18 / 215
中央の国 ワクサレア
018 彼方の城壁 / 特訓は計画的に
しおりを挟む
:::
ふたりの紋唱術師が悩み足掻いていたころ、遠く離れた別の場所でも苦悶している者がいた。
マヌルド帝国、首都アウレアシノン。二重の城壁に囲まれているこの都市では、住んでいる場所がそのまま当人の階級を示している。
中央に皇帝一家の居城が据えられ、その周り──内側の城壁に囲われた区域──は貴族の中でもとくに位の高い家のみが住まうことを許されている。
その上級貴族の邸宅のひとつに暮らす伯爵で、本人は帝国軍のすべてを掌握し取り仕切る権限を有する将軍の地位にある男……ハイダール・ウムス=ラディウ・クイネスは、怒りに震える拳を目前の壁に叩きつけた。
彼の背後で状況を説明していた部下は震え上がったが、椅子に腰かけていた夫人はちっとも気にする風情もない。
ただ絹のような美しくなめらかな声で、まるで小さな子どもでもあやすように優しく──あなた、落ち着いてくださいな。ロンショットが怯えていますわ──と言った。
「落ち着いていられるか! もう一週間だぞ! 貴様の部隊は何をしている!」
「は、はい、城下一帯をくまなく捜索いたしましたッ! ですがご令嬢の姿を見かけたという住民はおらず……」
「それはもう聞いたわ!」
クイネス将軍は肩を怒らせたまま振り返り、部下であるロンショット少佐に詰め寄った。
「あの愚図が……もはや帝都におらぬという……その意味が貴様にわかるか?」
「は、はい、あの、いえ」
「お馬鹿さんねえロンショット。か弱い娘がひとりで都を出て行くなど不可能、つまり誰かが手引きしたということ……と夫は言いたいのよ」
「はっ……ですが伯爵夫人、お嬢さまのご交友関係はすでに調査済みです。本日まで全員この帝都内に居ることが確認されております。何者かが手引きしたというのは、その、少々考えにくいかと……」
「あら。外から来た方かもしれなくてよ。学院に旅の術師が訪ねてくるなどよくある話じゃなくて?
世間知らずなうちの娘が、見聞広い旅の方に心を許した……なんてこともありうるのではないかしらねぇ」
夫人は面白がるような素振りさえ見せながら将軍を伺った。彼女の夫は顔を真っ赤に染めて怒り狂い、両顎の歯がすべて砕けそうなほど力強く食いしばっていた。
将軍は自他問わず厳格に接する人柄で知られている。
そして歴史ある名家クイネスの威厳と地位を守るために、自らの娘をも鞭打つ勢いで厳しく育ててきた。良家の子女として持つべき慎ましさと気品を備え、なおかつ将軍の娘として恥じぬ力と知をも併せ持つ、強い娘に育てようとしてきたのだ。
その娘が家出をしてもう七日以上が過ぎている。彼の心境は、顔と同じく燃え盛る炎となっていることであろう。
しかもただ出て行ったのではなく、どこの馬の骨ともしれない男が一緒かもしれないと思えば、穏やかでいられぬのも無理はない。それが彼女自身の意思であっても、あるいは詐欺師に誑かされただけだとしても。
なんにせよ伯爵令嬢として許されない行為であることは間違いない。
クイネス将軍は怒りを露にしたままロンショット少佐に命じた。彼の娘が失踪する前に帝国立紋唱学術院を訪れた外部の人間がどれほどいて、そのうち何人がすでに帝都を離れているのか──その全員の行方を調査せよと。
ロンショットは震えた声で敬礼し、急いで部屋を出て行った。彼が出て行ったのを見届けると、将軍は夫人の真向かいの椅子にどっかりと腰を下ろし、深い溜息をついた。
「そんなに心配なさるなら、普段からもう少し優しくしてやればよろしかったのに」
「何を言うか。私の教育に間違いはない」
「……そうかもしれませんわね。あんなに気が弱くておっちょこちょいな子でも、こうして家出する勇気は持っていたようですもの」
「それは嫌味か、ヴァネロッタ。……しかし七日経っても何の要求もないとなれば誘拐の可能性はあるまいな」
「わかりませんわ。あなたには敵が多いもの」
将軍は顔をしかめる。
