虚像干渉

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1章

実家

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車から降り、コンクリートの隙間から生えた雑草を踏み歩き、虫の鳴き声に和ませられた中を通ると、ひっそりと息を潜め自然と同化した家が現れた。築何百年の家は玄関の木が腐り落ちていて、修復されていないそれは不用心にも程があった。
「ただいま」
「こんにちは」
玄関は手を添えるだけで簡単に開いた。
しばらく待っていたが誰も出てこなかった。それ以前に返事はなく、時計の振子と虫の鳴き声だけが家の中で響いていた。
念のためにと、もう一度声をかけたがやはり返事はなかった。とはいえ今は緊急事態なので勝手に上がらせて貰った。
地下室は僕たちが幼いころ秘密基地として遊んでいた。
いつまでも家に帰ってこないと、両親が心配して警察沙汰になるほど見つけにくい場所にあった。それ以前にそうなるのが当たり前だった。その場所を見つけたのが僕だったからだ。そして、その場所について話した人はいなく、知っているのは秘密基地で遊んだ僕と裕衣だけ。
僕がこの場所を選んだ理由は幾つかあった。
母が元気かどうか確かめるため、爆撃に耐えられる場所、そして難波も知らない場所であること。
特に最後の二つの条件が揃わないと、爆撃に巻き込まれたり、難波に見つかったりして戦わなければいけない可能性があるからだ。
地下室への入り口は、普通に生活していれば触れたくない所にある。そこに隠された階段を使って行かなければならない。
そう、その階段はトイレの中にある。
玄関の突き当りにトイレがあり、そこへ向かっていたが、狭い廊下を通るたび築何百年の床からミシミシと音が鳴った。
ようやくトイレに辿りついたが、その扉は傾いていて開けるのに苦労した。その間破れた障子からヒュウヒュウと風が入ってくる音以外何も聞こえなかった。
「おかしいな。母さん、居ないのか? いたら返事してくれ」
返事はなく外からの風が家の中を通り抜けていった。
母が居るかの確認とともに、誰にも見られていないことを確認した。僕はこの場所へ入るのを誰にも見られたくなかった。
返事がないことを確認した僕たちは地下室へ向かった。
地下室へ行くために、何百年も使われひどく黄ばんでいる便器を床から外した。便器を動かすと、下水道へ続く管と小さな扉が現れた。その扉はトイレの下にあったにも関わらず全然汚れていなかった。
最近、誰か此処に来たのではないかと思いながらも、僕はその小さな扉を開けた。小さな扉を開けると螺旋階段が出てきた。階段は昔のまま残っていて埃もたくさん散らばっていた。埃の形跡を見ると、誰も此処には入っていなかった。
誰かが見つけたという予想は外れた。予想が外れたことによって、僕たちはより安心して地下室へ行くことができた。
地下室には電気が通っていて階段から滑り落ちることはなかった。普通、地下室には日常生活に必要な道具は揃っていないが、なぜか此処には必要な物が全てあった。実は力を失う前、僕はこの地下室へ逃げて来ることが視えていた。しかし、その未来では日常生活に必要な道具が全然揃ってなく大変な目にあっていた。
その未来を視たときから誰にもばれないようにして、この地下室を少しずつ改造していった。始めは電気すら通っていなく階段の上り下りがまともにできなかった。そのため電気を通す工事を業者に頼んでいた。
電気が通ってからは、日常生活に必要な物を地下室へ運んだ。
今では、最低限必要なものは全て揃い、食糧は半年分確保してあった。
地下室に誰も居ないこと、尾行されていないことを確認して、僕たちは難波についての話を再開した。話を始めて数分もしないうちに爆撃音が遠くから聞こえた。
「難波……やっぱり計画を始めてしまったんか。僕はお前を止めるてやることができなか
った――ごめん」
僕は悔いていた。難波の行動に違和感を覚えながらも、疑いきれずに信頼していたことが僕の過ちだ。親友として疑って、いち早く難波の計画を止めるべきだった。難波を止めるのは僕たちでないといけない。だってそれは人類を敵に回す計画なのだから。
「これからどうするの?」
志桜里が聞いてきた。
未来が視えた志桜里がそう言ったということは、これから先の未来は僕たちの行動で何パターンにも広がる無限の世界があるということだ。
僕の虚像干渉が使えれば、また違った世界があったのかもしれない。
僕が虚像干渉を使えなくなったことで、その能力の中で最強の力が芽吹かなかった。
そのせいで、違った世界を作ることが難しくなっていた。
「未来の僕たちがこれから何をしたか分からない?」
「ごめんね、これからの事は分からないの。だからね、その未来は私たちがどのような行動を取ったのかで変わると思うの。唯一分かっているのが、五日後に私たちは中央国立公園で難波君と会うことだけなんだ」
「そっか……志桜里がそう言うのなら、何をしても未来は変わらないのかも知れないな。それなら、難波に会うまでの五日間で難波を止める方法を考えようか」
考えようか、とは言ったものの難波を止める方法が簡単に見つかるはずがなかった。
どれだけ考えても、それを難波が阻めば僕たちが負けるのは目に見えていた。
虚像干渉を持つ者同士が能力を使えば、その能力が相殺される。その時に僕たちが難波に勝てる可能性はない。武器を持たない人間と武器を持つ人間、双方が相まみえればその未来がどうなるのかは考えなくても分かる。
難波を止める方法が思い浮かばず、途方に暮れたまま四日間を過ごした。
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