君の痴態が忘れられないんだ。

雅鳳飛恋

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第88話 合流

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 砂浜に移動した二人の視線の先には、映画の撮影をしている一団の姿があった。
 その撮影を離れたところから見学している千歳、慧、唯莉の背後から近寄っていく。

「あ、サネちーだ!」

 実親が声を掛ける前に、たまたま振り返った唯莉と目が合った。

「こっちこっちー!」

 右手で大きく手を振る唯莉に反応して千歳と慧も振り返る。

 撮影中にもかかわらず大きな声を出してしまっているが、幸いにも今はディレクション中だったので邪魔にはなっていない。

「今来たの?」

 三人のもとに歩み寄った実親に、千歳が声を掛ける。

「ああ」
「意外と早かったね」
「そうか?」
「うん。もっと遅いかと思ってた」
「これでも行きたい所は粗方寄って来たんだけどな」

 千歳は意外感をあらわにしているが、実親自身は寧ろ寄り道し過ぎたと思っていた。

「楽しかった?」
「ああ、色々勉強になった」
「……勤勉だね」

 実親にとって観光は歴史の勉強や小説のネタ探しを兼ねている。
 彼にとっては極々普通の日常なのだが、千歳からしたら高校生らしくないと呆れてしまう仕事人間振りであった。

「麗ちゃんはどこ行ってたの?」

 首を傾げる唯莉の視線が麗に突き刺さる。

「秘密よ」

 麗は語尾にハートマークが付きそうな色っぽい声色でウインクをしながら答えた。

「えー、麗ちゃんのケチー」
「ミステリアスな女性はモテるのよ」

 唇を尖らせ拗ねる唯莉に対して、艶笑えんしょうを浮かべて誤魔化す麗は自分の奔放さを自覚しているが故に、直前まで何をしていたのか話す気はなかった。

 未成年の女子には良くない影響を及ぼしてしまうかもしれないと思っていたからだ。それならはなからこんなところでおっぱじめるなという話なのだが。

「颯真と亮はどうした?」
「二人ならどこかでナンパしてるよ」

 実親の問いに慧が答える。

「あいつらは懲りないな……」
「本当にね」

 暇さえあればナンパする友人の節操のなさに溜息を吐く実親に、慧は肩を竦めながら相槌を打った。

 尤も、亮と颯真ではナンパの意味合いが異なる。亮は純粋に彼女が欲しくてナンパをしているが、颯真の場合は完全に遊びだ。なので実親と慧の呆れの矛先は大半が颯真に対するものであった。

「それにしても三人とも水着似合っていて可愛いわね」

 水着姿の千歳、慧、唯莉のことを微笑ましげに眺める麗は素直な感想を述べた。

 千歳は赤いタイサイドビキニを着ており、くびれた腰、豊満な胸と尻、しなやかな手足を惜し気もなく披露している。髪はポニーテールにし、ピアスやブレスレットが彩りを加えて彼女の魅力を一層引き立てていた。男女問わず魅了すること間違いなしのあでやかさだ。

 黒のクロスホルタービキニを身に付けている慧は、彼女のクールな印象と相まって美しさとかっこよさを上手く両立している。髪の隙間から時折姿を見せるピアスと、頭上に乗せているサングラスが中性的な印象を強め、三人の中で最も背の高い慧は男よりも女性の視線を引き寄せる魅力があった。

 逆に最も小柄の唯莉はフリルの付いた花柄のオフショルダービキニを着ている。肩には遮るものが一切ないので鎖骨がはっきりと見えていてセクシーだ。ツインテールにしている髪にピアスとブレスレットがアクセントとなり、フェミニンな印象を強めつつも小悪魔感を損なわない姿は、女性よりも男性陣を虜にすることだろう。

「黛君もそう思うわよね?」
剥製はくせいにして自宅に飾っておきたいくらい魅力的ですね」

 麗に話しを振られても悩むことなく性癖を垂れ流す実親は流石と言う他ない。

「怖っ!」
「猟奇的……!!」

 身の危険を感じた千歳と唯莉が立て続けに身を震わせ――

「それは褒め言葉なの……?」

 慧が苦笑しながら首を傾げた。

「それくらい魅力的ということだ」
「例えが斜め上すぎて素直に喜べないんだけど」

 引きり気味の頬を呆れで上書きして澄ました顔を維持する慧の台詞に、千歳と唯莉が「うんうん」と頷く。

「でも私は嫌いじゃないよ!」
「ええ……」

 今さっき頷いていたのにもかかわらず、まさかの態度を示す唯莉に千歳は少しだけ引いてしまった。
 剥製はくせいにしたいと言われることが嫌いじゃないとは正気を疑われてしまっても仕方がないだろう。

「唯はМだから……」
「そうだった……」

 溜息交じりに呟いた慧の言葉に唯の性癖を失念していたことに気が付いた千歳は、「いや、だとしても剥製はくせいはないでしょ」、と冷静にツッコミを入れた。

「えー、私はありだと思うけどなー」

 唯莉は頬を膨らませて不満をあらわにする。

「唯とは気が合いそうだな」
「ねー!」

 口元を緩める実親に満面の笑みを返す唯莉。

「特殊性癖の二人が意気投合してる……」

 実親のことを意識している千歳だが、この時ばかりは嫉妬心が微塵も湧いて来なかった。

「特殊性癖とは違うけど、麗ちゃんの水着エロ過ぎない?」
「それ私も思ったー!」

 慧がかたわらで微笑んでいる麗の全身を流し見ながら呟くと、唯莉が興味津々といった様相で水着を眺め始めた。続けて千歳も加わり、女四人で和気藹々と会話を弾ませる。

 その様子に自分の出る幕がないと判断した実親は、ディレクションをしている宰のもとへ歩を進めた。
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