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第12話 承諾
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「良い人なんだな」
「うん。父さんのことは尊敬してるし好きだよ」
紫苑は組んでいる足の膝に肘を置いて頬杖をつき、少し照れ臭そうにしている。
「学費を払ってくれてるのも父さんだし、未だに毎月お小遣いを振り込んでくれてもいるからこれ以上迷惑掛けたくない」
父は男遊びの激しい母から逃れて、やっと幸せを掴んだ。
新しい家族のこともあるのに、紫苑のことを常に気に掛け尽力してくれていた。
「父さんの新しい奥さんも良い人でね。父さんだけじゃなく、向こうの家族にも迷惑を掛けたくないんだ」
父の新しい奥さんも紫苑には良くしてくれるそうだ。
だからこそ迷惑を掛けたくないという気持ちが強くなっていた。
「母方の祖父母はもう亡くなっているから頼りようがないし」
「なるほどな」
紫苑の事情を聞いて実親は納得した。
だが、一つ気になることがあったので尋ねてみる。
「話を聞いた限りだと母親に問題があって両親は離婚したと思うんだが、何故父親の方に親権が行かなかったんだ?」
確かに母親に問題があるのは明らかだ。にも拘わらず母親に親権が行っている。
初めから父に親権が行っていれば今の状況には陥っていなかった筈だ。
「それは母が父さんに泣きついたからだね。心を入れ替えるからと言って」
父は苦悩した末に、腹を痛めて産んだのは女性の方だから、と母の気持ちを尊重したそうだ。
「それに私もこっちに残ることを希望したんだ。当時仲の良かった友達と離れたくなかったし、見知らぬ土地で暮らすイメージも湧かなかったから」
父は離婚したら地元に戻ると決めていた。
なので父について行ったら必然的に紫苑も旭川に移住することになる。
それが当時の彼女にとっては懸念点であり、最終的に母のもとに残る決断を下すに至った要因だ。
「まあ、その結果がこのザマなんだけど」
自虐をかます紫苑は肩を竦めて深々と溜息を吐く。
表情からは諦念のようなものを感じ取れる。
「それで話を戻すけど、今朝は母の機嫌が頗る良かったから十中八九男を連れ込むと思うんだよね」
紫苑は今朝見た母の様子を思い出して辟易する。
今までも機嫌の良い時は毎回男を連れ込んでいたので、表情を見るだけで母の考えがわかるようになっていた。
「それで今日泊めてくれってことなんだな」
「そゆこと」
事情を把握した実親は合点が行き、腕を組んで考え込んでしまう。
当の紫苑は軽い調子で相槌を打つ。
「いつもはクラスメイトの家を転々としていたんだけど、流石にそろそろ迷惑かなと思ってね」
実家で暮らしているクラスメイトの家を転々とするのは向こうの家族にも迷惑が掛かる。
その点実親は一人暮らしなので家族には迷惑が掛からないという利点があった。
「駄目?」
紫苑は実親の顔を下から覗き込む。
思考に耽っていた実親は組んでいた腕を解いて右手で頭を掻くと、徐に口を開く。
「久世は本当に良いのか? 男の家に泊まるのは」
「うん。君には色々見られちゃっているし今更だもん。それとも私のこと襲うつもりなの?」
「いや、それはない」
「そんな即答されるのはちょっと複雑なんですけど……」
既に実親には大事なところを見られてしまっているので紫苑は割り切っていた。
流石に身体を許す気はないが、万が一裸を見られるようなことがあっても気にならない。
それよりも即座に否定されたことが少しだけショックだった。
「私身体には自信あるんだけどな」
そう言って紫苑は自分の胸を両手で揉む。
確かに彼女の胸は非常に豊満である。実親が今まで出会った女性の中でも一番大きいと断言出来る程に。ワイシャツの胸元をはだけさせているのが目に毒だ。
実親は紫苑の胸に視線が吸い寄せられるのを耐える。
「仕方ない。とりあえず今日は泊めてやる」
一先ず今日のところは泊めてあげることにした。
もし野宿でもすることになったらそれこそ目も当てられない。
何より実親の心に深い傷を残している過去の出来事が脳内を駆け巡る。
トラウマのようなもので、未だに寝られなくなることもあるくらいだ。
一生忘れられないことだと思っている。いや、忘れたくないことだ。
二度と同じ後悔をしない為に紫苑のことは放っておけなかった。
決して胸に魅了された訳ではない。
「あ、本当?」
紫苑は「私そんなに魅力ないかなー」、と呟きながら真剣な眼差しで自分の胸を揉みしだいていたが、実親の言葉に手を止め、顔を向けて確認する。
「ああ」
「ありがとう。助かるよ」
実親が頷いたことで安堵した紫苑は、嬉しそうに微笑んで感謝を告げる。
普段はクールで表情の機微が控えめな彼女にとっては珍しい笑みだ。少なくとも実親は初めて目の当たりにした。
話が纏まったところで紫苑は悪戯を思い付いたとでも言うような表情になり、吐息を多分に含んだ色っぽい声色で提案する。
「お礼におっぱい揉む?」
そう言って両手で自分の胸を下から支えて実親に差し出す。
「……遠慮しとく」
実親は非常に魅力的な提案に心を惹かれたが、理性を総動員して自制した。
「あら残念」
「残念の意味がわからん……」
全然不満ではなさそうな表情で残念がる紫苑の姿に、実親は今日一番の溜息を吐いたのであった。
「うん。父さんのことは尊敬してるし好きだよ」
紫苑は組んでいる足の膝に肘を置いて頬杖をつき、少し照れ臭そうにしている。
「学費を払ってくれてるのも父さんだし、未だに毎月お小遣いを振り込んでくれてもいるからこれ以上迷惑掛けたくない」
父は男遊びの激しい母から逃れて、やっと幸せを掴んだ。
新しい家族のこともあるのに、紫苑のことを常に気に掛け尽力してくれていた。
「父さんの新しい奥さんも良い人でね。父さんだけじゃなく、向こうの家族にも迷惑を掛けたくないんだ」
父の新しい奥さんも紫苑には良くしてくれるそうだ。
だからこそ迷惑を掛けたくないという気持ちが強くなっていた。
「母方の祖父母はもう亡くなっているから頼りようがないし」
「なるほどな」
紫苑の事情を聞いて実親は納得した。
だが、一つ気になることがあったので尋ねてみる。
「話を聞いた限りだと母親に問題があって両親は離婚したと思うんだが、何故父親の方に親権が行かなかったんだ?」
確かに母親に問題があるのは明らかだ。にも拘わらず母親に親権が行っている。
初めから父に親権が行っていれば今の状況には陥っていなかった筈だ。
「それは母が父さんに泣きついたからだね。心を入れ替えるからと言って」
父は苦悩した末に、腹を痛めて産んだのは女性の方だから、と母の気持ちを尊重したそうだ。
「それに私もこっちに残ることを希望したんだ。当時仲の良かった友達と離れたくなかったし、見知らぬ土地で暮らすイメージも湧かなかったから」
父は離婚したら地元に戻ると決めていた。
なので父について行ったら必然的に紫苑も旭川に移住することになる。
それが当時の彼女にとっては懸念点であり、最終的に母のもとに残る決断を下すに至った要因だ。
「まあ、その結果がこのザマなんだけど」
自虐をかます紫苑は肩を竦めて深々と溜息を吐く。
表情からは諦念のようなものを感じ取れる。
「それで話を戻すけど、今朝は母の機嫌が頗る良かったから十中八九男を連れ込むと思うんだよね」
紫苑は今朝見た母の様子を思い出して辟易する。
今までも機嫌の良い時は毎回男を連れ込んでいたので、表情を見るだけで母の考えがわかるようになっていた。
「それで今日泊めてくれってことなんだな」
「そゆこと」
事情を把握した実親は合点が行き、腕を組んで考え込んでしまう。
当の紫苑は軽い調子で相槌を打つ。
「いつもはクラスメイトの家を転々としていたんだけど、流石にそろそろ迷惑かなと思ってね」
実家で暮らしているクラスメイトの家を転々とするのは向こうの家族にも迷惑が掛かる。
その点実親は一人暮らしなので家族には迷惑が掛からないという利点があった。
「駄目?」
紫苑は実親の顔を下から覗き込む。
思考に耽っていた実親は組んでいた腕を解いて右手で頭を掻くと、徐に口を開く。
「久世は本当に良いのか? 男の家に泊まるのは」
「うん。君には色々見られちゃっているし今更だもん。それとも私のこと襲うつもりなの?」
「いや、それはない」
「そんな即答されるのはちょっと複雑なんですけど……」
既に実親には大事なところを見られてしまっているので紫苑は割り切っていた。
流石に身体を許す気はないが、万が一裸を見られるようなことがあっても気にならない。
それよりも即座に否定されたことが少しだけショックだった。
「私身体には自信あるんだけどな」
そう言って紫苑は自分の胸を両手で揉む。
確かに彼女の胸は非常に豊満である。実親が今まで出会った女性の中でも一番大きいと断言出来る程に。ワイシャツの胸元をはだけさせているのが目に毒だ。
実親は紫苑の胸に視線が吸い寄せられるのを耐える。
「仕方ない。とりあえず今日は泊めてやる」
一先ず今日のところは泊めてあげることにした。
もし野宿でもすることになったらそれこそ目も当てられない。
何より実親の心に深い傷を残している過去の出来事が脳内を駆け巡る。
トラウマのようなもので、未だに寝られなくなることもあるくらいだ。
一生忘れられないことだと思っている。いや、忘れたくないことだ。
二度と同じ後悔をしない為に紫苑のことは放っておけなかった。
決して胸に魅了された訳ではない。
「あ、本当?」
紫苑は「私そんなに魅力ないかなー」、と呟きながら真剣な眼差しで自分の胸を揉みしだいていたが、実親の言葉に手を止め、顔を向けて確認する。
「ああ」
「ありがとう。助かるよ」
実親が頷いたことで安堵した紫苑は、嬉しそうに微笑んで感謝を告げる。
普段はクールで表情の機微が控えめな彼女にとっては珍しい笑みだ。少なくとも実親は初めて目の当たりにした。
話が纏まったところで紫苑は悪戯を思い付いたとでも言うような表情になり、吐息を多分に含んだ色っぽい声色で提案する。
「お礼におっぱい揉む?」
そう言って両手で自分の胸を下から支えて実親に差し出す。
「……遠慮しとく」
実親は非常に魅力的な提案に心を惹かれたが、理性を総動員して自制した。
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