あらゆる手で政敵を捻じ伏せ、クイネス家の地位を守るためには犠牲も厭わない考えで生きてきた彼には、その死さえ望む者も少なくはない。そういう者の魔手が娘に伸びた可能性は否定しきれなかった。
それなら自分自身を狙えばいい。しかし、将軍の名に恥じないよう鍛錬し熟達した彼の紋唱の腕を前に怖気づき、彼よりもずっと弱い娘を狙ったということは充分に考えられる。
だがそれならなぜ死体が出てこないのだ? よもや自殺ではないかという考えが当初によぎったこともあり、そういう可能性を含めて帝都内を捜査するよう部下たちに命じているが、そのような報告は一切なかった。
気性の荒い将軍を激昂させないよう黙っているのなら話は別だが、それも長く隠し通せるものではない。
一体何者が娘を誑かし攫っていったのか。そして、娘は今どこにいるのか。
煩悶する将軍に対し、夫人は鷹揚に受け止めていた。娘が厳しすぎる父に抑圧されて苦しんでいたことを、母親として日々見守ってきた彼女にしてみれば、このたびの家出はある種好ましい事態ですらあった。
もちろん、伯爵家の人間として真正面から賞賛するわけにはいかないことも重々承知している。
だが、彼女が知る限り、娘は弱すぎる。家出したとされる日の前の晩も、彼女が演じた失態について父にひどく叱責され、夜空が白むまで泣き明かしていたのを、母は知っている。
紋唱術についてもそうだ。夫人は自分が紋唱術を使えるわけではなかったが、夫を通じてそれらの知識は持っているし、伯爵夫人として国が主催するもろもろの行事に参加して見識を深めてきた。だから自分の娘がどの程度の技量を持っているのかは理解している。
ゆえに彼女がひとりではないと断言できるのだ。
必ず誰かが傍にいる。
それは女かもしれないが、男である可能性のほうがもっと高いだろう。旅人と仮定するとなおさらだ。女の旅人は少ない。
果たしてそれはどんな男だろうか。もしいつか娘が彼を連れて戻ってきたならば、伯爵夫人として見極めねばならない。その男がクイネス家に相応しい人物かどうか、そして何より、己の娘の生涯を任せるに足る男であるかどうか。
もっとも娘が自分の意思で戻ってくる可能性など麦粒ひとつほどもないとも思っている。
それくらいの覚悟でなければ家出などできようはずもない。生半可の覚悟で出て行ったのならすぐに見つかっているはずだ。
しかしそれらを夫に伝えると、この男は壊れてしまうだろう。それで夫人はそっと夫に歩み寄り、その肩を優しく抱いて、なだめるようにこう言った。
「ロンショットが見つけてくれるか、スニエリタが自分の意思で帰ってくることを、クシエリスルの神に祈りましょう。
そして無事に帰ってきたなら、いきなり叱るのではなくて、まずは抱き締めてあげるのですよ」
「……それはおまえの役目だ。私ではない」
将軍はそう言って頭を垂れると、黙り込んだ。
* * *
なんか嫌な音がする。いや、さっきからずっとしてる。気のせいだと思いたかったが、さすがに気のせいでは済まされないレベルの音が聞こえてきたので、ミルンは恐る恐る振り返った。
果たしてそこに広がっていたのは森である。見渡す限り樹、樹、樹……前後左右もう訓練場の形がわからないほどに木々が生い茂り、上下にも天井が見えないほど高々と並びそびえていた。
ひどいありさまだ。訓練場を使用後は、円内を使う前の状態に戻さねばならない規則なのだが、これを消すにはどれくらいの時間がかかるだろう。
森の中からは心地良さそうなカエルの歌がゲコゲコと聞こえてくるが、その機嫌のよさがなおさら癪に障る。
遣獣たちに片っ端から伐採していくように命じ、ミルンは森へ踏み込んだ。足元も絨毯を敷いたように隙間なく苔が生しており、どこを踏んでもふかふかと柔らかい質感だった。これだけ苔が生育した原因は間違いなくカエルの放った湿気に違いない。
やがて歩き進んでいくうちに、カエルの歌に混じってふんふんと人間の鼻歌が聞こえてきた。
「思ったよりイケるかもー♪」
