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優しい人・第11話
しおりを挟む「はあ?!!何でやねん!何が“ありがとう”や?お前、お人好しも大概にせえ、って!」
何度か着信が入っていた倉本に、志賀が帰ってどっぷりと余韻に浸った後、電話したら
「昨日どうやった?」
ウキウキとした声。
経緯を説明して、志賀への感謝の気持ちを口にしたら怒鳴られた。
「何でよ…、だって、俺ほんまに嬉しかったもん。志賀が俺のことキモくないんやって、昨日、よう解って、それどころか、俺のこと傷つけんとこうって思ってくれてんねんで?嬉しいもん」
「アホ!ほんっま、アホ。呆れる、お前だけは。おどれゴラ、目ぇ覚まさんかいッ!おのれが今、オカズにしとんは俺じゃ!滝千佳史や!そう解ってオカズにせんかい!抱いてくれんかい!って、そのくらい言えや、タコ!せえや、セックス!恋焦がれとった志賀やろが!俺は、言わんかったけど、お前の気持ち、ずーっと知っとったから!だから人が折角、チカとこ行け、ってお膳立てしたっとんのに!」
「セ…ッ!…ちょ、陸斗、そんなモロに言うか、そんなん…」
「ああ?お前、オカマか?ちゃうやろ?ゲイやんけ!男やろが!そこはガッツかんかい!何、女の子~みたいにモジモジしとんじゃ!んまに!」
「…そんなん…だって…」
「お前、あんだけ酔うとってオッ勃てるなんか、そうないで?あれからまた飲んだんやろ?俺らまず無理やわ。そこまで酔うてへんかったって、途中でヘニャ~ってなるか、挿れたまんま、全然イカンで、女に嫌がられるかどっちかや。あいつ、タダモンやないな…って、そんなんどうでもええねん!とにかく!折角ノンケやのに酔うてオッ勃てとんのに!チャンスやんけ!アホ!アホ!」
「……」
「チカ?」
「…ん?」
「言い過ぎた」
「ええよ。陸斗の言いたいこと解る。ありがとう、俺の為に」
「チカー!俺はな、1回でも、お前に心から幸せ、って思って欲しいだけやー!お前、ほんまに世界一、優しい!お前が幸せ感じんで、誰が幸せ感じるねん!」
「お前」
「そうそう、俺な、20歳の肌はええでぇ…って!ちゃうやろ!お前や!お前が幸せやないとあかんねん!」
「ありがとう。大ジョブや、って。俺、そこそこ幸せよ?いいツレおるし、マジで。心配すんなって」
「チカ…」
「ほんま。好きや、言うてくれるイケメンもおる」
「あれか?昨日の。止めてくれる?の男前」
「ああ…草介さん?…まあ、そうかな…」
「どういう人やねん」
まるで、母親のように高見草介の職業、両親は何してる、とか、兄弟は、とか、関係はどこまでや?とか根掘り葉掘り聞いた倉本は
「まあ、ちゃんとした野郎みたいやな。他は?大丈夫か?」
等と言い出し、なかなか話しが終わらなかった。
△
「話してみぃ、篤仁。理由があるんやろ?結婚止めた、って、それだけではワケが解らん」
ゴルフに行くのを止めて待っていた父は、腕組みをして顔を歪めた。
昨日、萌花の妊娠が解った時点で、結婚は止める、とだけ連絡は入れていた。
すぐ帰って来い、と言われたが、その時は、その話しをするのが嫌で、中学の同窓会に出なければならない、と断った。
昨日は両親に洗いざらい話して、と思っていたが、滝に、萌花が可哀想だと言われ、少し考え直して、親に真実を話すのは止めてやろうと思った。
「やっていけない、と、思うことが出来た。それだけや。萌花との結婚はなしや。話しはそれだけ」
「ちょっと、あっくん!それじゃお母さんらかて、納得出来へんよ?ね、お父さん?向こうのご両親にも何て言うの?あんた、そんな覚悟でお嬢さん下さい、言いに行ったの?ふざけとったらアカンよ?!長いこと長いこと、よそ様のお嬢さん、引き留めといて、やっと結婚、言うて、安心した思ってたら、止めるって!…そんなん…そんなん許しません!」
母が怒鳴るのを初めて聞いた。
だが、言いたくない。
「ちょっと、あったんや…ッ、もうええやろ!」
「ちょっと、って何やの?言うてみなさい!」
「……」
「…篤仁ッ!」
頬に焼ける痛みが走った。
―クッソ…何で俺が、しばかれなアカンねん…ばばぁ…ッ
「気ぃ済んだか?もう、ええやろ?ほんなら、俺、寝るから。起こさんといてな」
「篤仁っ!待ちなさい!!」
まだ母は叫んでいたが、篤仁は階段を大きな音をさせて上がり、バリンッ…と乱暴に自室のドアを閉めた。
「…クッソ…ボケ…」
チノパンを乱暴に脱ぐと、スマホがポケットから床に転がり落ちた。
着信の点滅。
萌花だろう。
一応、チェックすると、萌花からの着信が4回と、滝からのライン。
そう言えば滝の家を出る時、スマホの情報を交換した。
『これ、志賀のやんな?』
とあり、志賀の自転車の鍵の写真が貼ってある。
「あ…俺のや…」
『すみません』
返信しかけて、何か声が聞きたくなって、電話した。
2コールですぐに通話になる。
『はい、志賀?』
「はい。すいません、滝さん。鍵、俺のんです」
『やっぱり?ごめんな、気付かんで。志賀が帰ってから暫くして気づいて…』
「いいです、いいです。俺がアカン」
『すぐ使う?どっかまで持ってこか?』
「いや、いいですわ。今日は日曜で診療所休みなんで、取りに行きます。あ、日曜はそっちも休み?」
『…あ、店?』
「はい」
『あ、ううん。…うちは基本、年中無休。休みは不定期』
「ほんまですか!ほんなら、また、今日店行きます」
『…解った。待ってる。あ、でも今日はもう飲まへんのやろ?』
「あいたたー、そうかー…」
『コーラかウーロンな?』
「はい!了解です!ほんなら後で」
『うん…後で』
―カワイ。…何っか…癒されるわ~。暫く滝さんにくっついとこーっと!
篤仁は、滝の想いも知らず、鬼の形相だった顔をニコーっと緩めて、今朝、必死で謝った自分に、俺の方こそ、と申し訳なさそうに謝ってくれた滝の顔を思い出す。
そして、食べられそうになくて断ってしまったが、自分の為に、朝ごはんを作るわ、と長めの髪を括って立ち上がった滝の綺麗な項を思い出す。
「あ~あ!滝さんが女やったらな~…名前もチカやしな~。チカ…チュッ…とかって!ハハ…」
篤仁は、ハーフパンツとタンクトップに着替え、ベッドにダイブすると、すぐに眠ってしまった。
△
―店…かぁ…家でもええのにな~…って、こらこら…
千佳史は欲張る心を自制する。
「今日は、ちょっと上手い漬物買ってから行こうっかな…」
出掛けにもう1度、シャワーを浴び、いつものように上半分の髪を括る。
家を出て三宮駅からすぐのデパ地下の京漬物屋で、茗荷の漬物と、瓜の浅漬け、柚子大根を買った。
それからグロッサリーへ行って、胡瓜を購入。
焼酎にスライスして入れるとメロンのような香りになる。
千流では焼酎の水割りやソーダ割りを飲む客に人気の飲み方だ。
店は7時から。
千佳史は6時過ぎに店に入る。
草介がよく開店前に来るので、遅れられない。
志賀が来る、と言うので嬉しくて、今日は6時少し前に着いてしまった。
鍵を開け、少しの間、換気をする。
夜中中、タバコの煙とアルコールが充満した店は、独特の匂いがある。
嫌いな香りではないが、やはり、換気は必要だ。
店の電話が鳴る。
「はい、千流です」
「あの…橋本と申します…あの、志賀…の…」
「あ、ああ。昨日、と言うか、今朝の。はい、こんばんは」
「あの…これから覗いてもいいですか?」
「…あー…今日はちょ…と…団体…が」
「あ、すみません、解りました。ごめんなさい、早速で…。またでいいです」
「あの…ごめんなさい。団体が退けたら、お電話しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます!」
電話は切れた。
彼女の生々しい傷が見えるようで辛い。
もう絶対、志賀の心を優先に、と思っているのに、やはり本人と対峙すると、気の毒になって、手を差し伸べたくなってしまう。
ほとほと自分の性格が嫌になる。
「滝さん!」
「志賀!いらっしゃい!」
一気にテンションが上がる。
満面の笑みで志賀がカウンターに腰掛ける。
すっごいいい感じなんですけど。
嬉しい。
ほんとに……
こんな一瞬が続けばいいのに……
「コーラ?ウーロン?」
「滝さん!」
「……」
「…なんちゃってねー!!ガハハハッ…オヤジか?!って!」
「もー、まだ酒残ってるんちゃうん?ちょっとそれはイタイで?笑えん笑えん」
「すいません!何か、嬉しくて」
「え?」
何か志賀のテンション、俺より高い。
「いやね~。俺、メッチャ、クサッとったんですよ、正直、昨日。まあ、今日もやけど。でもね~、昨日、何か滝さんに酷いこと言うたのに、逆に謝られて、あー、そうやったー。この人、究極の優しい人なんやったー、って、思い出して…」
「そんなん…別にそんなことないよ」
あんまり面と向かって、言われると、かなり照れる。
「いや、俺が今まで会った人間の中でダントツです、滝さん、マジで。だからその、俺、昨日滝さんに萌花が可哀想や、って言われて、ちょっと考え直して、あいつの妊娠のことはうちとこの親には言わんとったろう、って思ったんです。で、帰って、結婚止めた、だけ言うたら、オヤジと特におふくろに、ボロクソ言われて、バァシッ!てビンタとかしてきよって」
「え…何か、ごめん…。それ、回り回ったら、何か俺のせい…的な…」
「いやいや!そんなん違います。そんなこと言いたいワケじゃなくね。クッソババァ!ってムカつきましたけど、でもその後、滝さんと喋って、すんごい癒されました!と」
「ハハ…光栄です」
「ちょっと滝さん、やっぱりビール下さい」
「え、大丈夫?」
「はい。大丈夫です、って!」
「生?瓶?」
「生!」
「はい、どうぞ。これ、漬物。俺のお気に入りの店のやつ」
「わ!旨そー!頂きます…んー、旨い!…滝さん」
「ん?」
「暫く俺、付きまとってもいいですか?」
「ん、ん?どゆこと?」
「いや、だから、俺ちょっとやっぱり、かなりキツいので…」
「うん、それは…そうやろな」
「ちょっと間だけでええんで、ちょっとグズグズと…言わせてもらったら助かるかなー、と…」
「ああ…まあ、そんなんええけど…」
「いや、すんません!嘘ついてました。ちょっとじゃなく、大分、グズグズと…」
「大分……」
「アカン?」
「…あかんく…ないけど…」
「女やったらあかん。誤解を招く。前、えらい目に遭いました…」
「あー、何となく解る…」
「でしょ?」
「俺で良ければ、いつでもどうぞ」
「ほんまですか?」
「うん」
「じゃ、今日も家行っていいですか?」
―え・・・・・???何で??
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