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2章
機動隊本部
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向日葵は幼い頃から自衛隊員を目指していたが、自分にはそれになる力がないと自覚していた。夢は夢でしかない、そう思っていた向日葵だったが、高校のある時を境に向日葵はその夢を実現させることを決心した。
向日葵がそう決心したのは、自分の親友が殺害され、その犯人が未だに捕まっていないからだった。しかも、向日葵はその殺害現場に不運にも居合わせてしまったのである。
その事件の時、たくさんの人を救いたくて自衛隊に入りたいと思っている自分が、親友ただ一人守れないようでは夢を叶えられないと知り殺人犯に向かって行った。しかし、結果は向日葵の惨敗だった。何度も殴られ、蹴られ、血を吐いても尚、立ち向かってくる向日葵に殺人犯はいらつき、とうとう目の前で親友を、隠し持っていたナイフで切り付けた。
最初は、ただの窃盗犯だと思って何も考えずに飛び込んで行った自分が馬鹿だったと思った。人通りが少なかったのに、警察にも電話せずに飛び込んで、ボコボコにされ、親友も切り付けられ、向日葵は余計に無力さを感じていた。とうとう殺人犯に向かって行くのを止めた向日葵を見た殺人者は、向日葵の無力さを思い知らせるように友人を何度も切り付け、そして殺害した。
向日葵は動くことすらままならない状態だった。殺人犯に殴られ、蹴られた向日葵はひどく出血し、意識が朦朧とした中でその場を見ることしかできなかった。
助けが来たのは親友が死んでから一時間経ってからだった。
親友を殺害されたと向日葵は思っていたが、親友は気を失っていただけで、本当の死因は出血死だった。殺人犯は人を殺したと勘違いし逃走した。しかし、その殺人犯を目撃した人は少なく、捜査が進展することはなかった。結果、未解決事件として処理された。向日葵の意識が戻れば進展されると思われていたが、親友が殺されたというショックが強く犯人の顔を覚えていなかった。
「とりあえず今日は帰るぞ向日葵」
「分かりました……今日は戻りましょう」
「お前ら、今日は帰るぞ。上の階に居る奴らと合流だな」
機動隊は上の階に居る隊員たちに合流するため階段を上っていた。難波が階段を上がってから数分と過ぎていなかったが、すでに難波の姿はなかった。機動隊は全てのフロアに居る隊員たちと合流し本部に戻った。
「誰にもつけられなかったけど、難波は機動隊を殺していないだろうか。難波はそんなことしないと思うけど……」
僕が母の家に着くまで、人の気配が全くしなかった。本当のことを言えば、人の気配がすればすぐに分かる。最初の難波の計画の時点で、この地域の大半の人が亡くなったのだから、人が居るはずもなかった。
「ただいま」
母の家へと帰ると、そこには一通の茶封筒が置かれていた。茶封筒に差出人の明記はなかったが、すぐに僕宛のものだと分かった。母の家は山奥の方で、この家を知っている人は少ない。そして、大半の人が亡くなっている以上、この家のことを知ることができたのは、難波か機動隊のどちらかであることはすぐに察しがついた。でも、難波なら僕に電話をすれば話は早くに済む。わざわざ僕の手に渡るか分からない危険な賭けをしないだろう。そうなると差出人が機動隊であることは安易に分かった。
「機動隊が何の用だ」
茶封筒を開けて中の手紙を読んだ僕は驚かされた。そこには一文しか書かれていなかった。
そう書かれていたのは、機動隊に協力をしろという単純な文だった。
「機動隊に協力か……悪い話でもないな。どうせ機動隊は難波を止められない。でも、僕も機動隊も難波を止めたい――お互いの目的は一致している。僕一人で難波を止められるとは思わないし、ここは一つ機動隊の案に乗ってやるか」
