虚像干渉

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2章

難波と機動隊

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「そうか、そうだよな」
そう呟いた難波は、何故か悲しい顔をしていた。どうして難波はこんなにも悲しい顔をしているんだ。難波の顔を見ていると、まるで僕の方が悪い人間みたいじゃないか。
「難波。難波はこの計画で本当は何がしたいんだ?」
「どういう意味だ?」
難波はその一言しか発しなかった。
「だって、難波は命乞いをした人を殺さない。でも、僕が疑問に思うのは、なぜ有能なはずの警察のトップを殺すのかという話しだ」
「ああ、それか。そんなこと、とても単純な理由でしかない。あいつらは、いくら銃で撃っても死なない俺を前にしても発砲してくるんだ。本当に馬鹿としか言いようがないだろ。しかも、自分たちはただ命令を出すだけで傷つくことがないはずなのに、自分たちの部下が戻ってくると、何をしているんだ早くあいつを殺せって言って、部下が無理だと答えれば、なら俺がお前たちを殺すぞと言って無理やりにでも俺と戦わせようとするんだ。やっぱり、本当に馬鹿だぞあいつらは。だから俺はその部下たちを可哀想に思って、部下たちの目の前で命乞いをするトップの人間を殺したんだ。部下たちはもちろん逃がしてやった。命乞いをする人間まで殺すのは可哀想だろ。俺にだってそれくらいの良心はある。久遠はこの警察の考えをどう思う?」
 僕の意見を聞きたくて長い間難波は、僕が質問した以外のことを話していた。難波には虚像干渉という力があるから、その質問に答える必要はないと思ったが、余りにも聞きたそうにしていたので、僕は答えることにした。
「難波、初めに聞きたいんだけど、虚像干渉で僕の答えは分かるはずじゃないんか?」
「まあ、そうだな。確かに虚像干渉を使って答えを知ってもいいが、俺は今のお前の意見が聞きたいんだ。もし、虚像干渉を使って知った答えがあるとして、今から久遠が答える意見が未来と一緒だったら俺は久遠に絶望する。だって、未来が変わり始めている今の世界を見ても、未来の意見と今の意見が同じなら久遠、久遠はいったいこれまで何を見て、何を経験してきたんだ。さっきも言ったが、俺は虚像干渉を使っていない。だから、久遠の意見を素直に受け入れられるだろう。でも、もし虚像干渉を使って答えを知っていたとして、今も同じ答えが返ってきたのなら、俺は久遠に本当に絶望する」
その後、難波が何かを言っていたが、僕には聞き取ることができなかった。
「分かった。難波がそこまで言うのなら、僕は素直に今の世界について意見をするよ。難波の計画には確かに反対だった。でも、内心では難波の意見に百二十パーセント賛成だった。その時は世界に面白さを見いだせなかった、そして、罪を犯す人など僕が思っている世界に無駄な人が居たから、それだけは賛成するつもりでいた。実際、難波が原子爆弾を発射した時は驚いた。そこから、僕の難波の計画への賛成は薄れていった。それに、僕の刑務所の脱獄に手を貸してくれるどころか僕を陥れていた。そこで難波への信頼はほぼ失われた。でも、この会館に来て難波に会って、実は死んだと思われていた人が生きていて、軍のトップで人間とは思えないことをしていた人を殺していたと知って、最初の爆弾の分の信頼、脱獄のこともなかったことにしてもいいと思っている」
 話の途中で、遠くの方からエレベータに乗ってこの階に来る直前に聞こえた声がした。
「機動隊が来たぞ。あのやかましい声は、松尾だな」
難波は何もかも知っているようだった。この声の持ち主も、僕の知らないところで難波は、こんなにも危ない部隊に関わることをしていたんだと知った。
機動隊はこの世界にとって脅威となるものが現れたときにのみ、全世界の優秀な人材を集めて作られるチームだった。
なぜか、僕は難波の親友なはずなのに、知らないことが多すぎて悲しい気持ちになった。
「話を続けるよ。難波は僕に計画を止めて欲しいと頼んだ。その頼みごとがある限り、僕は難波の計画を止めなければいけない。もし、それをあきらめて僕まで難波の計画に加わると、難波の味方になってしまう。味方になりたくないと言っているわけではないんだ。ただ、人を殺すということだけはしたくないんだ。それに、味方になったら計画を止めることが出来ないし。だから、僕は難波の計画を止める、そのためには親友であっても、味方にはなってはいけないんだ」
「分かった。久遠の意見が聞けて良かった。たぶん、俺や志桜里が虚像干渉によって見せられた未来の俺は死ぬんだろう。それも、俺にとって一番大事な人たちによって……」
難波の表情は相変わらず悲しい顔をしていた。それも、さきほどよりも表情が曇っていた。まるで朝が来て昼がきても、未だに雲の隙間から顔を出せないでいる太陽のようだった。難波のこんな表情を始めて僕は見た。
幼い頃から僕が見ていた難波の姿は、誰も俺に近づけさせない、それに、僕も志桜里にも誰一人として近づけさせないという強い意志を持っていた。難波の姿は僕たちから見ると、とても勇敢で犬のようだった。知らない人が僕たちに話しかけると、真っ先に難波が出て行って追い払っていた。たとえそれが誰であろうともだ。初めて小学生になった時も難波はそうだった。教師どころか、同級生でさえ初めは近づかせないようにしていた。
「難波、なんでそんなにも悲しそうな顔しているんだ?」
 難波は黙り込んだままだった。
特に何も考え込んでいる様子ではなかった。それでも、難波の表情が晴れるのには、まだ時間がかかりそうだった。
「僕はさあ難波。お前の計画に実は反対でもないんだ。僕はその計画をもっと別な形で進めたいと思うんだ。だって、難波の計画は有能な人だけを残した世界を作るって言ってたよな。でも、それじゃあ駄目なんだ。僕が思うにこの日本、いや世界にまともな人間なんか一人もいやしないんだよ。もう飽きたんだ、そんな奴らがいるこの世界に」
難波の表情が晴れてきていることに気付いた。今の言葉のどこで難波の気持ちが晴れたのかは分からないが、なぜか嬉しい気持ちになっていた。
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