sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう

乃木のき

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第一章 First love

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 会場である繁華街にあるカラオケは、にぎやかな音と色が氾濫していた。
 普段来ることのない場所に少し怯みながら入ると受付カウンターのそばに元クラスメイト達がワラワラと集まっているのが見えた。
 目敏くこちらに気がついた女子たちのキャーっという歓声が上がる。

「佐藤くん、こっちこっち!」

 久しぶりの苗字呼びに懐かしさを覚える。
 中学の頃は今以上に女子が苦手で距離を置いていたから、蜜を名前で呼ぶのは男子くらいなものだった。

「どうも……」と愛想もない返事を返しても、女子たちはキャッキャと盛り上がりすぐに囲まれた。逃げられない。

「久しぶり! 来てくれて嬉しいよお♡」

「高校に入ってさらに美しさに磨きがかかってるう♡」

「や~ん王子様健在♡」

 語尾にハートが飛び交う女子パワーに怯むように口元が引きつった。早く誰か助けてくれ。

 中学の頃はまだもう少し素朴だった気がする女子たちは、蛹が蝶に化けたようにキラキラと眩さをまき散らしている。
 こんなにケバかったっけ、と思うくらいしっかりとしたメイク。
 押し付けるような甘い匂いが強く香って酔ってしまいそうだ。
 
 やっぱり女子は苦手だとさりげなく帰ろうと逃げ腰になった時だ。「みーつーけーたーぞー」と襟首を捕まえられた。

「さり気なく帰ろうとすんな」

 振り返ると三田だった。
 見逃して、と手を合わせたけれど許してもらえなかった。

「ここまで来て逃げるなよなあ」

 たった数か月は同じように制服姿だった三田もかなり気合の入ったオシャレをしていた。髪型もちゃんと整えられている。あの頃寝癖をつけたまま登校していた三田とは思えない変わりっぷりだった。
 それでも人懐っこい笑顔はそのままだ。

「この前の電話ぶりだけど久しぶりだな」

「うん。っていうかめっちゃおしゃれになってない? びっくりした」

 女子だけじゃない。
 男子だって負けずにみんなおしゃれになっている。普段着に毛が生えた程度の蜜の方が場違いのようだった。

「そういう蜜は相変わらずキラッキラの王子様だなあ。天然100%無添加って感じ」

「なにそれ。バカにしてる?」

 唇を尖らせると三田は「してないしてない」と背中をバシバシと叩いた。

「蜜はなんもしなくても昔からかっこいいねってこと。でもちょっと雰囲気が変わったな」

「そう、かな」

 実はここ最近いろんな人に言われるようになっていた。
 なんとなく雰囲気が変わったねって。柔らかくなったという。それはきっと周防の影響だ。
 彼とのことで蜜は大きく成長したと自分でも思う。

 小さな殻をメキメキと破って大人への階段を一段飛ばしくらいでかけあがっている。それでも遅いくらいだ。遥か先にいる周防には全然届かない。

 だから褒められるのは嬉しい。
 ほんの少しだけ周防に近づける気がするから。

 ああ、やっぱり駄目だな。
 どこにいても、誰と話していても全部周防に結びついていく。

 ふたりで話し込んでいると近くにいた女子たちが様子を探るように近づいてきて、会話に乗り込んできた。

「楽しそうだね、わたしたちも混ぜてよ♡」

「三田ばっかりずるいよお。独り占め禁止♡」

 囲まれて逃げ場がない。まるで獲物を狙う肉食獣のような欲望がにじみ出ていて、恐怖にかられるくらいだ。
 下手したら食われる、と本能が危険を叫んでいる。

「今日はゆっくり話そうね♡」

 やっぱり今からでも帰りたい。
 三田に助けを求めると女子たちに囲まれてウキウキなのか鼻の下が伸びている。全然役に立たない男だ。

 みんな集まったからとゾロゾロ入ったのは大きな個室で、広めのソファにテーブルというセットがいくつも並んでいる。

「はーい席順を決めまーす」と用意のいい幹事がマイクを手に開催の準備を始めた。
 クジを引き自分の座る場所が決まると、ラッキーなことに三田と同じテーブルになった。
 人見知りが治らない蜜にとってはかなり心強い。
 三田も安心したようにうなずいている。

 その他に女子2人が同じテーブルになった。名前をかろうじてわかるくらいの接点のない人たちだった。

「よろしくね」と大人びた女子が髪をかき上げた。もう一人は大人しそうな子でアンバランスな組み合わせだけれど二人は仲が良さそうだった。
 静かな雰囲気にホッとする。

「こちらこそ」

 蜜から遠く離れた女子たちからブーイングが起きていたけれど、そこから離れられてよかったと密かに胸をなでおろした。あんな一軍に入っていたら精神が持たない。
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