手紙を読み終わった僕は独り言を呟いていた。一先ず裕衣たちに帰りを知らせるため、地下室に行くことにした。
地下室へ行きながら機動隊本部に電話をかけた。機動隊には僕が明日、松尾に合わせて欲しいという単純な話で終わらせた。機動隊の手紙も一文で終わっていたのだから、僕も一言で終わらせることにした。
「志桜里、恒平……ただいま」
「お帰り、竜也くん」
「お帰り、お父さん。僕寂しかったよ。でも僕頑張ったよ、ちゃんとお母さんの手伝いもしたし……他にも色々したんだよ」
「頑張ったな恒平、ありがとう。志桜里もありがとう。……帰ってきてすぐに言うのもあれなんだけど、明日からまた少しの間出かけてくるよ。でも、今度はすぐに帰ってくるから――難波との決着をつけてくるよ」
「うん。でも、今日はゆっくりできるんだよね。頼まれていたもの完成できたよ。かなり時間がかかったけど、これで難波君を止められるんだよね?」
「そうだね。その保証はないけどたぶん止められるよ。志桜里や難波が視た未来のように、難波が死ぬようなことは起きないと思う。僕だけに視えた志桜里たちと違う未来では、この薬があったから何かが変わるかも知れない。それに、パラレルワールドあることが分かってるんだ。絶対に未来は変わるよ、いや変えてみせる」
「頼んだよ竜也くん。竜也くんしか今の難波君は止められないんだからね。それと、もう一つだけお願いがあるの。難波君を無事に連れて帰ってきて。竜也くんには、まだその理由を話せないけど、難波君にも大切な人がいるってことだけは言っておくね」
「分かった。必ず難波を連れて帰ってくるよ。とりあえず、今日はゆっくりしようか。明日からまた行かないといけないから」
「そうだね、今日はゆっくりしようね。恒平も寂しかったし……私も寂しかったから」
僕は重要な話をした後、次の日の朝まで家でゆっくりと寛いだ。
志桜里と恒平と朝まで話をして、ご飯を久しぶりに家族と食べて、トランプをして遊んだり、僕が居なかった間できなかったことを一日の内にすることは難しかった。それでも、久しぶりに家族との時間を過ごせて楽しかった。
次の日の朝、僕は志桜里と恒平に家を任せて、機動隊の本部へと向かった。
向日葵がそう決心したのは、自分の親友が殺害され、その犯人が未だに捕まっていないからだった。しかも、向日葵はその殺害現場に不運にも居合わせてしまったのである。
その事件の時、たくさんの人を救いたくて自衛隊に入りたいと思っている自分が、親友ただ一人守れないようでは夢を叶えられないと知り殺人犯に向かって行った。しかし、結果は向日葵の惨敗だった。何度も殴られ、蹴られ、血を吐いても尚、立ち向かってくる向日葵に殺人犯はいらつき、とうとう目の前で親友を、隠し持っていたナイフで切り付けた。
最初は、ただの窃盗犯だと思って何も考えずに飛び込んで行った自分が馬鹿だったと思った。人通りが少なかったのに、警察にも電話せずに飛び込んで、ボコボコにされ、親友も切り付けられ、向日葵は余計に無力さを感じていた。とうとう殺人犯に向かって行くのを止めた向日葵を見た殺人者は、向日葵の無力さを思い知らせるように友人を何度も切り付け、そして殺害した。
向日葵は動くことすらままならない状態だった。殺人犯に殴られ、蹴られた向日葵はひどく出血し、意識が朦朧とした中でその場を見ることしかできなかった。
助けが来たのは親友が死んでから一時間経ってからだった。
親友を殺害されたと向日葵は思っていたが、親友は気を失っていただけで、本当の死因は出血死だった。殺人犯は人を殺したと勘違いし逃走した。しかし、その殺人犯を目撃した人は少なく、捜査が進展することはなかった。結果、未解決事件として処理された。向日葵の意識が戻れば進展されると思われていたが、親友が殺されたというショックが強く犯人の顔を覚えていなかった。
「とりあえず今日は帰るぞ向日葵」
「分かりました……今日は戻りましょう」
「お前ら、今日は帰るぞ。上の階に居る奴らと合流だな」
