28 / 35
3章
盗聴器
しおりを挟む
コンコンコン……
「昴です……入ってもいいですか?」
「入っていいぞ」
松尾は朝早くから起きていたのか、服も髪も全て整っていた。松尾の服は流石に私服ではなかった。しかし、昴と同様に昨日の黒い服とはかけ離れた色の服を着ていた。服は松尾の心情を表すかのように真っ赤な色をしていた。それもただの赤色ではなかった、トマトのように真っ赤だった。真っ赤に染められて作られたその服は、松尾のやる気を表していることに違いない――それだけ、今日久遠と会うことに熱意を燃やしていることが感じ取れた。
椅子に深く腰をかけ机に向かっている松尾からは疲れを感じた。やる気はあっても昨日の今日だから松尾が疲れていてもおかしくはなかった。
「隊長、奴はいつ来るか分かりません、準備は万全でお願いします。それと、これまた僕の勝手なんですけど、一応俺たちの知りたい情報についての項目をまとめておきました」
昴は昨日作った文書を松尾に渡した。松尾はその文書を受け取るや否や昴に質問した。
「昴、作ってくれたのは嬉しいが、後半はお前が聞きたいことじゃないのか」
松尾はすぐに昴の質問について気が付いた。
昴はふつうの人なら、いや頭が良い人ですら分からないように自分の質問を紛れ込ませたはずなのに、松尾にあっさり見抜かれて驚きを隠せなかった。
「隊長、なんで分かったんですか初めて見せた文書ですよ。それに他と区別つかないでしょ」
昴は文書を使われないのではないかと内心不安に思い焦り始めた。しかし、松尾が昴に言ったことは昴の驚きすらかき消した。
「実はな昴、ここだけの話なんだが、隊員たち全ての部屋に盗聴器を仕掛けてあるんだ。盗聴器と言えば聞こえが悪いが、これも隊員たちが外部に情報を漏らさないようにするためなんだ」
昴は松尾の言葉を聞いて拍子抜けしていた。もし、松尾の言葉が本当なら……いや本当だろう機動隊の隊長が嘘を吐くはずがない、隊員たちの信用もかかっているんだから。だとすれば、昨日の昴の電話は全て松尾に聞かれていたことになる。
「それが本当なら、昨日の電話も知っているんですか。知っているとしたら……どこまで筒抜けになっているんですか?」
「悪いが昴の言うとおりだ。俺は全て知っている、昨日の電話の内容を……それにしてもお前の調査はすごいな、一人であれだけの情報を集めるだなんて」
松尾は深く腰を下ろしていた椅子から立ち上がり、隣の机に置いてあるパソコンを取りに行った。松尾が先ほどまで座っていた所の机には資料が山積みになっていた。パソコンが置いてある机にはパソコン以外に松尾の私物が置いてあった。もちろん、家族の写真もそこにはあった。松尾は家族を大切にし、一番に考えていた。
松尾は取ってきたパソコンの電源を入れると、立ち上がるまでの間、昴に話の続きをした。
「昴……電話の内容は全て聞かせて貰ったよ。今取ってきたパソコンの中には、全ての部屋の盗聴器のデータが入っている。昴は奴の妻志桜里の弟なんだってな。さすがに聞いたときは俺も驚いたよ。それで、お姉さんから情報は聞けたのか。詳しくは分からなかったから、お前の口から直接聞きたいな昴」
松尾は立ち上がったパソコンに暗証番号をいれていた。昴の角度からは暗証番号を見ることはできなかった。たぶん、松尾は誰からも見ることができない角度を知っているのだろう。
「隊長の言った通り、僕は奴の妻の弟です。昨日聞けた話は難波を止めるために奴が考えている方法だけです。詳しくは今日直接聞いてと言われました。奴は志桜里の弟だといえば全ての考えを話してくれるだろうと、お姉ちゃんに言われました。それが資料の後半に書かれていることです。そう、隊長が気付いたところです」
「分かった。そういうことなら昴に今日は任せる。但し、情報を全て聞き出せよ。それと、昨日も言ったように初めは俺が奴と話をする、邪魔だけはするなよ」
「分かりました……」
昴は松尾との話を終えて部屋から出た。
「はあ。それにしても話が全部筒抜けだったなんて。迂闊な真似はできないということか」
昴は自分の部屋に戻る途中、洗濯機を見に行った。洗濯物自体は多くなかったため、すでに洗濯は終わっていた。昴は置いてあった籠に洗濯物を入れ自分の部屋に戻った。
昴が洗濯物を部屋の物干し竿にハンガーにかけて干していると、内ポケットにしまってあった携帯電話が鳴りだした。森のくまさんが部屋の中に鳴り響いた。森のくまさんが流れたということは着信を意味していた。昴は焦って内ポケットにしまってあった携帯を取り出した。着信欄には松尾隊長と記されていた。
「はい昴です。どうしたんですか隊長?」
「奴が来たぞ、出迎えてやれ昴」
「分かりました」
「昴です……入ってもいいですか?」
「入っていいぞ」
松尾は朝早くから起きていたのか、服も髪も全て整っていた。松尾の服は流石に私服ではなかった。しかし、昴と同様に昨日の黒い服とはかけ離れた色の服を着ていた。服は松尾の心情を表すかのように真っ赤な色をしていた。それもただの赤色ではなかった、トマトのように真っ赤だった。真っ赤に染められて作られたその服は、松尾のやる気を表していることに違いない――それだけ、今日久遠と会うことに熱意を燃やしていることが感じ取れた。
椅子に深く腰をかけ机に向かっている松尾からは疲れを感じた。やる気はあっても昨日の今日だから松尾が疲れていてもおかしくはなかった。
「隊長、奴はいつ来るか分かりません、準備は万全でお願いします。それと、これまた僕の勝手なんですけど、一応俺たちの知りたい情報についての項目をまとめておきました」
昴は昨日作った文書を松尾に渡した。松尾はその文書を受け取るや否や昴に質問した。
「昴、作ってくれたのは嬉しいが、後半はお前が聞きたいことじゃないのか」
松尾はすぐに昴の質問について気が付いた。
昴はふつうの人なら、いや頭が良い人ですら分からないように自分の質問を紛れ込ませたはずなのに、松尾にあっさり見抜かれて驚きを隠せなかった。
「隊長、なんで分かったんですか初めて見せた文書ですよ。それに他と区別つかないでしょ」
昴は文書を使われないのではないかと内心不安に思い焦り始めた。しかし、松尾が昴に言ったことは昴の驚きすらかき消した。
「実はな昴、ここだけの話なんだが、隊員たち全ての部屋に盗聴器を仕掛けてあるんだ。盗聴器と言えば聞こえが悪いが、これも隊員たちが外部に情報を漏らさないようにするためなんだ」
昴は松尾の言葉を聞いて拍子抜けしていた。もし、松尾の言葉が本当なら……いや本当だろう機動隊の隊長が嘘を吐くはずがない、隊員たちの信用もかかっているんだから。だとすれば、昨日の昴の電話は全て松尾に聞かれていたことになる。
「それが本当なら、昨日の電話も知っているんですか。知っているとしたら……どこまで筒抜けになっているんですか?」
「悪いが昴の言うとおりだ。俺は全て知っている、昨日の電話の内容を……それにしてもお前の調査はすごいな、一人であれだけの情報を集めるだなんて」
松尾は深く腰を下ろしていた椅子から立ち上がり、隣の机に置いてあるパソコンを取りに行った。松尾が先ほどまで座っていた所の机には資料が山積みになっていた。パソコンが置いてある机にはパソコン以外に松尾の私物が置いてあった。もちろん、家族の写真もそこにはあった。松尾は家族を大切にし、一番に考えていた。
松尾は取ってきたパソコンの電源を入れると、立ち上がるまでの間、昴に話の続きをした。
「昴……電話の内容は全て聞かせて貰ったよ。今取ってきたパソコンの中には、全ての部屋の盗聴器のデータが入っている。昴は奴の妻志桜里の弟なんだってな。さすがに聞いたときは俺も驚いたよ。それで、お姉さんから情報は聞けたのか。詳しくは分からなかったから、お前の口から直接聞きたいな昴」
松尾は立ち上がったパソコンに暗証番号をいれていた。昴の角度からは暗証番号を見ることはできなかった。たぶん、松尾は誰からも見ることができない角度を知っているのだろう。
「隊長の言った通り、僕は奴の妻の弟です。昨日聞けた話は難波を止めるために奴が考えている方法だけです。詳しくは今日直接聞いてと言われました。奴は志桜里の弟だといえば全ての考えを話してくれるだろうと、お姉ちゃんに言われました。それが資料の後半に書かれていることです。そう、隊長が気付いたところです」
「分かった。そういうことなら昴に今日は任せる。但し、情報を全て聞き出せよ。それと、昨日も言ったように初めは俺が奴と話をする、邪魔だけはするなよ」
「分かりました……」
昴は松尾との話を終えて部屋から出た。
「はあ。それにしても話が全部筒抜けだったなんて。迂闊な真似はできないということか」
昴は自分の部屋に戻る途中、洗濯機を見に行った。洗濯物自体は多くなかったため、すでに洗濯は終わっていた。昴は置いてあった籠に洗濯物を入れ自分の部屋に戻った。
昴が洗濯物を部屋の物干し竿にハンガーにかけて干していると、内ポケットにしまってあった携帯電話が鳴りだした。森のくまさんが部屋の中に鳴り響いた。森のくまさんが流れたということは着信を意味していた。昴は焦って内ポケットにしまってあった携帯を取り出した。着信欄には松尾隊長と記されていた。
「はい昴です。どうしたんですか隊長?」
「奴が来たぞ、出迎えてやれ昴」
「分かりました」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜
猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。
その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。
まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。
そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。
「陛下キョンシーを捕まえたいです」
「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」
幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。
だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。
皇帝夫婦×中華ミステリーです!
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる