優しい人

sasorimama.fu

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優しい人・第10話

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酒、臭い……

飛び起きたつもりでも、まだ、起き抜けで状況がよく掴めない。


「滝さん……も、ほんっま…すぃません!明日!ちゃんと…ちゃんと謝ります!!でも、俺…ちょと…どうしようもない…ッ…ちょ、ここ、が…ヤバイです、俺…。顔…滝さんの……顔だけ、貸して…いや!顔射とか…言うとんちゃいますよ?!そんなん、しません!絶対!顔……顔を、見るだけ…ッ…お願いします!…」

志賀が喋れば、更に部屋に充満する酒の匂い。
どんだけ飲んで寝てたん?

そう言えば志賀は、酔うと女が欲しくなる、福原に行くと言っていた…

そっか…
女が欲しくなってもうたんやな……



混乱するが、目の前の志賀は、切羽詰って、人が違ったみたいだ。


「…って…何、言うとんや…俺…すいません……俺」


時々、苦しそうに息を吐きながら、志賀は股間を片手で押さえ、腹を凹ますようにして、ベッドの下に正座のような格好で座っている。

段々目が慣れてきた。


―何でもする。何でも…


志賀が、俺をオカズにしようとしてるんじゃないのは解ってる。
志賀が見ているのは、川本蘭奈。

女に見立てられたまま、性的な行為をされるのは耐えられない

でも、いい。

志賀の為なら、俺は何でもする!


「いいよ」


「…すません!あの…見…んとって?目、瞑って…」
「あ、う、うん…ごめん」

志賀は、膝立ちになって、腹を抑えていた手で、千佳史の顔を上から下に、1度撫で、千佳史は目を閉じた。

―目を開けてるんもダメなんや…
そやな…やっぱり、目ぇ開けてると、俺やもんな……

カチャカチャ…とベルトを外す音に続いて、ジジ…と前を開ける音。

目を閉じているので、音しか解らない。
しかしそのせいで余計に敏感になった耳が、志賀の挙動を拾う。

抑えた吐息と、微かに肌擦れの音が聞こえる。
それが段々早くなる…

低い呻きが聞こえ、大きな掌が頬を包むように撫でる。

―志賀……志賀の…手……

でも、この手は、蘭奈に伸ばした手……

―緊張せんでも、お前じゃない、って……

胸に呟き、千佳史は自嘲する。

乾いたけい擦音が次第に濡れてきた。

泣きそうな気分を、息を止めるようにして必死で耐える。

しッ……歯の間から息を吸い込むような音が聞こえ出した。
その間隔が段々、狭くなる。

志賀の昂ぶりに合わせるように、千佳史の切なさも高まり、登ってくる嗚咽を堪える為に息を継ぐ…

図らずも、息のような声が重なり、まるで、2人で行為をしているようで、虚しいにも程がある。


片方は啼き、片方は泣く。


耐えられそうもなくて、千佳史は、ん…と息を止める。
志賀の動きが頂点を伝える。

―志賀…イった……?


志賀の荒い呼吸が段々、治まってきた。

だが、千佳史の動悸はまだまだ激しいままで……


「すませんでした……ほんま…すいません…」

ササ…パサ…と後処理の音がして、ドスン…と尻餠をついた音。

「…たた…」

うすく目を開けると、ヨロヨロと起き上がる志賀が見えた。

まだ、酔いが冷めていないのだろう。
と、言うよりは全然酔っ払いだ。

中途半端に上げたズボンを抑えながら、片手に丸めたティッシュを持って、志賀が寝室から出て行った。


ベッドレストのスマホを取り、時間を確認すると、さっき、寝室に入ってから、まだ1時間程だった。

よく心臓が壊れなかったものだと思う。

志賀の手に包まれた感覚がまだ残る頬に手を当てる。


・・・・苦しい・・・苦しい・・・

会えずに愛する苦しみを、遥かに凌ぐこの苦しみは、とても言葉で言い表せない。

でも、それが例え、通り道の小石を退けるような些細なことであっても、志賀の為になるのなら、かまわない。

忍耐を使い果たし、これから先の人生を、全く我慢出来ない我が儘な人間になったって知るもんか。

俺は多分ほんの短いこの志賀との時を、心も体も、志賀の為だけに使うー。





「いたたた……」
恐ろしく頭が痛い。

「おい、萌花ー。水くれ」

すっとグラスが差し出された。
「サンキュ…っと、あ……」

目の前には、滝の柔らかい笑顔。

「…あ、そや…。すみません…」

―何か、もっと謝らなアカン気がするけど、何やったかな……でも、滝さん、普通やな……

何か記憶の端に引っかかる出来事があるのだが、それはまるでベールに覆われたようなボンヤリした物で……

代わりに閃光のように、パッと飛んだ、滝の涙の粒が蘇る。

「あ!滝さん…ッ…。そや!……すみませんでした、昨日…俺ッ…!」

ガバッと土下座をする。

「え、え、何?」
狼狽える滝に怒涛の様に謝り倒す。

「ほんまに!ほんま、俺は、アホや!ごめんなさいッ…!俺、滝さんがゲイやから、どうこうとか、そんなん全ッ然!マジで、全ッ然、思てないんですっ!いや、ほんまに!!何か酔うとって、変なスイッチが入っただけでッ…こんなん、言うてもアカンな、えと…とにかく…ほんま、ほんっとに…申し訳ありませんでした!…もう、それしか…謝るしか…ほんま、ほんっまに・・」

「ええ、って。俺が悪かったんよ、逆に。俺、男のクセに男の気持ちが解らんくて。自分に嫌気がさしたわ、ほんま。そうやねん…俺、相手が妊娠するなんて有り得へんから…。それに、志賀の、病気?それかって、俺なんか、調べる機会も必要もないから、全く志賀の気持ち、イメージ出来んくて。それやのに、それ忘れて知ったようなこと言うて…。恥ずかしいわ、ほんま。ごめん、こっちこそ」

「いや、そんなん!こっちこそ!」
「俺は平気。そんなん」

暫く2人で、俺の方が悪い、と言い合いし、途中でおかしくなって笑い出してしまった。

「これ、レジで争う関西のおばちゃんですね。アタシが払う!何言うてんの、イヤラシわ、アンタ!何でよ、アタシが…ゆうて延々…」
「ほんまや。アハハ…」

「あー、しかし酔うたー、昨日は!どんだけ飲んだんかなぁ…焼き鳥屋で生中5杯飲んで、あ、俺それまでも飲んでましたわ。ほんで滝さんとこで、何か作ってもうたカクテル飲んで…それから焼酎……もうワカランな!でも焼酎2本くらいイったかなぁ…」
「凄まじいな…志賀がこんな酒豪やったとはな。2本はいかんでも、1本では収まってないのは確かやな」

「あー…暫く酒要らん!」
「そやそや。飲むな」

朝ごはん作るよ、と滝は言ってくれたが、とても何も食べられそうになく、一応、実家の親にも破談を伝えないといけないので、それから水だけ貰い、志賀は滝の家を辞した。


はあ……

何やったんやろ…

志賀の出て行った玄関を暫く見つめていた。

それから振り返り、今まで志賀が座っていたダイニングのチェアを見つめる。

そこに志賀が座ってた。
今、まで。

現実にまた、志賀に会えるなんて思ってなかった。

それが…会えたどころか……


千佳史は志賀の自慰を思い出す。


「全ッ然…!記憶にもないみたいやったな…ハハ…」
決死の覚悟で、心臓をバクバクで気絶寸前だったが、それは自分だけで。

笑ってしまう…

まあ、いい……


でも、千佳史は、自分を傷つけたと思って必死で謝ってくれた志賀が、とても嬉しかった。

この14年、あの時、痴態を見せたことで気味悪がられて避けられていると思っていた。

―そうじゃなかったんや……

志賀はただ、気まずかったのだと思えた。

それだけでも千佳史は救われた。
志賀を好きになって良かったと思えた。

こんなに好きな男から、ただ気味悪がられたままの記憶じゃ悲しすぎる。


―ありがとう…志賀…


究極に上がったり、地の底の底まで下がったり、とんでもない1日だったが、最後は何となく、落ち着いた気持ちに着地できて、俺は微笑むことが出来た。

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