「じゃねえよ何やってんだおまえは! 今すぐ止めて全部枯れさせろ!」
「あ、ミルン。……なんで怒ってんの?」
楽しそうに樹を生やしまくっていた犯人であるララキは、頭にプンタンを乗せたまま首を傾げた。そのまま落っこちたカエルも楽しそうに苔の絨毯を転がってゲコゲコしている。
「遊びに来てんじゃねえんだぞ。あと出てくときにきちんと片付けしてけって規約にあっただろうが」
「そうだっけ。でも遊んでないもん。これもれっきとした練習」
ほら、とララキが樹の一本を指差す。
大陸南部によく見られるふつうの広葉樹だ。これがなんだと言うのか。意味がわからず怪訝な顔になったミルンを見て、ララキはちょっと怒りながら、もっとよく見てよと言う。
「こっからここまでぜんぶ同じ種類の樹! で、育ち具合を順番に並べてみました!」
「……ああ、言われてみりゃこっちのは若木で向こうのはけっこう育ってる感じではあるな……なるほど、たしかに制御の練習で樹はちょうどいいかもしれない」
「そうでしょ? それでね、ここは同じくらい育ってる樹で、実がついてるのとそうじゃないやつ」
「実って……枯れてるぞこれ」
「そうなんだよね、そこが難しくて……」
と言いながらまた新しい樹を生やし始めるララキ。を紋章を拳でぶちわって無理やり止めるミルン。
「何すんの!?」
「やりたいことはわかったけど一旦片付けろ! あとプンタンを黙らせろ!」
ほんとうならプンタンも実力行使で止めればいいのだが、そうしなかった。
というかできなかった。以前もスニエリタの大ヘビに絶叫し爬虫類が得意でないことが明らかになっているミルンであるが、密かにもっと得意でないのが両生類だからだ。
なお、水場の多い土地に生まれ育った水ハーシ族(部族名は湖水地方を居住地とすることが由来)には珍しいことである。
幸いプンタンがニンナほど大きくないので真顔で対処できているが、触るとなると話は別だ。むしろ外見より手触りのほうがきつい。ぬるぬる、とか、ぬめぬめ、とかが苦手なのだ。
それをララキに感づかれたくないので、極力プンタンには近づかないことにしている。
→
ふたりの紋唱術師が悩み足掻いていたころ、遠く離れた別の場所でも苦悶している者がいた。
マヌルド帝国、首都アウレアシノン。二重の城壁に囲まれているこの都市では、住んでいる場所がそのまま当人の階級を示している。
中央に皇帝一家の居城が据えられ、その周り──内側の城壁に囲われた区域──は貴族の中でもとくに位の高い家のみが住まうことを許されている。
その上級貴族の邸宅のひとつに暮らす伯爵で、本人は帝国軍のすべてを掌握し取り仕切る権限を有する将軍の地位にある男……ハイダール・ウムス=ラディウ・クイネスは、怒りに震える拳を目前の壁に叩きつけた。
彼の背後で状況を説明していた部下は震え上がったが、椅子に腰かけていた夫人はちっとも気にする風情もない。
ただ絹のような美しくなめらかな声で、まるで小さな子どもでもあやすように優しく──あなた、落ち着いてくださいな。ロンショットが怯えていますわ──と言った。
「落ち着いていられるか! もう一週間だぞ! 貴様の部隊は何をしている!」
「は、はい、城下一帯をくまなく捜索いたしましたッ! ですがご令嬢の姿を見かけたという住民はおらず……」
「それはもう聞いたわ!」
クイネス将軍は肩を怒らせたまま振り返り、部下であるロンショット少佐に詰め寄った。
「あの愚図が……もはや帝都におらぬという……その意味が貴様にわかるか?」
「は、はい、あの、いえ」
「お馬鹿さんねえロンショット。か弱い娘がひとりで都を出て行くなど不可能、つまり誰かが手引きしたということ……と夫は言いたいのよ」
「はっ……ですが伯爵夫人、お嬢さまのご交友関係はすでに調査済みです。本日まで全員この帝都内に居ることが確認されております。何者かが手引きしたというのは、その、少々考えにくいかと……」
「あら。外から来た方かもしれなくてよ。学院に旅の術師が訪ねてくるなどよくある話じゃなくて?
