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優しい人・第17話
しおりを挟む「あっくん、アンタ、何処に泊まってんの?」
リュックに2~3枚づつ、肌着や靴下、着替えに部屋着を詰めていたら、母親が開いてるドアをノックして言った。
「先輩とこ」
「先輩、って誰?」
「中学ん時の、文学部の先輩」
「迷惑やないの?」
「迷惑やとは言われてへん」
「言えんでしょ、普通」
「はあ?!言うやろ?普通。何言うとんねん、アホかいや、ホンマ…」
「・・・・・」
母はこの生まれっぱなしの、自己主張を幼児並みに出来る息子が何故、こんなになったのか…本当に解らない。
「あっくんって、ほんまの私の息子かしら」
「はあ?おいっ」
「冗談抜きで。あっくん、ちょっと座り」
母がダイニングの椅子を引く。
「急いでる」
「ダメ。アンタ、先週からずっと、家に30分くらいしかおらんで。私らとまともに話しもしない。萌ちゃんのこと、どうすんの?」
「どう、って白紙や。萌花とは別れた。そう言うとんやろ?」
「ええ加減にしなさいよ?そんな簡単やないよ?もう顔合わせは済んどんよ?ほんまに白紙にするんやったら、1回ちゃんと、お父さんと3人で、向こうに頭下げにいかな・・」
「必要ない。とにかく、これはもう、向こうの親も納得しとう話しやから、おふくろも親父も、もう、忘れてくれ」
「そんなん、あっくん…」
「しつこい。だから帰って来たないねん!」
「誰のとこ行ってるの?!それだけ言うといて」
「煩いなぁ!ええやろ、何処でも!」
「アンタ、まさか…」
母親の顔が変わった。
「名前言うてみなさい!その先輩の!女の子やないやろね?!」
「滝さんじゃッ!北中ん時の1こ上のッ。滝千佳史!迷惑なんかかけてへん!滝さんはそんな人ちゃうんじゃ!滝さんはなぁ、メッチャ…メチャメチャ…優しい人ねんや!!」
篤仁は、リュックを肩にかけると、冷凍庫を乱暴に開き、母親が冷凍してあるカットうなぎやら、牛肉、餃子、ミンチ肉などを取ってレジ袋にボンボン放り込み、続けてキッチンストッカーを開け、カップラやカレールーに、ミートソース缶、お茶漬け海苔などを、新たなレジ袋に投げ入れた。
「迷惑かけてますから、これ持って行きますー!ええな?!」
一方的に怒鳴ると、母を振り返りもしないで玄関のドアを開けて飛び出した。
―クッソ……
『冷凍食品、冷凍庫に入れたいから鍵取りに行っていい?』
滝にラインすると
『いいけど、冷凍食品、って?』
『迷惑かけとうからお礼』
『熱でもあるん?( ´艸`)』
「はぁ…ええなぁ…ラインの返信さえ、優しいし可愛いし…ヤサカワや~」
ヤサカワ、ヤサカワと調子をつけて言いながら、千流のドアを開けた。
「いらっしゃい」
もう、その一言だけで半分は癒される。
カウンターには颯斗と高見草介。
滝が、自然な感じで篤仁の方に移動してくる。
「ども」
入り口から1番近いカウンター席に座り
「うーー…疲れた…」
両手を伸ばし、ズリズリズリーとカウンターの上を滑らせ、パタン、と額をカウンターに付ける。
ピト…掌に冷たい感触。
キュ、と握りこんで手を引っ込め、そのままそれをハーフパンツのポケットに入れる。
高見も颯斗も全く気付いていない。
妙に優越感を感じて顔がニヤける。
「はい」
生ビールと、ナッツを篤仁の前に置き、微笑む滝。
「なんかキスしたなるー!キスしたい!ホモでもないのに!」
「退場ー」
颯斗と高見が同時に言った。
△
颯斗と草介に、退場を言い渡された志賀は、冗談と解っているのに、これ幸いとグラスのビールを飲み干して
「御馳走様でした!」
と立ち上がり
「や、冗談やし」
と慌てる颯斗に
「まあまあ、ね」
とニコニコしながら会計をして帰って行った…俺の部屋に……
『家帰ったら、オカンが煩くて。暫く滝さんとこ、居てもええですか?』
『好きなだけ、どーぞ』
『Yeah!』
嬉しすぎて、俺は勘違いしてしまいそうだ。
萌花の顔は浮かぶけど、今だけだから…今だけだから…と届きもしない言い訳を繰り返し、奇跡の時間がやはり少しでも長く続いてほしいと思ってしまう。
きっかり2時に店を閉めて、速攻で片付けてゴミを出し、タクシーに乗って帰宅したのは2時半。
「お帰り!滝さん!」
またもパン一の志賀が頭をガシガシ拭きながら迎えてくれる。
「ただいま。アイス食う?」
「食う食うー!わ、ガリンガリン君やっ!やっぱ解っとうなぁ、滝さん!ありがちゅ!」
……ッ
不意打ちでキスが来た。
ぶつかっただけのようなライトなキス。
こっちは狼狽を必死で隠すのに、志賀は涼しい顔。
「お前は、そんなんすんな」
「え、何で?」
「お前、ちゃうやん」
「ちゃうって?」
「店でも言うとったやん。俺ホモちゃうのに、って」
「そう!そうなんすよ!俺、女メッチャ好きやし、野郎なんかに興味ないのに、滝さんの顔はメッチャ好きで、キスはしたいと思うんですよ。背中で出すのと」
「……」
リアクション不能。
固まっていると
「その顔ー。もしかして俺を誘ってる?誘われてまうー」
「誘ってなぃ……んッ………」
顔を包んだ手の指が動き、耳介をこそばすようにする。
口腔内に入り込んで来た分厚い舌は歯列をなぞり、千佳史の唾液を吸い、千佳史の舌を充分味わうと、さっと唇に戻って、唇を丹念に舐め、また口の中に戻ってくる。
腰に…クる、キス……
志賀の手が、Tシャツの裾からスッと入り、腹に当たった。
ビクン…ッ
サッと身を引く。
「おッ…と…」
志賀が我に還る。
―あ、なんか……どうしよ…
「ごめん…?」
何故、体を引いたのか、解っていない様子。
―解らんでいい。
解らんといて、俺の気持ち…な?志賀……
「な、滝さん…背中…見せて?」
「ちょ…待って…アイス」
「後でもいい?」
志賀はコンビニの袋を冷凍庫へ。
何処までもマイペースな志賀を、つい許してしまう……
「上、脱いで?」
言われるままに、志賀に背中を向け、Tシャツを脱ぐ。
志賀はまた、胸を隠して四つん這いになった俺の背に重なり、自慰で果てた。
そんな毎日が続き、3度目の週末―
「明日、2時に《リブラブ》来られるか?」
『行く。待ってる』
予定より伸びたが、萌花とは話さなければならない…
そう思って、篤仁は話しをする覚悟を決め、萌花を呼び出した。
悪夢の土曜から3週間。
2時ちょうどに《リブラブ》に着き、店内を見渡すと、小さく手を上げる萌花を見付けた。
「よう」
「ひさしぶり…あっちゃん」
そして、俺が喋り出す前に、萌花は驚くべき言葉を言ったのだった。
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