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第18章 パン屋の王子様

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「そうだなぁ~アイツなら、何か知っているのかなぁ?」
 そう言うと、ハンスは知り合いの酒屋へと、行き先を定める。
馬車を降りると、アナスタシアもトコトコと、その後に続こうとする。
「いいトコのお嬢さんが、こんな所に出入りするもんじゃあない!」
すかさずハンスが、彼女を止めようとする。
「え~っ、なんで?」
意味がわからない…
頬をぷぅっと膨らませると、アナスタシアは不満そうに、目をとがらせる。
「だって、母さんを助けなくちゃ!
 きっと、何かあるのよ!」
切れ長の目を吊り上げると、ハンスをにらみつける。
「それは、わかるけど…
 そこは、君が行けるような所じゃあないから…」
少し困ったような顔で、言葉をつまらせる。
「でも、キミのこと…酔っ払いの目に、さらされたくないんだ」
ポソリと小声でつぶやく。
あら!
アナスタシアはポッと、頬を赤くさせる。
ハンス…今、何て言った?
思わず彼の顏を、見上げる。
色白のポッチャリとした顔のハンスは、真剣なまなざしを彼女に向ける。
「君はね、お嬢さんなんだから…
 そんな所に行ったら、ダメだよ」

 この人だけだ…
あらためて、アナスタシアはそう思う。
自分のことを、お嬢さん扱いをしてくれる人は。
こんな風に、大切にしてくれる人は、他にはいない…
その瞬間、そう確信した。
 何だか照れくさくて、ホワンとした、とても幸せな気分だ…
だが彼女の意志は、そんなことぐらいでぐらつくようなものではない。
そのことに気付いたハンスは、キュッと顔を引きしめると、
「とにかくボクがついているから…
 君はとにかく、よけいなことを言ったらダメだよ」
それでも強い口調で、そう言った。
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