあしらいながら、これはチャンスじゃないかと悪魔が囁いた。
 あれだけイケたんだ。もしかしたら今度こそセックスで同時フィニッシュを体験できるかもしれない。
 いやいやその為だけに好意を利用するなんて人の風上にも置けない。 

 グルグルと回る懊悩を止めたのは仕事帰りに偶然出会った元カノだった。

「久しぶり!」

 明るい声をかけられて振り返ると艶やかなショートボブの女の子がニコニコと笑顔を浮かべている。
 遊里との夜からひと月くらい後の事だった。
 別れた気まずさなど皆無のくったくのない笑顔に彰仁も笑みを浮かべ返した。

「ああ、久しぶりだな」
「元気だった?」
「萌香も元気そうだな」

 なんとか名前を思い出して、どうして付き合って別れたんだったかと記憶をたどる。そこまで長続きをした女の子はいないから記憶もあいまいになっている。

「元気っていうか、まあ普通っていうか。彰仁は相変わらずかっこいいね」
「そういうお前も変わんないな」

 話していると記憶が甦ってくる。
 友達の結婚式で出会った萌香とは強くアプローチされて親しくなった。流されるように好きになったと言ってもいい。可愛い見た目通り理想のお嫁さん力を発揮してくれて両親の受けもよかった。
 彰仁の身体のことも理解しようとしてくれて……最後は他の人を好きになったと振られたんだった。
 
「彼氏とはうまく行ってるのか?」
 
 聞けばシュンっと眉を下げて「今フリーだよ」と答える。そして一番かわいく見える角度で彰仁を見上げると、ちょんっと袖先を掴んだ。

「彰仁は? 誰か……いるの?」

 一瞬遊里の顔が頭をよぎった。
 なんで今? と自問しても答えはない。

「今はいないよ」
「だったら……」

 甘えるような視線を向けられてどうするべきか迷った。
 こんなことで身体の関係を持つなんて最低じゃないのか。でも誘ってるのは彼女だし昔ダメだった相手と今どう変わったのか知りたい気もする。

「もし時間あったら、ご飯でも行かない?」

 上目遣いで誘われて「いいよ」と答えたおれを遊里は笑うだろうか。

 ホテルに入るととたんに罪悪感に襲われた。
 好きでもない人とセックスなんてしないよと言ったくせに、今自分を試したくてこんなことをしている。
 萌香と抱き合いながら遊里のことを思い出していた。

 あの時あいつはこうしてくれたな、とか、こうしたら気持ちよかったなとか、まるでなぞるかのように萌香を試した。
 遊里と違って小さくて華奢な身体。
 強く抱きしめたら折れてしまいそうな儚さに何故か心が騒がない。

___気持ちいいね、彰仁さん

 ふいに耳元に遊里の声が聞こえた気がした。
 そのとたんあられもない場所が疼いて、彰仁は唇をかんだ。

 柔らかく膨らむ胸を揉んで先端をこすると萌香から高く細い声が漏れた。
 筋肉とは無縁のモチモチとした肌は吸いつくように気持ちいいのに、潤むくぼみからはとろけるような泉が湧いているのに、彰仁の欲望はそこに反応を示さない。

 イかないどころか全く勃たない。
 情けなく項垂れているだけだ。焦るほどに極度の緊張をもたらした。

(マジかよマジかよマジかよ!)

 ならばと彼女の愛撫に熱中する。
 気持ちよさそうに乱れる姿を見たらさすがに興奮するだろうと思うのにいつまで待ってもそれは形を変えようとしなかった。

 それに気がついた萌香はそっと体をずらした。

「……最悪じゃん」

 さっきまでの喘ぎは演技だったのかと思うほど冷酷に萌香は彰仁を見下ろした。

「やっぱ顔と条件はいいけど、体は全然だめじゃん」

 吐き捨てられた暴言を受け止めて彰仁は「そうだな」と答えた。

「俺の身体はやっぱおかしいんだよ」

 遊里とのセックスではあれだけ乱れたのに。全身の毛穴が開くような快楽が押し寄せて、溺れるかのように喘ぎまくった。
 あの時だけだった。遊里とじゃなきゃ気持ちよくなれないのか。

 彰仁は泣きそうに顔を歪めながら呟いた。

「こんなおれはどうしたらいいの」

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