83 / 119
第二章 Lion Heart
3
しおりを挟む
「タコス……食べたことないです。お菓子のとは違うんですよね?」
赤いパッケージのお菓子なら食べたことがあるけど、それとは絶対違うはず。周防は笑い声を立てて「ちょっと違うかなあ」と言った。
「でもアレンジしたりタコライスにかけたりっていうのもあるから、違うとも言えないのかも。ごめん詳しくはわかんないや」
「適当だなあ。でも美味しいなら食べてみたい。先生のおすすめなんでしょ」
「よっし、行ってみよう」
南国ムードいっぱいのお店で初めて食べるタコスはスパイシーでかなり美味しかった。辛いサルサソースをかけて好みの味にできるのもいい。
見ると周防は辛さを足さずに食べている。
「先生は辛いのダメですか?」
「う~ん、あまり得意じゃないかな。甘党だからさ、ほっぺたが落ちそうなくらい甘いのがいいな。そういう蜜はさっきからバンバン辛み足しだね」
「ぼくの父……本当の父っていうんですか、カレー屋なんですよね。そこの辛さマックスを食べ慣れているからこれくらいなら全然っていうか。汗をバンバンかくくらい辛いのが好きなんです」
「カレ―屋?!」
「はい。実の父がカレー、養父が和菓子っていう辛いと甘いのベクトルがすごくて」
「へ~」
周防は感心したように息を漏らした。
「知らなかったな」
「ですよね。言う機会もなかったし。今度行ってみますか?」
「ぜひ。でも俺、カレーは甘口なんだけど」
大きな体に似合わないお子様カレー発言に蜜はふき出した。
「本気で言ってますか? 甘口って。小学生じゃあるまいし」
「バカにすんなよ、中辛くらいまでなら頑張れる」
ツンと顎をそらす周防がおかしくて、蜜は腹を抱えて笑った。本当に知らないことばかりだ。
「ぼくたち結構お互いの事知らないですね」
蜜も周防のことを知らなすぎるけど、その反対もしかり。
元々父を知っていたからこうしてわかってる風だけど、本当の蜜のことをあまり知らない。
お互い遠慮してなにも聞かな過ぎた。
「先生。ぼくたちもっと話したほうがいいですよね。なんにも知らないってこの前気がついてショックでした」
「ほんとだな。ちょっとビックリしてる」
テーブルの上でコソっと指を絡めあった。
どうせみんな自分たちが楽しむことでいっぱいなんだ。こんなところで手を繋ぎ合っている男がいたって誰も見ていないし、見られたところでどうってこともない。
ここでは教師と生徒じゃなく、ただ一組のカップルでいられる。
「もっと教えて、蜜の事」
「先生のことも知りたい」
今までは正面で向き合う時間より隣に並び合うことの方が多かった。車で会ってばかりだから仕方がない。でも向かい合ってお互いの目の中に姿を映すともっと違うことがみえてくる。
上辺だけじゃなく、もっと深いところまで。
食事を終えて外に出ると変わらず賑やかな音楽が流れていた。真っ青な空の下で奏でている彼らも気持ちが良さそうだ。
ブラブラとお店をのぞきながら歩いていたら大きな観覧車の前に出た。
「乗ってみる?」
誘われて頷いた。
一周15分。60メートルの高さを誇る観覧車に乗るとゆっくりと上昇し視界が変わっていった。
青空が近くなる。
すぐ下には穏やかに波打つ海が見えた。
膝をくっつけて向かい合うとなんだか照れくさくてまともに目が合わせられなくなってしまった。
「なんでそっぽ向くの?」
ツンツンと膝を突っつかれて「いや」と言葉を濁す。こんな至近距離、明るい場所でいたことがなかったから。
学校という枷の前ではなんともなかったのに、いざデートとなればその近さにドキマギしてしまう。
周防は慣れているのだろうか。
こんな風に誰かとデートをしてきたのだろうか。
だけど横目で見ると周防の耳も赤くなっている。照れているのかもしれないと思ったらちょっとだけ安心した。
嬉しさと恥ずかしさと。
同じ気持ちでいるのかもしれない。
ゆっくりと登り続ける観覧車は下界にいるひとたちを米粒のように見せ、天井近くいる自分たちを世間から隔離してくれているようだった。
今だったら素直になれるかもしれない。
蜜は息を吸うと、言った。
「先生。アメフトがんばってください」
赤いパッケージのお菓子なら食べたことがあるけど、それとは絶対違うはず。周防は笑い声を立てて「ちょっと違うかなあ」と言った。
「でもアレンジしたりタコライスにかけたりっていうのもあるから、違うとも言えないのかも。ごめん詳しくはわかんないや」
「適当だなあ。でも美味しいなら食べてみたい。先生のおすすめなんでしょ」
「よっし、行ってみよう」
南国ムードいっぱいのお店で初めて食べるタコスはスパイシーでかなり美味しかった。辛いサルサソースをかけて好みの味にできるのもいい。
見ると周防は辛さを足さずに食べている。
「先生は辛いのダメですか?」
「う~ん、あまり得意じゃないかな。甘党だからさ、ほっぺたが落ちそうなくらい甘いのがいいな。そういう蜜はさっきからバンバン辛み足しだね」
「ぼくの父……本当の父っていうんですか、カレー屋なんですよね。そこの辛さマックスを食べ慣れているからこれくらいなら全然っていうか。汗をバンバンかくくらい辛いのが好きなんです」
「カレ―屋?!」
「はい。実の父がカレー、養父が和菓子っていう辛いと甘いのベクトルがすごくて」
「へ~」
周防は感心したように息を漏らした。
「知らなかったな」
「ですよね。言う機会もなかったし。今度行ってみますか?」
「ぜひ。でも俺、カレーは甘口なんだけど」
大きな体に似合わないお子様カレー発言に蜜はふき出した。
「本気で言ってますか? 甘口って。小学生じゃあるまいし」
「バカにすんなよ、中辛くらいまでなら頑張れる」
ツンと顎をそらす周防がおかしくて、蜜は腹を抱えて笑った。本当に知らないことばかりだ。
「ぼくたち結構お互いの事知らないですね」
蜜も周防のことを知らなすぎるけど、その反対もしかり。
元々父を知っていたからこうしてわかってる風だけど、本当の蜜のことをあまり知らない。
お互い遠慮してなにも聞かな過ぎた。
「先生。ぼくたちもっと話したほうがいいですよね。なんにも知らないってこの前気がついてショックでした」
「ほんとだな。ちょっとビックリしてる」
テーブルの上でコソっと指を絡めあった。
どうせみんな自分たちが楽しむことでいっぱいなんだ。こんなところで手を繋ぎ合っている男がいたって誰も見ていないし、見られたところでどうってこともない。
ここでは教師と生徒じゃなく、ただ一組のカップルでいられる。
「もっと教えて、蜜の事」
「先生のことも知りたい」
今までは正面で向き合う時間より隣に並び合うことの方が多かった。車で会ってばかりだから仕方がない。でも向かい合ってお互いの目の中に姿を映すともっと違うことがみえてくる。
上辺だけじゃなく、もっと深いところまで。
食事を終えて外に出ると変わらず賑やかな音楽が流れていた。真っ青な空の下で奏でている彼らも気持ちが良さそうだ。
ブラブラとお店をのぞきながら歩いていたら大きな観覧車の前に出た。
「乗ってみる?」
誘われて頷いた。
一周15分。60メートルの高さを誇る観覧車に乗るとゆっくりと上昇し視界が変わっていった。
青空が近くなる。
すぐ下には穏やかに波打つ海が見えた。
膝をくっつけて向かい合うとなんだか照れくさくてまともに目が合わせられなくなってしまった。
「なんでそっぽ向くの?」
ツンツンと膝を突っつかれて「いや」と言葉を濁す。こんな至近距離、明るい場所でいたことがなかったから。
学校という枷の前ではなんともなかったのに、いざデートとなればその近さにドキマギしてしまう。
周防は慣れているのだろうか。
こんな風に誰かとデートをしてきたのだろうか。
だけど横目で見ると周防の耳も赤くなっている。照れているのかもしれないと思ったらちょっとだけ安心した。
嬉しさと恥ずかしさと。
同じ気持ちでいるのかもしれない。
ゆっくりと登り続ける観覧車は下界にいるひとたちを米粒のように見せ、天井近くいる自分たちを世間から隔離してくれているようだった。
今だったら素直になれるかもしれない。
蜜は息を吸うと、言った。
「先生。アメフトがんばってください」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
41
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる