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3章
調査書
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「隊長」
松尾の部屋のドアをノックもせずに飛び込んできた昴に、松尾は腹を立てていた。しかし、昴の焦りようを見ていると、そんな感情を出している時間はないと松尾は覚った。
「どうした、ノックもしないで」
「それが隊長。今電話があって、奴が……久遠が明日こちらに来るそうです」
「本当かそれは?」
「はい。確かに僕が電話を取りましたから」
松尾は内心考えていた。奴が本部に来るのはいいが、本当に味方になってくれるのか。それとも難波の味方で、自分たちを味方につけてから裏切るのか。はたまた自分たち機動隊を内部から壊そうとしているのか。考えれば考えるほど、信じていいのか分からなくなっていった。
「とりあえず、奴が来ることを許可しました。本当に仲間になるつもりなら僕たちにとって有利な人材ですから……」
「そうだな。とりあえず、俺が直接奴に会う。昴、向日葵と一緒に俺の護衛にあたってくれ。たぶん、本部の中で軽率な行動はとれないと思うが、一応念のためにだ」
「分かりました。父さんには僕から伝えておきます」
「頼んだぞ昴」
「はい」
昴が部屋を後にしてから、松尾は明日に備えて質問など聞きたいことをまとめていた。
コンコンコン……
昴は向日葵の部屋のドアをノックした。
「父さん、入るよ」
「入っていいぞ」
「父さん、隊長からの伝達です。明日奴が、久遠が来ます。本部内では軽率な行動はできないだろうけど、念のため護衛にあたってくれとのことです」
「分かった。とりあえず昴、お前は素晴らしい働きをしたんだ。今日は明日に備えて休んでおけ」
「そうさせて貰うよ父さん。父さんもあまり無理しないで。明日に備えて今日は早く休んで。それでは失礼します」
昴は向日葵の部屋を後にした。
「休んでって父さんは言ったけど、休むわけにもいかないんだよ。僕にも明日に備えてやることがあるし」
昴が調べた久遠についての情報は、家の場所を突き止めただけではなかった。昴が調べた時、その家には久遠の他にも人が住んで居ることが分かった。それが分かった理由は、明らかに久遠とは違う靴の跡が二つあったからだ。どれも昴が調べた数日前についたもので間違いなかった。最近は地球温暖化のせいか、雨が降らなかったため見つけることができた。
昴はすぐに二人に接触しようと試みたが、接触することは叶わなかった。叶わなかったと言うよりも昴の方に空き時間がなかった。昴は茶封筒を持っていった時、その足跡を見つけた。準備を何もしていなかった昴は後程接触をしようとした。しかし、その日のうちに部屋で準備をしていた昴のもとへ向日葵が来て「今から中央国立国主会館に行くぞ、準備しろ」と、言って部屋を出ていた。そのため昴は接触できずに終わっていた。
「今日こそは絶対に会ってやる。いや、待てよ……。今家には奴が帰っているんじゃないのか。仕方ない電話にしておくか。えっと、電話番号は……」
昴は携帯の電話番号も突き止めていた。
昴の机の上には今までの事件、今回の事件に関する自己調査書が大量に積まれていた。携帯電話の調査書はすぐに見つかったが、もし、雪崩のように崩れ落ちている膨大な調査書の中から探さなければいけなかったら、丸一日かかっても無理な調査書の数だった。
「ラッキー、最近の僕はついてるな。足跡も見つかったし、難波にあの場で殺されなかったし、資料はすぐに見つかるし――つきすぎだな、そろそろ俺の運も切れるのかな。そうなると難波に殺されるのかな……嫌だなまだ生きてたいな……」
昴はジャケットの内ポケットから携帯電話を取り出していた。
見つけ出した調査書から電話番号を確認した昴は電話をかけた。
プルルルル……
「はい、久遠です」
「僕は……」
昴が自分の名前を言おうとした時、志桜里が話を遮ってきた。
志桜里の声は昴が想像していたよりも優しい声でどこか懐かしく感じた。
「あなたは機動隊の昴さんですね。心配しないで下さい、竜也くんにはこのことは内緒にしておきますから。それで、難波君を止めるために竜也くんが考えていることについての話でしたよね」
昴は自分が名前を言う前に当てられたよりも、その後の志桜里の言葉、久遠が難波を止めるために考えていることがあることに驚かされていた。
昴は茶封筒を置きに行く前から、久遠が難波の味方だと勝手に思い込んでいた。
「もしかして、志桜里さんも虚像干渉を使えるんですか?」
「私もって……そうか、昴さんはもう竜也くんと難波君に会っているんだね。ということは虚像干渉についても全部知ってるのかな?」
志桜里は尋ねるように聞いてきた。
昴は難波の行動からある一つの仮説を立てていた。難波は何か特別な能力を持っているのではないのか――それに国防省に電話をかけてきた久遠も。その仮説はすぐに道筋が見えた。それは機動隊の奇襲が失敗した時だ。難波は特別な能力を使える。そう確信した時から昴は、独断で調べていた調査書を見てその能力がどんなものなのかを想像していた。
「いえ、全部知ってるわけではありません。僕一人で調査をしているだけに全然情報が集まりません。ただ、分かってるのはこの能力を使える人が三人であること、未来も過去も視えて、それを自分の意のままに変えられるということ――僕が知っているのはそれだけです」
昴は全てを話した。志桜里にも虚像干渉が使えると分かった時から、昴は何も隠す必要はないと思った。
松尾の部屋のドアをノックもせずに飛び込んできた昴に、松尾は腹を立てていた。しかし、昴の焦りようを見ていると、そんな感情を出している時間はないと松尾は覚った。
「どうした、ノックもしないで」
「それが隊長。今電話があって、奴が……久遠が明日こちらに来るそうです」
「本当かそれは?」
「はい。確かに僕が電話を取りましたから」
松尾は内心考えていた。奴が本部に来るのはいいが、本当に味方になってくれるのか。それとも難波の味方で、自分たちを味方につけてから裏切るのか。はたまた自分たち機動隊を内部から壊そうとしているのか。考えれば考えるほど、信じていいのか分からなくなっていった。
「とりあえず、奴が来ることを許可しました。本当に仲間になるつもりなら僕たちにとって有利な人材ですから……」
「そうだな。とりあえず、俺が直接奴に会う。昴、向日葵と一緒に俺の護衛にあたってくれ。たぶん、本部の中で軽率な行動はとれないと思うが、一応念のためにだ」
「分かりました。父さんには僕から伝えておきます」
「頼んだぞ昴」
「はい」
昴が部屋を後にしてから、松尾は明日に備えて質問など聞きたいことをまとめていた。
コンコンコン……
昴は向日葵の部屋のドアをノックした。
「父さん、入るよ」
「入っていいぞ」
「父さん、隊長からの伝達です。明日奴が、久遠が来ます。本部内では軽率な行動はできないだろうけど、念のため護衛にあたってくれとのことです」
「分かった。とりあえず昴、お前は素晴らしい働きをしたんだ。今日は明日に備えて休んでおけ」
「そうさせて貰うよ父さん。父さんもあまり無理しないで。明日に備えて今日は早く休んで。それでは失礼します」
昴は向日葵の部屋を後にした。
「休んでって父さんは言ったけど、休むわけにもいかないんだよ。僕にも明日に備えてやることがあるし」
昴が調べた久遠についての情報は、家の場所を突き止めただけではなかった。昴が調べた時、その家には久遠の他にも人が住んで居ることが分かった。それが分かった理由は、明らかに久遠とは違う靴の跡が二つあったからだ。どれも昴が調べた数日前についたもので間違いなかった。最近は地球温暖化のせいか、雨が降らなかったため見つけることができた。
昴はすぐに二人に接触しようと試みたが、接触することは叶わなかった。叶わなかったと言うよりも昴の方に空き時間がなかった。昴は茶封筒を持っていった時、その足跡を見つけた。準備を何もしていなかった昴は後程接触をしようとした。しかし、その日のうちに部屋で準備をしていた昴のもとへ向日葵が来て「今から中央国立国主会館に行くぞ、準備しろ」と、言って部屋を出ていた。そのため昴は接触できずに終わっていた。
「今日こそは絶対に会ってやる。いや、待てよ……。今家には奴が帰っているんじゃないのか。仕方ない電話にしておくか。えっと、電話番号は……」
昴は携帯の電話番号も突き止めていた。
昴の机の上には今までの事件、今回の事件に関する自己調査書が大量に積まれていた。携帯電話の調査書はすぐに見つかったが、もし、雪崩のように崩れ落ちている膨大な調査書の中から探さなければいけなかったら、丸一日かかっても無理な調査書の数だった。
「ラッキー、最近の僕はついてるな。足跡も見つかったし、難波にあの場で殺されなかったし、資料はすぐに見つかるし――つきすぎだな、そろそろ俺の運も切れるのかな。そうなると難波に殺されるのかな……嫌だなまだ生きてたいな……」
昴はジャケットの内ポケットから携帯電話を取り出していた。
見つけ出した調査書から電話番号を確認した昴は電話をかけた。
プルルルル……
「はい、久遠です」
「僕は……」
昴が自分の名前を言おうとした時、志桜里が話を遮ってきた。
志桜里の声は昴が想像していたよりも優しい声でどこか懐かしく感じた。
「あなたは機動隊の昴さんですね。心配しないで下さい、竜也くんにはこのことは内緒にしておきますから。それで、難波君を止めるために竜也くんが考えていることについての話でしたよね」
昴は自分が名前を言う前に当てられたよりも、その後の志桜里の言葉、久遠が難波を止めるために考えていることがあることに驚かされていた。
昴は茶封筒を置きに行く前から、久遠が難波の味方だと勝手に思い込んでいた。
「もしかして、志桜里さんも虚像干渉を使えるんですか?」
「私もって……そうか、昴さんはもう竜也くんと難波君に会っているんだね。ということは虚像干渉についても全部知ってるのかな?」
志桜里は尋ねるように聞いてきた。
昴は難波の行動からある一つの仮説を立てていた。難波は何か特別な能力を持っているのではないのか――それに国防省に電話をかけてきた久遠も。その仮説はすぐに道筋が見えた。それは機動隊の奇襲が失敗した時だ。難波は特別な能力を使える。そう確信した時から昴は、独断で調べていた調査書を見てその能力がどんなものなのかを想像していた。
「いえ、全部知ってるわけではありません。僕一人で調査をしているだけに全然情報が集まりません。ただ、分かってるのはこの能力を使える人が三人であること、未来も過去も視えて、それを自分の意のままに変えられるということ――僕が知っているのはそれだけです」
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