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第18章 パン屋の王子様

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「でも、おかしいわね!
 いつもは黙って、こんなに帰ってこないなんてこと、ないのに…」
 ようやくドリゼラは、体を動かす。
「ね、何か覚えてない?
 どこへ行ったとか、知り合いとか…」
だがあくまでも、妹に探させようとしているようだ。
もちろん自分も困るのだけれども、身体が不自由なこともあり、
動くつもりはなさそうだ。

 それでもアナスタシアは、母親のことが、やっぱり気になっていた。
なのでしばらくは、困ったように、ウーンと考え込む。
「そういえば…このところよく、お酒のにおいをさせていたわねぇ」
何気なくドリゼラが言うと、
「あっ」
何かを思いついたように、アナシタシアは声を上げる。
「それは、王子様の行方を、探してたんじゃあないの?」
「えっ、そうなの?」
彼女は頭をひねる。
「わかるわけがないのになぁ」
 だけども2人には、ちゃんとわかっていたのだ。
王子の目に、自分達が止まることなんて…
万に一つもない、奇跡に近いことなのだ…と。

「母さんも、かなりムチャをしてたしねぇ」
「歳なのにね、毎晩毎晩、居酒屋通いをしてたら、身体を壊すよね!」
 何だか微妙に、会話がチグハグで、かみ合わないのだけれども。
「それだ!」
いきなり姉娘が、何事か思いつく。
「そこへ行けば、わかるかもよ」
「そう?」
うなづきながらも、それがどこの酒場なのかまでは、この世間知らずの
2人には、わかるはずもない。
「ねぇ…どうやって、探すのよぉ」
不安を隠し切れずに、妹が聞くと
「それは、決まってるじゃない!」
姉のドリゼラは𠮟りつけるようにして、目をキラリと光らせて妹に言う。
「アンタが、その居酒屋を探すのよ!
 毎晩行けば…きっと見つかるわよ」
「えぇ~っ?」
あまりの姉のムチャぶりに、アナスタシアは、
(姉さんってば、自分だけサボるんだ!)
それって、ずるいなぁ~と、ドリゼラのことをにらみつけた。
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