虚像干渉

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3章

姉弟

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「そっか。でも、凄いじゃない。昴さん一人でこれだけの情報を集めたんですから。だから昴さんには虚像干渉、そして竜也くんがどうやって難波君を止めるのか話してあげますね。でも、これは昴さんと私だけの秘密ですよ。絶対に竜也くん、機動隊には言わないでね」
「分かりました」
 昴は分かりました、としか言えなかった。志桜里の話を聞いているうちに、その話し声に引き込まれていった。志桜里の話し声を長い間聞いていると、懐かしく思えた理由が分かってきた。志桜里の声は昴の姉に似ていた。
「昴さん、まず大事なことを言わないといけないね。ううん、昴くんと言った方がいいのかな」
「どういう意味ですか?」
「昴くん、さっき私の声を聞いた時に、どこかで聞いた声だとは思わなかった?」
 昴は戸惑っていた。確かに志桜里の声を聞いた時、昴は姉を思い出していた。しかし、昴は姉のことを殆ど覚えていないし、本当にいたのかさえ分からない。どこかで聞いて、それを姉だと思っていただけかもしれない。そう考えた時、志桜里の言っていることに違和感を覚えた。
「確かに聞いたことのある声だと思いました。でも、それが何か今回のことに関係があるんですか?」
「今回の事ではないけれど……昴くんにとって大事な事なの――お父さんのことを知ることについてもね」
「父さんについてですか……。確かに父さんについては何も知らないですけど」
「じゃあ聞くけど、いつまで向日葵君が昴くんのお義父さんだと思っていたの?」
 昴は心のどこかで信じないようにしていた事を志桜里に言われ、どうしたらいいのか分からなくなっていた。
 確かに父さん――向日葵が難波の同級生だと分かった時、自分の年齢と向日葵の年齢が余りにも近いことに疑念を持っていた。そんな早くに子供を持つことはできないし、よく考えると昴は母親の顔すら知らなかった。
「父さんと難波が同級生だと知るまで」
「そうなんだ。まあ仕方がないよね、記憶が曖昧なんだから。私が言いたかったことは、昴くんにとって大事なことなの」
 昴は考えていた。これから志桜里の話を聞いて、自分の心は精神的に持つのか、たくさんの葛藤の中で昴は覚悟を決めた。
「志桜里さん、その話聞かせて貰っていいですか。いえ教えてください」
「分かった、昴くんがそう言うのなら話すね。これからのことは全て事実だからね。まず向日葵君の勘違いから話すね」
「父さんの勘違い……」
「向日葵君は勘違いしているのね。まず高校の時に、親友が自分の無力さで死んでしまったってこと。実は親友は死んでいないの。だって、その親友っていうのは私なんだから――それに昴くんは私の本当の弟だよ」
「まさか、それって……」
 昴は自分が思っていた以上のことが分かって困惑していた。昴は頭が良かったため、志桜里の言っている言葉の意味がすぐに分かった。
「そのまさかだよ。昴くんは頭がいいから分かったよね。昴くんは私が死んだと思い込んで記憶が曖昧になっているんだよね。それに、向日葵君も自分のせいだと思って、昴くんを……年齢を偽って養子として迎えるんだからね」
「そうか……志桜里さんは虚像干渉が使えるんだ。だから、あの事件が起こることも分かっていたから今もこうして生きているんだ」
 それだったら俺が見た死体は誰だったのか。昴は深く考えていた。しかし、よく考えると昴はその死んだ姉の姿を見ていなかった。ただ姉が殺されたという話しか聞いていなかった。それでも、昴は姉のことをかなり慕っていたからショックは相当大きかった。それも記憶が混乱し曖昧になる程までに。
「これで昴くんの辻褄が合ったかな?」
「はい、辻褄が合いました。でも、まさか志桜里さんが僕のお姉ちゃんだったなんて。今でも信じられない」
「まあ、無理はないよ。でも、電話してきたのが昴くんで良かったよ。昴くんじゃなかったらここからの本題には入らないからね。明日竜也くんからも話があると思うけど、昴くんには先に言っておくね。たぶん、知っておくと後で役に立つから」
「分かりました」
「そんな畏まらないで。姉だって分かったんだよ。昴くんは嬉しくないの――私は弟と久しぶりに話ができて嬉しいよ」
「僕だって久しぶりにお姉ちゃんと話ができて嬉しいよ。でも今は、機動隊の隊員としてその話に興味があるよ。それが難波を止める最後の手段なんだから」
「そうだよね、今は機動隊の隊員なんだよね昴くんは……。分かった、ちゃんと聞いておいてね。竜也くんは難波君を止めるためにある二つの薬を私に作らせたの。作らせたという言い方はおかしいね。竜也くんは私が作っていた間、難波君にこの場所を突き止められないようにしてくれていたんだからね。それで私が竜也くんに頼まれて作った薬は――最後再生っていう薬なの。これは不老不死の人でも体の中から破壊されると生きられないの。それで、体内から破壊されても大丈夫な薬を作るよう言われたの」
「そんな薬が作れるのか。つくづく恐ろしいな、虚像干渉という能力は」
「そうだね、恐ろしいんだ。それで、竜也くんに頼まれたもう一つの薬は、虚像干渉を無効にできる薬を作ったの。まだ試していないけど、たぶん完成してると思うの。虚像干渉を無効化しても不老不死なら意味がないと思っているでしょう。大丈夫、竜也くんの元々の薬は不老不死の無効化だったの。それを私が勝手に構造を組み替えて、両方の効果を持つようにしたの。だから、この薬を難波君に飲ませることができれば、不老不死、そして虚像干渉すら無効化して難波君は普通の人に戻ると思うの。でも、もし難波君が普通の人に戻ったからといって、あなたたち機動隊が難波君を捕まえたり、殺すような真似をしたら竜也くんは黙っていないと思う……ううん、私も許さないよ。たとえそれが昴くんでも」
「お姉ちゃんの言うことも分かるよ。でも、難波は人殺しを……」
 昴は言葉を詰まらせた。良く考えると難波は人を殺してはいなかった。あの会館で殺されていた人は皆難波によって殺されてはいなかった。では誰が殺したのか、そんなこと考えないでも、今の機動隊には難波を捕えることはできない。難波は人を殺していないんだから。
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