世間知らずなうちの娘が、見聞広い旅の方に心を許した……なんてこともありうるのではないかしらねぇ」
夫人は面白がるような素振りさえ見せながら将軍を伺った。彼女の夫は顔を真っ赤に染めて怒り狂い、両顎の歯がすべて砕けそうなほど力強く食いしばっていた。
将軍は自他問わず厳格に接する人柄で知られている。
そして歴史ある名家クイネスの威厳と地位を守るために、自らの娘をも鞭打つ勢いで厳しく育ててきた。良家の子女として持つべき慎ましさと気品を備え、なおかつ将軍の娘として恥じぬ力と知をも併せ持つ、強い娘に育てようとしてきたのだ。
その娘が家出をしてもう七日以上が過ぎている。彼の心境は、顔と同じく燃え盛る炎となっていることであろう。
しかもただ出て行ったのではなく、どこの馬の骨ともしれない男が一緒かもしれないと思えば、穏やかでいられぬのも無理はない。それが彼女自身の意思であっても、あるいは詐欺師に誑かされただけだとしても。
なんにせよ伯爵令嬢として許されない行為であることは間違いない。
クイネス将軍は怒りを露にしたままロンショット少佐に命じた。彼の娘が失踪する前に帝国立紋唱学術院を訪れた外部の人間がどれほどいて、そのうち何人がすでに帝都を離れているのか──その全員の行方を調査せよと。
ロンショットは震えた声で敬礼し、急いで部屋を出て行った。彼が出て行ったのを見届けると、将軍は夫人の真向かいの椅子にどっかりと腰を下ろし、深い溜息をついた。
「そんなに心配なさるなら、普段からもう少し優しくしてやればよろしかったのに」
「何を言うか。私の教育に間違いはない」
「……そうかもしれませんわね。あんなに気が弱くておっちょこちょいな子でも、こうして家出する勇気は持っていたようですもの」
「それは嫌味か、ヴァネロッタ。……しかし七日経っても何の要求もないとなれば誘拐の可能性はあるまいな」
「わかりませんわ。あなたには敵が多いもの」
将軍は顔をしかめる。
あらゆる手で政敵を捻じ伏せ、クイネス家の地位を守るためには犠牲も厭わない考えで生きてきた彼には、その死さえ望む者も少なくはない。そういう者の魔手が娘に伸びた可能性は否定しきれなかった。
それなら自分自身を狙えばいい。しかし、将軍の名に恥じないよう鍛錬し熟達した彼の紋唱の腕を前に怖気づき、彼よりもずっと弱い娘を狙ったということは充分に考えられる。
だがそれならなぜ死体が出てこないのだ? よもや自殺ではないかという考えが当初によぎったこともあり、そういう可能性を含めて帝都内を捜査するよう部下たちに命じているが、そのような報告は一切なかった。
気性の荒い将軍を激昂させないよう黙っているのなら話は別だが、それも長く隠し通せるものではない。
一体何者が娘を誑かし攫っていったのか。そして、娘は今どこにいるのか。
煩悶する将軍に対し、夫人は鷹揚に受け止めていた。娘が厳しすぎる父に抑圧されて苦しんでいたことを、母親として日々見守ってきた彼女にしてみれば、このたびの家出はある種好ましい事態ですらあった。
もちろん、伯爵家の人間として真正面から賞賛するわけにはいかないことも重々承知している。
だが、彼女が知る限り、娘は弱すぎる。家出したとされる日の前の晩も、彼女が演じた失態について父にひどく叱責され、夜空が白むまで泣き明かしていたのを、母は知っている。
紋唱術についてもそうだ。夫人は自分が紋唱術を使えるわけではなかったが、夫を通じてそれらの知識は持っているし、伯爵夫人として国が主催するもろもろの行事に参加して見識を深めてきた。だから自分の娘がどの程度の技量を持っているのかは理解している。
ゆえに彼女がひとりではないと断言できるのだ。
必ず誰かが傍にいる。
それは女かもしれないが、男である可能性のほうがもっと高いだろう。旅人と仮定するとなおさらだ。女の旅人は少ない。
果たしてそれはどんな男だろうか。もしいつか娘が彼を連れて戻ってきたならば、伯爵夫人として見極めねばならない。その男がクイネス家に相応しい人物かどうか、そして何より、己の娘の生涯を任せるに足る男であるかどうか。
もっとも娘が自分の意思で戻ってくる可能性など麦粒ひとつほどもないとも思っている。
それくらいの覚悟でなければ家出などできようはずもない。生半可の覚悟で出て行ったのならすぐに見つかっているはずだ。
しかしそれらを夫に伝えると、この男は壊れてしまうだろう。それで夫人はそっと夫に歩み寄り、その肩を優しく抱いて、なだめるようにこう言った。
「ロンショットが見つけてくれるか、スニエリタが自分の意思で帰ってくることを、クシエリスルの神に祈りましょう。
そして無事に帰ってきたなら、いきなり叱るのではなくて、まずは抱き締めてあげるのですよ」
「……それはおまえの役目だ。私ではない」
将軍はそう言って頭を垂れると、黙り込んだ。
* * *
なんか嫌な音がする。いや、さっきからずっとしてる。気のせいだと思いたかったが、さすがに気のせいでは済まされないレベルの音が聞こえてきたので、ミルンは恐る恐る振り返った。
果たしてそこに広がっていたのは森である。見渡す限り樹、樹、樹……前後左右もう訓練場の形がわからないほどに木々が生い茂り、上下にも天井が見えないほど高々と並びそびえていた。
ひどいありさまだ。訓練場を使用後は、円内を使う前の状態に戻さねばならない規則なのだが、これを消すにはどれくらいの時間がかかるだろう。
森の中からは心地良さそうなカエルの歌がゲコゲコと聞こえてくるが、その機嫌のよさがなおさら癪に障る。
遣獣たちに片っ端から伐採していくように命じ、ミルンは森へ踏み込んだ。足元も絨毯を敷いたように隙間なく苔が生しており、どこを踏んでもふかふかと柔らかい質感だった。これだけ苔が生育した原因は間違いなくカエルの放った湿気に違いない。
やがて歩き進んでいくうちに、カエルの歌に混じってふんふんと人間の鼻歌が聞こえてきた。
「思ったよりイケるかもー♪」
「じゃねえよ何やってんだおまえは! 今すぐ止めて全部枯れさせろ!」
「あ、ミルン。……なんで怒ってんの?」
楽しそうに樹を生やしまくっていた犯人であるララキは、頭にプンタンを乗せたまま首を傾げた。そのまま落っこちたカエルも楽しそうに苔の絨毯を転がってゲコゲコしている。
「遊びに来てんじゃねえんだぞ。あと出てくときにきちんと片付けしてけって規約にあっただろうが」
「そうだっけ。でも遊んでないもん。これもれっきとした練習」
ほら、とララキが樹の一本を指差す。
大陸南部によく見られるふつうの広葉樹だ。これがなんだと言うのか。意味がわからず怪訝な顔になったミルンを見て、ララキはちょっと怒りながら、もっとよく見てよと言う。
「こっからここまでぜんぶ同じ種類の樹! で、育ち具合を順番に並べてみました!」
「……ああ、言われてみりゃこっちのは若木で向こうのはけっこう育ってる感じではあるな……なるほど、たしかに制御の練習で樹はちょうどいいかもしれない」
「そうでしょ? それでね、ここは同じくらい育ってる樹で、実がついてるのとそうじゃないやつ」
「実って……枯れてるぞこれ」
「そうなんだよね、そこが難しくて……」
と言いながらまた新しい樹を生やし始めるララキ。を紋章を拳でぶちわって無理やり止めるミルン。
「何すんの!?」
「やりたいことはわかったけど一旦片付けろ! あとプンタンを黙らせろ!」
ほんとうならプンタンも実力行使で止めればいいのだが、そうしなかった。
というかできなかった。以前もスニエリタの大ヘビに絶叫し爬虫類が得意でないことが明らかになっているミルンであるが、密かにもっと得意でないのが両生類だからだ。
なお、水場の多い土地に生まれ育った水ハーシ族(部族名は湖水地方を居住地とすることが由来)には珍しいことである。
幸いプンタンがニンナほど大きくないので真顔で対処できているが、触るとなると話は別だ。むしろ外見より手触りのほうがきつい。ぬるぬる、とか、ぬめぬめ、とかが苦手なのだ。
それをララキに感づかれたくないので、極力プンタンには近づかないことにしている。
→
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
後宮妃よ、紅を引け。~寵愛ではなく商才で成り上がる中華ビジネス録~
希羽
ファンタジー
貧しい地方役人の娘、李雪蘭(リ・セツラン)には秘密があった。それは、現代日本の化粧品メーカーに勤めていた研究員としての前世の記憶。
彼女は、皇帝の寵愛を勝ち取るためではなく、その類稀なる知識を武器に、後宮という巨大な市場(マーケット)で商売を興すという野望を抱いて後宮入りする。
劣悪な化粧品に悩む妃たちの姿を目の当たりにした雪蘭は、前世の化学知識を駆使して、肌に優しく画期的な化粧品『玉肌香(ぎょくきこう)』を開発。その品質は瞬く間に後宮の美の基準を塗り替え、彼女は忘れられた妃や豪商の娘といった、頼れる仲間たちを得ていく。
しかし、その成功は旧来の利権を握る者たちとの激しい対立を生む。知略と心理戦、そして科学の力で次々と危機を乗り越える雪蘭の存在は、やがて若き皇帝・叡明(エイメイ)の目に留まる。齢二十五にして帝国を統べる聡明な彼は、雪蘭の中に単なる妃ではない特別な何かを見出し、その類稀なる才覚を認めていく。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる