41 / 47
優しい人・第41話
しおりを挟むチュッと唇を吸われる。
「シャワー浴びよか」
そう言って、腕枕をしていない方の手を伸ばし、千佳史の髪をクシャッと撫でる志賀は、何かとても慣れていて、自分より大人びて見える。
きっと、ずっと決まった人がいた志賀の経験した数は、千佳史のそれとは比べ物にならない程のものなんだろう。
ゆさ…
抱き上げられ、シャワーに向かう。
「だ、大丈夫やで?」
「運びたいの。俺に任せて」
志賀が微笑む。
きっと、これまで付き合ってきた女性全てに、志賀はこんなふうだったんだろうな…
ちょっと落ちる…
人はどこまで強欲なのか。
『こんな日が来るなんて!』
と、夢でもいい、と今、涙を流したのに、もう志賀の過去に嫉妬する自分。
「どうしたん?滝さん、顔がブルーやで?しんどなった?痛い?」
―顔に出てた?!
「ん?ううん!何もちゃうで?全然、大丈夫!」
浴室に千佳史を抱いたまま、胡座をかいた志賀が、ジーッと千佳史の顔を見てくる。
顔が引き攣るが、何とか笑う。
「嘘」
「へ?何が?」
「何か思とう。言うて」
「……」
「早く。言うてみて」
「…や、すごい…下らん、こと…」
ふん、と鼻から息を出し、志賀がギュッと抱きしめてくれる。
「言うて。滝さん、これまで俺を好きな気持ちも、寂しさも悲しみも、何も言葉にせんかったやろ?すぐは無理かもやけど、これからは気持ちはどんどん口にする連習していって?なんぼ愛し合うとったって、心の中は見えへん。想像はするけど、間違うこともあるやろ?そんなんでもし、すれ違ったら嫌やん?」
確かにそうだ。
信じさえすれば良かったものを!という場面は、現実でも、映画やドラマ、小説の中でも腐るほど出てくる。
心を言葉にする。
全部は無理でも、少しづつ…
出来そうな言葉から、少しづつ開放して。
話して放すのだ。
話して、自分の中から迷いや悩み、傷や嫉妬…そんな負の心を放す━━━
「俺、ヤキモチ妬いた。志賀の過去に」
「ぇえ?!マジで?嬉しいっ!!俺と一緒やん!俺もさっき、言うたでしょ?何、どこどこ?どこらへんで妬いた?」
志賀に抱きしめられたまま、ゆさゆさ揺さぶられる。
引かれるかと思えば、何故か志賀は嬉しそうだ。
そう言えば、自分もさっき志賀に、自分の最初の男になりたかった、他の男の記憶消して、と言われて、嬉しかった。
―そうやんな…志賀は俺を好きになってくれたんやから、俺は志賀に妬いてもいいんやん?
「なあ、どこで、どこで??」
耳近で志賀のちょっと高めのハスキーヴォイスが響く。
「ん…何か、大人っぽいから…。いちいち。だから、すごいエッチとか数こなしとんやろなぁ…って漠然と辛なった、って言うか…」
「もう、滝さんッ…」
「く、苦し…ッ…」
物凄い力に、背中が軋んでさすがにギブだ。
「あ、ついッ…ごめん!そうねぇ…数はこなしてますね~。回数ね。相手の人数は知れてるけど。俺、基本、付き合う気ないやつとせえへんから」
―愛し合ってた、ってことやんな?……微妙…
そう思うが、こんな曖昧な気持ちは言葉にはまだ、出来ない。
「あ、また!また変な顔しとう!」
「そんなことない」
「そんなことある」
「…愛し合ってた、てこと…やんな…?」
「…ん?」
「あ、嘘嘘!ナシナシ!!今の!」
「ワッカラン……」
志賀が思案顔で首を捻る。
「え?は?」
「いや、愛し合ってた?と言われれば……多分、そりゃそん時は、熱中しとった筈やけど、あー、顔くらいは覚えてますけどねぇ…あ、萌花は覚えてるけどね、さすがに。でも、なぁ…どやったかなぁ……忘れた!へへ…」
いつもどこかズレているが、ヘラッと笑うこの時の志賀の答えは、今の千佳史にとって、最高の大正解だった。
「わっるー!」
「そう言いながら、滝さんゴキゲンなったやん」
「うん…。嬉しい」
「わっるー!そんなイケズにはお仕置き!」
「わっ!!」
座った体勢で千佳史を抱いていた志賀は、そのまま、千佳史の膝を持ち、ガバッと左右に開いた。
何せ明るい浴室だ。
前面の浴室鏡に、志賀の胡座の上でM字開脚させられた己の姿。
「ゃめて…」
思わず顔を背ける。
「最ッ高…ヤバい…エッロ……」
志賀の息が荒い。
「ちょ、滝さん、エロい…ヤバい…ちょ、脚、閉じたらアカンで?ここ、自分で持って、ここ」
自分の膝を掴まされる。
鏡には、自ら脚を開いて誘っているかのような自分が映る。
志賀が、後ろからわざと荒く胸をまさぐってきて
「黒と白やん。俺の手、黒ォー。何か、おらおら~言うてオッサンにいじくられとう白人の娘って感じやなぁ…いや、娘ちゃう。白い美少年」
「三十路や」
「そんなん!だって、キレイもん!そんなん言うて、俺の滝さんを侮辱したから、もっとお仕置き!」
「本人や、って!」
「あかーん!アウト!」
志賀は、千佳史の手の上から、また千佳史の膝を持ち、更に脚を拡げ、グイッと尻を見えるように持ち上げた。
「も、止めてっ!ほんま、やめて!いやや、いやっ!!ややー……ぅ…ゃゃ……ゃ」
「あ、ごめん、…ごめん、滝さん、悪乗りした!ごめんな?泣かんといて?」
「ヒッ…うん……ズッ…そんなん、汚いやん…そんなとこ…見んといて…ヒクッ…」
「汚なないけどなぁ~」
「嫌っ」
「はい…じゃ、止める!止めますッ。でも……そのうち慣れたら見せて??ってか、強姦ごっことかさせて?」
「・・・・・」
―志賀…ストレートやけど、ノーマルちゃうかってんな……
志賀を大好きで、それは何があっても変わらないが、ちょっとだけそこは直してほしい千佳史だ……
「あーごめん!やっぱガマンできんー」
また志賀のキスの雨が始まり、愛撫がきて高まって…先にイカされてしまった…
「俺もいくな、よっ…」
後ろを向かされ、自分の迸りが散った鏡に手をついて、志賀の高速ピストンを受ける。
「……シィッ……ツゥ……あ、シィッ…」
1年前、志賀が千佳史の背中に乗って、一人で扱いていた時、いつも出していた歯音。
急にあの切なさを思い出した。
「うしろ、いやゃ…」
クルッと振り返り、広い胸に抱きつく。
△
いきなり滝が振り向いたかと思うと、抱きついて来た。
まだ、最後まで出していない。
合わさった2人の間に、残った精が、タラ……と流れる。
「も、まだ……。ちょ、しっかり出てへんのに…え、どしたん?滝さん?」
バックで思い切り腰を振った。
最高に気持ちいいセックス。
先にイった滝の中に放ち、しっかり最後まで飲み込ませたかったのに、浴室鏡に手をついて、人形のように揺さぶられていた滝が、最後の最後で、いきなり向きを変え、胸に飛び込んで来て
「うしろ、いやゃ…」
と、訴えて来る…
とにかく抱きしめて、精を出し切る。
滝は黙ってシクシクやっている。
きっとこれまでの相手なら、ええ加減せえよとイラついていただろう。
だか、滝に対してはそれがない。
愛おしくて堪らないのだ。
何度止められても何度泣かれても、それが自分に対する愛を隠し続けるしかなかった滝が、人並みに感情を出せるようになる為の作業なのだと思える。
そしてそれがそのまま、自分への愛の大きさで深さだと思えるのだ。
「どしたん?」
抱きしめたまま、最大限優しい声を出す。
篤仁の問いに、ただ首を横に振った滝だったが
「言うて。言葉にして?」
という篤仁の言葉に頷いた。
「どしたん?」
もう1度聞く。
「思い出した…から…」
「何を?」
「去年…一緒におる時…志賀が、俺の…背中で……」
―あ、ああ、そうか!女の代わりみたいだったことを、思い出した…!
「ごめん!滝さん…バック、やめとこな?」
「違う!ごめんな?…俺、それでも、あの時は幸せやってん。志賀が、俺の顔や背中で興奮してくれて…それは、全然、嫌じゃなかった…ほんまに……やのに、こんなに…愛…?されたら」
「愛やで?愛しとう」
篤仁は、抱きしめた手に力を入れ、宇宙一可愛いのに何処までも自身のない、疑り深い恋人を強く抱く。
ズズ…
鼻を啜る音がする。
宇宙一可愛くて、宇宙一、泣き虫な恋人、やな、と篤仁は心で密かに訂正する。
「ふふ…ありがとう…だから、その、こんなに愛されたら、急にあの頃のことが切なくなって…もしかしたら、ちょっとだけ辛かったかな、とか……や、そんなことないな、やっぱり…あれ?何言うとんや、俺…」
「何でもええよ。とにかく、過去は変えられへんからな…俺、メッチャ滝さん傷つけて、辛い思いさせてると思う」
腕の中で滝が、ブンブン頭を振る。
「いや。ええねん。俺、無神経でさ、KYで天然。そんなん、周りから嫌っちゅーほどいわれとうから、知っとう。でも、だから、言うとうことは全部、ほんま。滝さんは本音隠すんがクセやから、俺と逆やな。…《千流の 涙は全て 君が為》…。散々、泣いてきたやろ?隠さんでええの」
「……」
滝の、篤仁の背中に回した手に力が入る。
「でも、これからは勝手に泣かんといて。《これからは いつでもそばに おるからね》。どう?これ」
「最高……」
それから2人は体を綺麗に洗い、小腹が空いたなと言い合いながら、カップラーメンを食べて、歯を磨き、一つのベッドで抱き合うと、3秒で眠りについた……
0
あなたにおすすめの小説
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
happy dead end
瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」
シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
この冬を超えたら恋でいい
天気
BL
夜の街で、凪は人生の底にいた。
古いアパートに帰る途中、父の残した借金の取り立てに絡まれ、逃げ場を失う。
そこに現れたのは、大手企業の社長・鷹宮だった。
偶然の救い。年齢も立場も違う二人は、その夜を境に交わることになる。
事情を多く語らない凪は、不幸が当たり前のように身にまとい、誰かに頼ることを知らない。
一方の鷹宮は、完璧な成功者として生きてきた男だった。
危険から守るため、鷹宮は凪を一時的に自宅へ迎え入れる。
冬の同居生活の中で、凪は少しずつ日常を取り戻していく。
大学へ通い、温かい食事をし、夜を一人で怯えずに眠る。
しかし、守られることに慣れない凪は、距離が近づくほどに自分から一歩引いてしまう。
それは、失うことを恐れる、健気で不器用な選択だった。
一方、鷹宮は気づいてしまう。
凪が笑うだけで、胸が満たされることに。
そんな自分の感情から凪を守るつもりで引いた距離が、
凪を遠ざけてしまう。
近づきたい。
けれど、踏み込めば壊してしまうかもしれない。
互いを思うほど、すれ違いは深くなる。
2人はこの冬を越えることができるのかーー
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる