AI(あい)のゆりかご ー日高博士の育児AI研究日誌ー

ちはやれいめい

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日高博士の育児AI研究日誌 乳児・幼年期編

16話 あたたかくて冷たいロボット

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 施設名:日高人工知能技術研究所
 記録担当:助手・栗田玲司
 2028年12月10日
 室温25℃ 湿度50% 屋外気温1℃(雪) 午前9時20分

 身長64.1cm 体重7.15kg
 今日からハルの離乳食をはじめる。
 すりおろしりんごだ。タケルのときも最初はこれだったな。
 もう5年前か。あっという間だ。
 ハルも月齢的には、そろそろ単語で言葉を話しはじめる頃。
 何を最初に喋るのか、楽しみだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 窓の向こうでは、雪が静かに舞っている。
 ここ数日で一メートルも積もった。
 除雪車が来てくれるまでは車を出せそうにない。
 床暖房の効いた研究室内は暖かいが、窓のそばの空気は冷たい。

 キッチンで、日高がリンゴをすりおろしていた。
 小皿に移して、シリコン製の赤ちゃん用スプーンで混ぜる。
 この動作はHANAにも記憶させる。
 離乳食作りは赤ちゃんを育てるうえで必須事項だ。
 おろし器を持って支えながら切り分けたリンゴをする。角度と力加減を覚えればむつかしいことはないだろう。


 プレイマットの上に座るハルは、リンゴの甘酸っぱい香りに首をのばし、興味津々の目をしていた。

「よし、できたぞ。ハル。ごはんだぞー」

 日高はスプーンを持ち、ハルの口に小さく一さじ運ぶ。
 ハルは少し戸惑った顔をしたあと、ゆっくりと口を開けた。
 少し目を丸くして、それでも嬉しそうに笑った。

「よしよし……食べられたな」

 スプーンをもう一口。ハルは次も口を開け、しっかりと味わう。

 やがて、ごくりと飲み込んだあと、ハルが小さくゲップをした。
 日高がその背を優しく撫でる。

「……ぱーぁパ……」

 小さな声が、部屋に響いた。

「……今、パパって……言った!?」

 日高が思わず目を見開く。本人は気づいてないかもしれない。日高の表情はどこか嬉しそうだ。
 ハルは笑顔で、もう一度繰り返した。

「ぱーぱ!」

 日高はにやけそうになるのをおさえて、ハルの頭をそっと撫でた。

「すごいぞ、ハル……すごいな」

《ハル、スゴイナ》

 HANAも日高の真似をして、ハルの頭に手を伸ばした。
 だがその瞬間、ハルがわずかにのけぞった。

「……避けた?」

 ここ数日、ハルはHANAの手を嫌がるような素振りを見せていた。

 玲司が観察し、HANAのボディに触れてすぐに原因を悟った。

「雪雄先輩。HANAの外装、金属製ですから。赤ちゃんにはきついかと」
「なるほどな……冷たいのが嫌で避けてたのか。……ちょっと待ってろ」

 日高はハルを玲司に預け、奥のクローゼットへと向かった。
 ほどなくして戻ってきた手には、ウールのセーターがある。

「男性用のMサイズだけど、HANAなら着られるだろ」

 言いながらHANAにセーターをかぶせた。

「どうだ? これで少しはましだろう」

「見た目はともかく、素体のままよりずっといいと思いますよ。HANA、ハルを抱っこしてみて」

《はい、栗田さん》

 HANAが再びハルに手を伸ばすと、今度はハルは嫌がらなかった。
 そのままHANAの腕の中で、安心したように目を閉じて眠り始める。

「……うん、やっぱり温度だったか。記録に残しておこう。HANAは当面、セーター装備でな」

「でもセーターって静電気出ますよ? あとで専用カバー考えましょう。静電防止で、保温もできるやつ」

「賛成だ。素材はフリースか静電気防止ナイロンか……」

 二人の議論が白熱していく中、千花がふらりと部屋を覗きに来た。
 セーターを着たHANAと、眠るハルを見て小さく笑った。

「……相変わらず、努力の方向がおかしいわね、兄さんたち」
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