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第一章 First love

同窓会

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 周防との距離は適度に保たれたまま季節は動いた。
 最初こそおかれた距離にさみしくなったけど、毎日会えるし普通に話したりできるからそれだけでもいいことにする___なんて強がりを心の中で繰り返している。

 だって仕方ない。
 好きな気持ちは変わらなかったし、2人の立場も同じように変わらないから。平行線ってこういうものなんだなとひとつ賢くなる。

 中学の同窓会をやろうと連絡が来たのは秋も深まったころだった。
 吹く風も冷たくカサカサと枯葉が舞う季節。

「同窓会って早くない?」

 電話越しに中学の時に仲が良かった三田みた興志こうしに言うと「だよなあ」とのんびりとした返事が返ってきた。

「でも高校に入って半年くらい経ったし、そろそろ昔の友達も大切にしようねって意見で盛り上がったらしくてさ~」

 とりあえず正規の学年全体の同窓会ではなく3年生の時のクラスで集まって遊ぼうよという話らしかった。
 マンモス校だったわりにクラスの雰囲気はよく、それなりに仲の良かった印象がある。

「どうしよっかな」

 自意識過剰と言われるかもしれないけど、また女子に囲まれるのかと思うと少し気が滅入った。今は穏やかな高校生活を送れているからなおさら。
 男子だけの気楽さに慣れてしまえば女子の騒がしさは不快ともいえた。

 三田は蜜の気持ちを見抜いたのか「女がいるから嫌だとか言うなよ贅沢者め」と先手を打った。

「つーかもしかして蜜って女ダメな系? そっち男子校だよな」

 聞かれてギクリとする。
 女の子が苦手なのは自覚していたけれど恋愛対象が男とは全く思っていなかった。というか恋愛自体に興味がなかったから。

 でも周防に恋をして「もしかして男性が好きなのか?」と自問したけれど答えはノーだった。だって小石川にも太一にも裕二にもときめかない。
 もしかして、が、絶対に起こらない。
  
 周防だけが特別なのだ。

「そういうんじゃないけど。でも女子は苦手。囲まれた時の迫力がさ……」

 ぼやくと三田はフンと鼻を鳴らし「絶対参加なお前」と嚙みついた。電話の先で鼻息を荒くしている姿が想像できた。

「女子が苦手、とか言ってみてーわ。囲まれたこともないしさ」

「言えばいいじゃん」

「言うはずねーじゃん。大歓迎だよ俺は!」

 真正直な三田の迫力に蜜は笑ってしまい「興志が行くなら一緒に参加でいいよ」と答えた。
 昔から素直で真っすぐで正直な奴だった。でもそれで玉砕してばかりなのも思い出す。

「でも女子とどうこうっていうのは無しでね。恋人を作るためとかそういうのなら行かない」

「わかった。言っとく」

 蜜も参加、と呟くと、三田はさっきの会話を繰り返した。

「っていうかやっぱあれなの、男子校って恋人が男的な」

 まだ終わってなかったのか。
 確かに男子校と言えばそういう勘違いをされたりもするけど直接聞かれたのは初めてだ。

「いや?」と蜜は反論した。
 けっこうみんな外に彼女を作ったりしているそうだから。太一もそうだ。

「ぼくの友達は女子大生と付き合ってるからな。バイトとかそういうので外部に彼女がいる人も多いみたいだよ」

「女子大生!!!」

 かぶさるように三田の大声が響く。キーンとした痛みに耳を押えると興奮しているのか「紹介して!!!」と食いつきがすごい。

「なんだよそれ女子大生って、おい。合コン参加でお願いします」

「合コンって。遊ぼうって誘われてはいるけど……そうだね、機会があれば」

 そのうちね、と言ったまますっかり忘れていた。
 太一も忙しいのかあれ以来誘っても来なかった。今はバンド活動がかなり活発らしく放課後もすぐにいなくなる。

「ありがとうございます! 蜜様!」

 今日電話してよかった、と三田はかなりテンションが高くなっているようだった。声が興奮を伝えている。

 そんなに女子大生っていいかな。

 想像してみる。
 女子大生と一緒にいる自分を。綺麗でおしゃれでいい匂いのする年上の女の人。隣でおしゃべりしたり、仲良くしたり……やっぱりなんか違うかなとすぐに答えが出た。今はまだ周防に片思いでいい。

「じゃあ、当日会えるの楽しみにしてるな。その前に合コンでもオッケーだけど」

「ははっ、ないと思うけど。うん、会えるの楽しみにしてる」

 電話を切るとベッドに転がった。
 中学時代っていうとまだ周防を知らなかった頃。あの頃毎日をどうやって過ごしていたのか、今となっては思い出せない。
 霞に覆われた遠い昔のことに思えた。

 あの頃からまだ数か月しかたっていないのにずいぶんと環境も変わった。蜜自身さえも。
 昔の自分より今の方がよっぽど人らしい。


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