機動隊は上の階に居る隊員たちに合流するため階段を上っていた。難波が階段を上がってから数分と過ぎていなかったが、すでに難波の姿はなかった。機動隊は全てのフロアに居る隊員たちと合流し本部に戻った。
「誰にもつけられなかったけど、難波は機動隊を殺していないだろうか。難波はそんなことしないと思うけど……」
僕が母の家に着くまで、人の気配が全くしなかった。本当のことを言えば、人の気配がすればすぐに分かる。最初の難波の計画の時点で、この地域の大半の人が亡くなったのだから、人が居るはずもなかった。
「ただいま」
母の家へと帰ると、そこには一通の茶封筒が置かれていた。茶封筒に差出人の明記はなかったが、すぐに僕宛のものだと分かった。母の家は山奥の方で、この家を知っている人は少ない。そして、大半の人が亡くなっている以上、この家のことを知ることができたのは、難波か機動隊のどちらかであることはすぐに察しがついた。でも、難波なら僕に電話をすれば話は早くに済む。わざわざ僕の手に渡るか分からない危険な賭けをしないだろう。そうなると差出人が機動隊であることは安易に分かった。
「機動隊が何の用だ」
茶封筒を開けて中の手紙を読んだ僕は驚かされた。そこには一文しか書かれていなかった。
そう書かれていたのは、機動隊に協力をしろという単純な文だった。
「機動隊に協力か……悪い話でもないな。どうせ機動隊は難波を止められない。でも、僕も機動隊も難波を止めたい――お互いの目的は一致している。僕一人で難波を止められるとは思わないし、ここは一つ機動隊の案に乗ってやるか」
手紙を読み終わった僕は独り言を呟いていた。一先ず裕衣たちに帰りを知らせるため、地下室に行くことにした。
地下室へ行きながら機動隊本部に電話をかけた。機動隊には僕が明日、松尾に合わせて欲しいという単純な話で終わらせた。機動隊の手紙も一文で終わっていたのだから、僕も一言で終わらせることにした。
「志桜里、恒平……ただいま」
「お帰り、竜也くん」
「お帰り、お父さん。僕寂しかったよ。でも僕頑張ったよ、ちゃんとお母さんの手伝いもしたし……他にも色々したんだよ」
「頑張ったな恒平、ありがとう。志桜里もありがとう。……帰ってきてすぐに言うのもあれなんだけど、明日からまた少しの間出かけてくるよ。でも、今度はすぐに帰ってくるから――難波との決着をつけてくるよ」
「うん。でも、今日はゆっくりできるんだよね。頼まれていたもの完成できたよ。かなり時間がかかったけど、これで難波君を止められるんだよね?」
「そうだね。その保証はないけどたぶん止められるよ。志桜里や難波が視た未来のように、難波が死ぬようなことは起きないと思う。僕だけに視えた志桜里たちと違う未来では、この薬があったから何かが変わるかも知れない。それに、パラレルワールドあることが分かってるんだ。絶対に未来は変わるよ、いや変えてみせる」
「頼んだよ竜也くん。竜也くんしか今の難波君は止められないんだからね。それと、もう一つだけお願いがあるの。難波君を無事に連れて帰ってきて。竜也くんには、まだその理由を話せないけど、難波君にも大切な人がいるってことだけは言っておくね」
「分かった。必ず難波を連れて帰ってくるよ。とりあえず、今日はゆっくりしようか。明日からまた行かないといけないから」
「そうだね、今日はゆっくりしようね。恒平も寂しかったし……私も寂しかったから」
僕は重要な話をした後、次の日の朝まで家でゆっくりと寛いだ。
志桜里と恒平と朝まで話をして、ご飯を久しぶりに家族と食べて、トランプをして遊んだり、僕が居なかった間できなかったことを一日の内にすることは難しかった。それでも、久しぶりに家族との時間を過ごせて楽しかった。
次の日の朝、僕は志桜里と恒平に家を任せて、機動隊の本部へと向かった。
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