優しい人

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優しい人・第35話

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《惚れてるよ 応えはいつも 俺も好き》

作者は草介。

―「草介さん、モロー!」
 「キャー、もう、公開告白止めてー!」

30件程似たようなコメントが続く。

その下に草介が
―これ、わからんかー?泣
とコメ辺。

「もう…草介さん」
千佳史は笑って『俺も好きー』と書き込む。


それから1週間くらい経ってからのことだった。

《優し人 今さら恋して 逢いたくて》

―優し人…

瞬間
『もう滝さん、優しいー』
片笑窪を作って笑う志賀の顔がフラッシュバックした。

作者の名前はなく、匿名だ。

「んなわけない…っと。ビジターかな?名前忘れ?…」

―「え、誰々?すごい、いい!」
 「ビジターさん?」
 「切ない×100!やられたー!!」
 「名前書いてー!知りたーい!」

 等々と、登録メンバーからのコメントがかなり多くついている。

…え?これ…

ザクンッ━━━
耳鳴りのような音が鳴る。

―「俺、別れました。今、一人です」

この川柳に対するコメントとは思えない。
だとすれば、考えられることは、メッセージ…

この川柳の作者からの……


壊れる程に心臓が暴れる。

ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ……
音が実際出てるんじゃないか?と思うほどの拍動。

何か顔が熱くて、洗面所に走り、顔を洗う。
冷たい水が心地良くて、勢い良く出した水を両手で受け、何十回も顔にぶっかける。

少し、心臓が落ち着いて、動きを止めると、ジャーーッという流水音が急に耳に入り、レバーをポンと押して水を止めた。

鏡の中の濡れた顔。
間抜けな顔…

―何、ドキドキしとうねん、そんな筈ないやろ……

志賀は結婚した。萌花さんと。
2人はもちろん、家族や周りの多くの人を幸せに導く結婚を…
萌花さんの妊娠が、彼女の過ちや魔が差した、などではなく、災難に遭った被害者だと判った志賀の心は、捻くれを解いて、ちゃんと萌花さんに戻った。

元々、深い愛情で結ばれていた2人。
幸せそうな結婚式の写真には《幸せです》と、志賀の字で書かれていたじゃないか。

きっと今頃は、不妊治療が実を結んで、小さな命を授かっている…
もう暫くしたら《子供が産まれました!》って写真葉書きが来て……

「そやそや。ほんま、頭沸いとんか、って。どんだけ寂しいヤツやねん」
自嘲しながらダイニングに戻る。

そして先ほどの川柳に、コメントなしはマズイので、もう1度パソコンの前に座った。

全ての川柳に、サイトの管理人として必ずコメントすることにしている。
この一句だけスルーしたら大変だ。

『今さらなんですか?』
とコメントする。

そして、川柳と気になるコメントをコピーして、別枠に並べてみる。


《優し人 今さら恋して 逢いたくて》

―「俺、別れました。今、一人です」


・・・・・・・・。


―志賀?志賀なん?………





ゲイセックスのお勉強を初めてから、神戸では滝の知り合いなんかがいたら嫌なので、大阪のゲイバーの中から見つけた《美滝》というバー。

「美滝!美しい滝さん!おおー、この名前は絶対俺に幸運を運んでくれるっ!」

篤仁は即決で、その店を訪れ、最初は緊張したが、店に足を踏み入れた途端、いきなり人にぶつかって
「うわ、メッチャかっこいい子。こんなかっこイイの、ここで見たことない。セクは?」
と話しかけてくれた、けっこう年上の男とホテルへ行った。

顔はまあまあイケメン。
体は細い。

篤仁はポッチャリは苦手だ。
太ってさえいなければ、何でもいいのだ。
男に反応しない篤仁には、滝以外は、どんな男でもただの野郎だ。


篤仁は、恭、と名乗った相手に、自分が何故、ここに来たのかを説明した。

「連…習?」
「はい!いきなり本番でコケたら、嫌やし。バチッと決めたいんで」

「解るけど…勃つんちゃう?その彼やったら。顔、オカズにしてんのやろ?」
「うん…勃ちますよ?キスでビンビンですから。でも、あの可愛い顔の下にチンチンついとうとは思いたない、と思ってたんすよね。前は…。今は…わからん」

「うーん…」

「でも、俺、好きなんです。その人が。絶対。男とセックス出来へんかったら話しにならんでしょ?やっぱし」
「彼、先輩なんやんね?」
「はい。1こだけやけど」
「彼にリードしてもらったらええやん」

「無理!」
「何で?」
「そんな人やないんです、って。何ちゅうの?その、大人しいて控えめで、可愛くて、ほんで、もうすっごい恥ずかしがりで、キスとかでも。ヒュッてしゃがんで逃げて、何かカタカタカターとか震えとって、項とか真っ赤にするくらい、もーー…可愛くて…ほんでメッチャ優しい人なんですから」

「ながっ!!そして濃ぉッ!!」

「あ、すいません…でも、俺、滝さん抱きたいもん。そんなん、リードされて抱く?ないない!」

「ええなぁ~。って、滝さん?羨ましいなぁ。抱かれたいわー、俺も」
「あ、名前…ま、えっか、誰も知らんし。いやね、俺は、練習したいと言うか、その、男で勃つもんかどうか、を試したい、言うか…抱くとかちゃうんですよ。俺が抱きたいんは滝さんだけやし」」

「ハッ…参った!篤仁くん、俺で良かったでー?そんな失礼発言したら、怖い人にボコって、って頼むネコもおんで?俺もさすがに傷つく」

「ぇえ?!何で?ごめんなさい!何が失礼やったんですか?」

「……」


目を点にしながらも、その後、実践を交えて、恭は色々と教えてくれた。

初めて触った男の胸は固く、平らで素直にドン引きし
「嫌な顔すんなや、もう…」
と、ちょっと泣きそうにされて反省して、その後、後ろの解し方や、前立腺や、その奥の精嚢の存在を教えてもらった時は、引いてるのを悟られない努力をするだけの配慮はした。

やはり勃たなかったけど、収穫は充分だ。

「勉強なりました!ありがとう、恭さん」
「もう、絶対篤仁くんと来たくない、っつーか、今日、誰かに抱かれんと心折れるわ、俺。何かルックス、ドストライクなんが余計キツイ。篤仁くん、女抱きまくっとうから、テクはあるから、アナルダッチワイフ買って練習し?まあ、その滝さん?の穴、指、こないして、かき混ぜたら、どっかで当たって、エエ声で啼きようから、そこ攻めたらええねん…何?」

くっと腰を曲げた篤仁に、恭が怪訝な顔をする。

「そんなん言うから、勃ってきた。滝さんの喘いでるとことかッ…ヤバイ…」
「もう!最低!ほんならな!金払っといてよっ、授業料!」
「あ、はいはい!ちょっと、待って!一人で出るん恥ずかしい!待ってー」

「待たんしっ」

「もー、何やねん、女のヒステリーみたいやな。俺、何か変なこと言うた?ようワカラン人やな…」


でも、動画や読み物で、頭の中ではすっかりマスターしていたゲイセックスなので、これで大体の感じは感じは掴めた。

篤仁は、その後、スマホで大人のおもちゃの店を検索、素直にアナルダッチワイフを購入し、それからは、家で勉強に励んだ。


そんな毎日の中で草介の投稿を見た時は心が折れそうになった。

篤仁には、ご多分に漏れず、草介のノロケ的なものに思えた。
草介のコメ辺を見ても、???となるだけで、意味は解らず、滝のコメントにへこたれそうになったが

「俺のこの努力はどうなるねーん!」
と雄叫び、何とか自分を励まし
「こうなったらもう、破れかぶれや。宣戦布告したる!」
と、1週間くらいかけて考えた川柳を《みんなの川柳》に投稿した。

勢いの割には、名乗る勇気はさすがになかったので、滝さんなら解ってくれるのでは、と期待を込めて、コメント欄に
“俺、別れました。今、一人です”
とコメントした。


『今さらなんですか?』

滝のコメントを食い入るように見る。

滝の想いを測ろうと、ゴチャゴチャと考えそうになるが止めた。


―会いに行こ。


篤仁はようやく覚悟を決めた。

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