45 / 47
優しい人・第45話
しおりを挟む「何でhappy birthdayやねん?!」
「アホか!新夫婦の誕生やからやんけ!」
誰かの質問に誰かが答え、ウオーともイエーィとも聞こえる歓声がまた上がる。
終わりのない、おめでとうが続く《千流》の夜更け。
昨日の深夜から、千佳史は泣いている時間の方が多いのではないだろうか…
篤仁は細かく震える手をすっぽりと包むように、上から両手で滝の手を握り、スンスンと鼻を啜る、愛しい人の項を熱く見つめる。
最近の千佳史は、店に入っている時は、以前よりまた少し伸びた髪を、無造作にアップにしているので、項がすっきりと出ている。
篤人は、先ほど自分が着けたネックレスの留め金にもハートが施しているのを、その時になって初めて知って、およそ、そんな乙女チックが似合わない従兄弟の顔を思い浮かべて、そっと笑う。
「みんな、撮った?撮った?」
信輔が聞いて回る。
千佳史に悪魔の脅迫をしていた伊川と信輔が同一人物だとは思えない。
「俺の誕生日はどうなったんや??」
常深が笑いながら抗議する。
「happy birthday鳴ってましたやん!」
有田の言葉に
「それで納得しろと。はい、了解!ダハハハッ…」
と更に大笑いであっさり引き下がった。
ケーキカットは無事終了して、佳奈がケーキを切り分け始め、みんなは順番に、新郎新婦?と写真を撮り出した。
「あれ?ペアルック?!」
來人が声を上げた。
「あ、ほんまやっ!」
倉本が2人を見比べる。
「え?」
「ん?」
篤仁と千佳史もお互いを見て、驚く。
「志賀、今日、それ着てなかったやん」
「ああ、1回家帰った時、汗びとでソッコー風呂入って着替えたんですわ」
「そうやったんや…」
「気が合うね、滝さん」
「うん…」
「フォ~!!」
「よっ、ご両人!」
「ラブラブ!」
一頻りの大騒ぎ。
「そのペアルックはどうしたの~ん?」
もう、相当出来上がっている奏流が航大に凭れながら聞く。
「これは…前に、志賀が買ってきて…くれて…」
「ひや~、篤ピーそういうタイプ?」
「ああ、そういうタイプや。俺のもんアピール半端ないぞ?丁度ええから宣言しとくわ。今後、マスターは、何びとたりとも、い……っさい!!触れませんっ!」
「ケチー!」
「最低!」
「マスターが触ってきても?!」
大ブーイングの嵐も、みな、笑顔だ。
その笑顔は、志賀の宣言を受け入れ、志賀を、自分たちの大好きな優しい人のパートナーとして認めていた。
―「ここにくる人はみんな家族」
マスターである千佳史の口癖だ。
《千流》を訪れる客は、みな、かなりの傷を持っている。
一見すれば、五体満足で、容姿などは人より優れていても、中身はボロボロで、生きてるのがしんどい、嫌になった、明日死のうと思う、等と言って来店する者もいる。
殆どが、千佳史にとことん思いをかけてもらい、大切にされて、傷を治してきた。
とんでもない変わり種でへそ曲がりの露衣でさえ、3日と開けずに《千流》に通ってきていたのは、ここに来ると癒えるからなのだ。
ここの客の殆どは、初めての人でもすぐに打ち解け、誰かが扉を開けると
「お帰り~!」
「ただいま~」
「お疲れ~!」
「疲れた~」
等と言う合うようになる。
それぞれの世界で起きる色んなこと。
それを持ち寄って《千流》で流し、浄化して、またそれぞれの世界へと戻り日々を闘う。
そのみんなの中心にいる滝。
お堅いわけではないし、ノリで寝たりもするが、特定の恋人は作らず、ずっと一人でいるし、マスターのセックスネタは聞いても、恋愛ネタは誰も聞いたことがなかったので、誰が言い出したのか、いつしか
「マスターは恋愛不感症」
と言われてきた。
だが《千流》という店名の由来は、誰もが知るところで、千佳史が川柳を詠む人で、カウンター内に貼ってある川柳は、千佳史作の句であることを、みんな知っている。
だからどこかで、一切語らないけど、マスターはきっと昔辛い恋をしたのだろう…だからこんなに人に優しくなったのだろう…という共通理解で、誰も深くは追求して来なかった。
そんな千佳史に、ついに彼氏を飛び越えて、パートナーが現れた。
誰もが、本当に自分のことのように嬉しいのだ。
「ここ、座れ!」
倉本がスツールを2つ並べ、ボックス席の間に置く。
「こっち新郎、こっち新婦…あれ、逆やったかな…えーっと、お雛様が左……」
「どっちでもええがな!アホ!」
悩みだした倉本の頭を、有田がはたく。
「ほな、遠慮なく」
ドカッと志賀が腰掛け
「椅子1個でええのにー。滝さん、ここおいで~」
と両手で膝を叩く。
「い、いや…」
滝は大いに照れて、横のスツールに腰掛けた。
倉本が、座った滝に何やら耳打ちをして、滝が頷いたので、ピッと親指を立てて見せ、皆に向き直った。
「えーっと、コホン!トップシークレットを暴露します…!」
「え、何?」
「何何?」
周りがざわめく。
「ここにある沢山の川柳。これな、ここにも…あんねん」
倉本は、カウンターに走って行って、カウンター内に貼ってある川柳を指差し、カウンターの中から高く積まれた短冊の山を沢山出してカウンターに置いた。
「この夥しい短冊に詠まれた川柳は全て!!この志賀くんへの想いを込めた川柳なのです!」
「えー!」
「嘘!」
「すごいっ!」
「何年愛?!」
「不感症ちゃうやん!」
「マスター、最高!」
「良かったね!」
「何重もおめでとー!」
驚きと祝福が入り乱れ、声が飛ぶ。
「マスター、良かったー!」
奏流が泣き出し、颯斗や安理、瑞姫もシャクリ上げ出した。
滝も当然…
また涙である。
「因みに千佳史くんが志賀篤仁くんに一目惚れしたのは、中2!!俺も…嬉しいっ!!チカ!!」
倉本が泣きながら叫ぶ。
「「「「「「ギャー!!!」」」」」」
全員の声が一塊りになる。
「キース!キース!」
航大が手を叩いた。
すぐに皆が合わせて
「キース!キース!」
の大斉唱になる。
「待て待て待て待て!」
志賀の大声。
志賀が両腕で、しっかりと包んでいる滝は、これ以上ない程の赤面だ。
「あんな?滝さんはシャイなの。そして、こんな店やっとうクセに、自分が主役、ってのが苦手。…見てみ?この顔、りんごにもトマトにも勝っとうやろ?首も、腕も…。これ、脱がしたら、全身、真っ赤やで?」
「ひゃ~」
「キャー!」
「うおーっ」
みんなが叫び、更に滝の顔が赤くなる。
「だからこれで勘弁したって」
言うが早いか、志賀は滝の顔を挟んで持つと、チュッとその額にキスをした。
たった20人程なのに、100人もいるような歓声が上がった―
《千流の 涙はすべて 今日のため》
文学部の4人を残して皆を送り出し、新しい千流を認めて店を出た。
帰り道、4人の先輩とはしゃぎながら歩く、志賀を見つめる。
中学の卒業式で、仲間とはしゃぐ姿に
《女なら よかったですか 春、別れ》
と呟き見つめて滲んだ背中……
去年、再会の日に、この5人でまた、同じようにはしゃぎながら先を歩く姿に、一瞬のタイムスリップ。
再びこの句を呟いて、志賀の背中が滲んでいった……
「滝さんが いいと志賀が 云ふのです…!」
そう呟くと、千佳史は
「待って!」
と5人に追いついた。
0
あなたにおすすめの小説
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる