13 / 47
優しい人・第13話
しおりを挟む「な、萌ちゃん。俺と一緒なろ?神様がそう言うとんねん。あの男とは何百回ヤったって出来へんかったのに、俺とはたったの1回で!しかも、ゴムつけとったのに!萌ちゃん、幼稚園の時から、お母さんになりたい、って言うとったやん」
「わざと穴あけてたんでしょ?コンドームに。あんなん、騙し討ちや。私…酔うてて…よう、覚えてもないのよ?信(しん)くんのこと信じてた。…せめて!せめて合意じゃない、って彼に言うて?お願い!」
萌花を妊娠させた幼馴染みの伊本信輔(いもとしんすけ)とは、住んでいるマンションが同じで、幼い頃から家族ぐるみのつきあいだった。
全く警戒しないで会える萌花の大事な男友達。
それが信輔だったのだ。
信輔は物心ついた頃からずっと一途に萌花を想っていたのだが、萌花は信輔を、仲の良い友人としか思っておらず、男性としてみた時期は1度もない。
信輔の方も、そんな素振りは全く見せなかったので、2人はよくお互いの恋愛の悩みなどを話し合って来たのだ。
その信輔が、まさか自分を騙すようなことをするなんて、思いもよらず、油断していた。
―あいつ萌花に気ィある。絡むな。
そう何度も篤仁に言われたのに、全く気にしていなかった。
寧ろ、篤仁を少し神経質だと思った自分が呪わしい。
悔やんでも悔みきれない。
「もう…萌ちゃん。ここ外。大きい声でコンドームとか言うなよ…」
「あ…ごめんなさい」
萌花は真っ赤になって俯いた。
「可愛いなぁ…萌ちゃん。俺、やっぱりどうしても萌ちゃんがええ。なあ、萌ちゃん、俺が元カレに、合意やなかった、って言うたげたら、俺と結婚してくれる?」
「・・・・・」
「もう、戻らんやろ?」
「…私、あっちゃん……あっちゃんが…いい…あっちゃんしか……」
わっと泣き出した萌花を、信輔は暗い炎を燃やした目で見つめた。
△
今日は営業前から座って飲んでいた志賀は、次々に来る客に意外にも順応して、昨日にも増して飲んだ…飲んだ…飲んだ……
最初に盛り上がったビアンの愛理(あいり)と瑞姫(みずき)から、吉四六のボトルをプレゼントされ、ゲイの誘いネコ、奏流(かなる)は、ダメだというのに、志賀の名前を聞き、何度も
「アツピーにビール!」
と志賀の近くに来ては、肩や腰に触れ、ビールを奢りに来た。
日曜は客足が早いので、12時に閉店するが、10時を過ぎる頃には志賀はもう、ベロンベロンで、また蘭奈、蘭奈と言い出した。
ネックだなぁ…と思っていた草介は、自分の管理している店での揉め事に呼び出され、来て30分ほどで
「タマランわ~。今日はチカ抱きたかったのに!あいつが気に要らん」
と志賀に文句を言いながら帰った。
草介とは体の相性が良く、草介が欲しくなる時もあるくらいには、好きだと思う。
だから、機嫌を損ねてほしくないし、細く長く続けていきたいと思っている。
決して交わることのない志賀に夢中になって、草介を失うことになれば、やはりとても辛いだろう。
そう言えば、萌花さんは来なかったなぁ…と思いながら、カウンターに突っ伏して寝ている志賀を放っておいて、可燃ごみを捨てに行く。
人影が動いたような気がして一瞬、緊張したが、気のせいだったようでゴミを捨て、店に戻る。
「わっ…何?!どうしたん?!!」
カウンターで寝ていた志賀が突っ立っていた。
「どうしたん?志賀、大丈夫?」
志賀は黙って、間合いを詰めてくる。
「な、何?どしたん?志賀?」
頭を両手で掴まれ、千佳史の顔を覗き込むようにすると、いきなり酒臭いキスが来た。
「…んッ……」
心臓が跳ね、瞬間的に志賀の手を逃れ、真下にしゃがみこんだ。
「乙女や……ほんまや…可愛いー…」
満足そうに笑った志賀は、ヨロヨロ~っと歩き、店の外に出た。
「…あ…っちゃん!」
萌花だ。
―あ、さっき…の?
さっき、ゴミを捨てに行った時、人が居たように思った。
―萌花さんやったんか……
志賀はチラッと萌花を見て、ふいっとソッポを向き、歩き出した。
「あっちゃん…お願い…」
泥酔状態とは言え、千佳史の中では、心臓が爆発するような出来事が起きた直後に現実を投げつけられても、咄嗟に判断出来ない。
「マスター…あっちゃんは、何でここに来るんでしょうか……昨日も…今日も……あんなになって……あんなになっても、ここに……何でここに居るんでしょうか…?マスター……私…」
「滝さん!!早う!」
志賀がタクシーを停めて怒鳴る。
「ごめん、萌花さん。取り敢えず、志賀、危ないから行くな?気を付けて帰りよ??な?」
千佳史は、心配で仕方ないが、昨日の後悔も覚えているし、もう萌花の顔を見ないようにして、タクシーに走った。
タクシーに乗り込むと、志賀は一瞬で鼾をかき始めた。
すぐに家に到着し、タクシーの運転手に一緒に志賀を運んでもらい、何とかマンションの部屋に到着した。
「志賀!志賀!帰って来たよ!ちょっと、靴、脱ぐよ?!…よ…いしょっとッ…ああッ」
マンションの玄関に座った体勢になっていた志賀の上半身がグニャン、とこちらに倒れて来た。
「も、ちょっと!重いー」
「蘭奈!こら!重ないやろ!」
…出た、蘭奈……
「重いわ、って!」
「蘭奈!キス!」
「せえへん!」
「蘭奈ー」
「わっ!!」
志賀に押し倒されて、頭をしたたか床に打つ。
「いったー!もう…んッ……んんん……」
酒臭いキスがいきなり来て、また心臓が跳ね回る。
相手は酔っ払いなのに、蘭奈蘭奈と連呼しているのに、一人、慌ててバカみたいだと思いながらも、こっちは素面だ。
「待…って、待って…」
唇が離され、息を吸い込んだ瞬間、分厚い舌が唇を割って来た。
執拗に口腔内を舐め回され……息が止まりそうだ。
「…は…ハッ……ん…ちょ…んん……かはっ……はぁ…はぁ…」
必死で志賀を押し戻し、息を吸う。
「か~わい~~!!エッチしょ、エッチ」
―嘘やろ?!!待てッッッ……!!
あまりの言葉に、仰天している間に志賀は、千佳史のTシャツを脱がしにかかる。
とんでもない!
胸がない!!
「あれれ?おっぱいは??」等と言われた日には立ち直れない!
「いやや!止めろッ……止めて…お願い……」
「蘭奈…。何で?俺のこと嫌い?」
―蘭奈ちゃうわ!!
一々、反応すなよ、と自分で嫌になるが、ツーンときて緩む涙腺。
「…嫌い…」
そう言わないと服を脱がす手を止めてもらえない。
「う~ん…」
シュンとなった志賀は、項垂れて膨れている。
「志賀?もう寝よ?な?」
「ほんなら!」
「何?!」
急に、志賀が大きな声を出し、思わずこっちも叫ぶように聞く。
「自分でするから、裸見せて」
―だからッッ!!
「いやや」
「何でよっ」
「…だって……」
「おっぱいちっちゃいん?」
―ほら、出た、おっぱい…ッ
「ち、ちゃうわっ……あほ…ッ」
―ないんじゃ、ま……ったく!!
「ほんなら見して、見してー!!」
「も、い…やや、ってッ…いやや、言うとう……や…ろっ」
涙がボロボロ出るが、志賀が酔ってるのをいいことに、我慢はしない。
だって辛いもん。
俺は男や。
でも、お前が好き。
そのお前は、女やと思って俺を求める、また……。
何でもする!って昨日、決めたけど、それだけは出来ない。
千佳史の体を見た瞬間、がっかりして萎える志賀を想像すると、とても正気ではいられない。
それは出来ない……
「………ッ何?」
志賀が俺の顔を両手で挟んで、ジーッと見る。
「な何?」
「泣くなよ…」
形のいい眉毛をカタンと下げて志賀は言って、そして、瞼にキスしてきた。
「なら背中でええから」
「……」
「な?背中でええから。でも、背中に出してええ?」
「………」
「四つん這いになってくれる?」
―背中やったら……大丈夫…
千佳史は大人しく四つん這いになった。
Tシャツが捲り上げられ、頭から抜かれる。
千佳史は、志賀の手が胸に来ないよう、片手で胸を覆って防御した。
「…はッァ…」
いきなり、背中の真ん中をスーっとウエストラインまで舐められ、思わず声が出る。
肩や腕、背中を隈なくクルクル…と舐められ、まるでセックスしているようで、余計に切ない。
体を支えて突っ張っている片手が苦しい。
「……ぁ、志賀……」
耳に尖らせた舌が入ってくる。
もう、千佳史のモノもジーンズの中で痛い程に固くなっている。
だが、脱げない……
志賀が突然立ち上がり、忙しそうにズボンを脱ぎ、ボクサーパンツも脱いでいる気配。
そして、千佳史の胸を隠した手に片手を重ね、背中に体を重ねるようにして、擦りだした。
―志賀…志賀、抱いて……抱いて……
絶対に口に出せない言葉を喉で止め、血が出るほど唇を噛み締める。
「…くハッ……」
勢い良い志賀の迸りを背中で受ける。
「ごめん…ありがとう……あ、ティッシュは…っと…もうこれで拭こ、これで」
志賀は自分のTシャツで千佳史の背中をきれいに拭った。
「はあ…疲れた……」
ごろん…と仰向けに転がった志賀は目を閉じた。
そして━━━
「おやすみ、滝さん……」
と、言った………。
10
あなたにおすすめの小説
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
happy dead end
瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」
シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
この冬を超えたら恋でいい
天気
BL
夜の街で、凪は人生の底にいた。
古いアパートに帰る途中、父の残した借金の取り立てに絡まれ、逃げ場を失う。
そこに現れたのは、大手企業の社長・鷹宮だった。
偶然の救い。年齢も立場も違う二人は、その夜を境に交わることになる。
事情を多く語らない凪は、不幸が当たり前のように身にまとい、誰かに頼ることを知らない。
一方の鷹宮は、完璧な成功者として生きてきた男だった。
危険から守るため、鷹宮は凪を一時的に自宅へ迎え入れる。
冬の同居生活の中で、凪は少しずつ日常を取り戻していく。
大学へ通い、温かい食事をし、夜を一人で怯えずに眠る。
しかし、守られることに慣れない凪は、距離が近づくほどに自分から一歩引いてしまう。
それは、失うことを恐れる、健気で不器用な選択だった。
一方、鷹宮は気づいてしまう。
凪が笑うだけで、胸が満たされることに。
そんな自分の感情から凪を守るつもりで引いた距離が、
凪を遠ざけてしまう。
近づきたい。
けれど、踏み込めば壊してしまうかもしれない。
互いを思うほど、すれ違いは深くなる。
2人はこの冬を越えることができるのかーー
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる