最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

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囚われの親子編

第10話 不審死

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 ◇ ◇ ◇

 レアルが母と楽しく談笑している頃、ジルヴェスターはフェルディナンドに呼ばれて邸宅に赴いていた。
 フェルディナンドの執務室に備え付けられているソファに腰掛けている。

「それで本題は何だ?」

 ジルヴェスターがフェルディナンドに尋ねる。
 二人は世間話に興じていたが、そんなことの為にわざわざフェルディナンドが自分を呼ぶわけがないと思っていた。

「うむ。そろそろ本題に入ろうか」

 一度頷くとより一層真面目な表情に切り替える。
 海千山千で老練のフェルディナンドが表情を引き締めると、場の雰囲気をも変質させる異様さがある。慣れない者なら萎縮してしまうだろう。

「実はな、昨今有能な政治家が立て続けに亡くなっておる」
「みたいだな」

 偶然にも身近な人が連日亡くなってしまうことはある。病死、事故死、戦死など死因は様々あれど、不幸が重なることはあるものだ。
 政府は情報規制をしており、政治家が連日亡くなっているのは公にはなっていない。だが、ジルヴェスターの耳には届いていた。

「うむ。偶然ならば致し方ないが、どうやら暗殺の線が濃厚でな」
「それは確かか?」
「確証はない。だが、亡くなった者の遺体と現場を検分した結果、不自然な点が見つかった」
「不自然な点?」
「ああ」

 不自然なものとして挙げられた点をフェルディナンドは説明していく。

 元々持病を抱えていたわけでもないのに急死した者。
 三十代で健常者にもかかわらず病死として処理された者。
 巧妙に隠蔽しているが、争ったと思われる痕跡が残されていること。
 極めつけは、亡くなったのは揃ってフェルディナンドが目を掛けていた者たちであったことだ。

「要するに、まともな政治家が揃って処理されたわけか」
「誠に遺憾だがそうなるな」

 フェルディナンドが目を掛けている政治家は有能で清廉な者たちだ。彼等が揃って突然死しているのを偶然と処理するのは無理があった。
 何より、このまま見過ごしていては腐敗した者ばかりが政府中枢を占めることになる。それは到底許容できないことだ。

じじいが疎まれているんじゃないのか?」
「……」

 ジルヴェスターの言い様にフェルディナンドが押し黙る。

「耳の痛い指摘だな……」

 腕を組んで眉間に皺を寄せ、難しい表情をしながら絞り出した言葉は重々しかった。

 フェルディナンドが目の上のたん瘤だが、地位、権力、影響力、人脈、人望、そして魔法師としての実力を加味して、直接本人に手を出すことはできないと判断し、ならば周りから崩していけばいいと考える者がいたとしてもなんら不思議ではない。

 故に、もとを辿ればフェルディナンドが原因なのではないかとジルヴェスターは端的に指摘したのだ。そしてフェルディナンド本人も自覚があるだけに否定しがたかった。

「それで俺に対応をしろということか」
「単刀直入に言うとそうなる」
「だよな」

 フェルディナンドがジルヴェスターを呼んだ理由は、連日の不審死に対する対応を頼む為であった。

じじいの頼みだ。可能な限り尽くしてみよう」
「すまんな。助かる」

 ジルヴェスターとしてはフェルディナンドの頼みを断るつもりはなかった。
 フェルディナンドには普段から世話になっている。無理難題でもなければ断る理由はない。

 フェルディナンドはしっかりと頭を下げて感謝を告げる。
 親しき中にも礼儀ありだ。

「目星はついているのか?」
「いや、情けないことだが現状は何もわかっておらん」
「そうか……」

 少しでも手掛かりはないものかと尋ねてみたが、結果は空振りだ。思わずジルヴェスターは肩を竦める。

「だが、じじいの目を欺けるということは、相応の手練れが関与しているということだな」
「うむ。儂が耄碌もうろくしていなければだがな」

 フェルディナンドは政治家としてはもちろん、魔法師としても優秀で階級は上級一等魔法師だ。場数の豊富さと実績は申し分ない。
 そんな彼の目を欺くことができる者が関与している可能性があるとわかるだけでも収穫だろう。

「遺体には目立った外傷はなかったのか?」
「それは見当たらなかった。故に病死と判断された」
「なるほど。ということは精神系の魔法を用いた可能性が高いか」
「おそらくな。少なくとも表面に影響を及ぼすたぐいすべではないだろう」

 死因が人為的なものだとすれば、表面上に影響が表れない手段を用いたと推測できる。
 真っ先に思い浮かぶのは精神系の魔法だ。精神系の魔法は直接精神に影響を及ぼす為、外傷は生じない。

「いずれにしろ、一度現場をこの目で確認しないことにはなんとも言えんな」
「そうだな。それは手を回しておこう」

 問題の現場を自分の目で確認しないことには何も判断できないが、出先で亡くなったのならばともかく、自宅で亡くなった者の場合は勝手に押し入るのは憚れる。

「それと今後標的にされる可能性がある者のリストをくれ」
「承知した。すぐに用意する」

 既に亡くなった者の死因を調査することも重要だが、最も優先しなくてはならないのは今後狙われるであろう人物を守ることだ。ことが起こってから対処するよりも、未然に防ぐことが肝要だ。その為には事前に標的にされる可能性のある者を把握しておく必要がある。

「しばし待て」

 フェルディナンドはジルヴェスターの要望通りにリストの作成に取り掛かる。

 ジルヴェスターはリストの作成が終わるまで待機することになり、テーブルに置かれたカップを手に取りコーヒーを啜る。
 その後もリストの作成が終わるまでの間、ソファで寛ぐことになった。
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