虚像干渉

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2章

任務

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「お前ら、準備はできたか?」
 松尾は奇襲をかける準備ができていた。松尾の装備はとても無防備なものだった。防弾チョッキ一枚も着ないで唯一持っていたのが、松尾が軍隊入所当時から愛用しているP99、銃一丁だけだった。
 隊員たちの準備も順調に進んでいた。
「隊長、もう少しだけ待ってください」
 何人かの隊員たちは、まだ準備ができていないのか、焦り声で返事が返ってきた。
 準備のできていた隊員たちは、難波との戦闘に備えて軽い準備体操を始めていた。機動隊の準備体操と言えば、すごく派手で肉体的に疲労が激しいのもだと考えるかもしれないが、今隊員たちがしている準備体操はごく一般的なものだった。
 あれから何分が経過したのだろう。
 準備体操していた隊員たちは体操を終え、焦って準備をしていた隊員たちも後から遅れて体操を終えていた。
 松尾たちはその間、奇襲について話をしていた。奇襲が失敗に終わった場合の内容についてだった。話し合いの結果、奇襲が失敗した場合、松尾たちは即座に撤退し隊員の安全を確保することに決まった。
「向日葵、昴。奇襲が成功しようが失敗しようが第一に優先するべきは隊員の安全だ。それだけは絶対に覚えておけ」
「はい」
向日葵と昴は言った。
「お前ら準備はできたな、今から三階のフロアに階段を使って降りる。三階に着いたらもう奇襲は始まっていると思え。手加減はするな、相手は不老不死だ、死ぬことはない」
「はい。隊長、全身全霊をもって難波を捕まえましょう」
 全ての隊員はそう答えたが、松尾たち三人にとって一番重要なのは隊員たちの安全だった。安全さえ確保できれば無駄な命を失うことはない。それは、命に関わる以上に危険な任務はないからだ。そして、命に代わるほど大切なものはこの世の中にはない。
「お前ら行くぞ。絶対に難波を捕まえて誰一人として死ぬことなく帰る。それが今回の任務最後の難関だ」
「はい。行きましょう」
隊員たちは死ぬことに恐怖がないのか、それとも強がっているのか、どちらにしても、早く難波を捕まえに行きたいと言っているように、松尾たちには聞こえた。
 階段に足をかけるたび、恐怖に駆られているのか隊員たちの顔が険しくなっていく。それは機動隊の隊長という立場の松尾も同じだった。前の階、その前の階は、すぐに次のフロアに着いたのだが、この階段だけはやけに長く感じられた。ようやく三階に着くことのできた機動隊は、奇襲をかけるべく固まって行動をしていた。
 階段を下りてから何歩歩いたのか分からないが、すぐに目の前の方向から二人の男の声が聞こえてきた。
 話が聞き取れるまで近寄ると、奇襲が失敗してしまう恐れがあるので、機動隊はかなり離れた所から奇襲をかけることを迫られた。なぜ、離れた所から奇襲をかけなければいけなくなったのか。
それは、この三階のフロアには仕切ってあるものが少なく、機動隊とその男たちの間には薄い遮光版が置いてあるだけだった。
「隊長、あれは難波に間違いないですか?」
「そうだ昴。あいつは難波で間違いない。もう一人の男は例の奴か」
「隊長、あんまり話していると難波に気づかれますよ」
 向日葵は冷静にこの状況を捉えていた。
「そうだな。お前ら、これから奇襲をかける。くれぐれも油断するなよ」
「分かりました」
 隊員たちの声が一斉に聞こえてきた。
「お前ら、いくぞ」
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