ラストダンスはあなたと…

daisysacky

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第12章  優しくしてよ、モンスター

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「坊ちゃんは…とても優しくて、思いやりのある男の子だったんですよ」
 懐かしそうに、目を潤ませると、珠紀を見つめる。
「そうなんですか?」
その視線の優しさに…今の姿からは、ちょっと想像できないなぁと思う。
「それにね、とってもきれいな男の子だったんですよ」
ちょっと力を込めて、そう言うので…
「そうなんですか?」
思わず声が裏返る。

 それは本当なのだろうか?
 何しろ顔のほぼ半分以上が、仮面で隠されている…
「そうですよぉ。とても天使のような、男の子だったんです」
うっとりとした顔で言うので…にわかには信じがたいけれど、
おそらくウソはついていないだろう…と思う。
 彼女の声を聴いていると、不思議と心がなごんだ。
まるでお母さんのような…なぜだかわからないけれど、
懐かしい空気を感じる。
 山内さんは、ボンヤリとしている珠紀を見ると、クスリと笑い、
「坊ちゃんは…決して悪気はないんですよ」と真面目な顔で言う。
「きっと、あなたのことを思っているんだと思いますよ」
そう言うので、それは本当なのだろうか、と思う。

だがまだ、ピンとくるものがない。
何しろ彼とは、まともに会話をしたことが、ほとんどないのだ。
いつも見張られていたし、優しくされたことも、ほぼない。
「私はね…あなたがいるから、坊ちゃんが優しくなったのだ、と
 思いますよ」
さらに山内さんは続けた。
「私には、そんな力はありません。
 買い被りすぎです」
そうとしか、言いようがない。
だがオバサンは、「いいえ」となぜか自信たっぷりの顔で、
珠紀の顔を見る。
「坊ちゃんはね、いつも閉じこもってばかりで、絶対に人と
 かかわろうとはしなかったのに…
 あなたが来てから、よくあなたのことを話して、
 笑うようになったんです」
まるで自分の子供のように…微笑みながら言うのを聞いて、
それは本当のことだろうか、と信じられない気持ちでいっぱいになった。
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