AI(あい)のゆりかご ー日高博士の育児AI研究日誌ー

ちはやれいめい

文字の大きさ
18 / 44
日高博士の育児AI研究日誌 乳児・幼年期編

18話 “親”でないとできないこと

しおりを挟む
 施設名:日高人工知能技術研究所
 記録担当:所長・日高雪雄ひだかゆきお
 2029年2月14日 室温25℃ 湿度50% 屋外気温10℃(雨)
 午前9時15分

 身長70cm 体重8.10kg
 保護した日に比べてだいぶ重たくなった。子どもの成長って早いんだな。
 今日から数日は玲司が休みだ。昨夜タケルが熱を出して、インフルエンザだと診断された。
 ハルに移すと悪いからと、大事をとってのことだ。
 ハルは離乳食で固形物を食べる回数を増やした。
 おもちゃも知育玩具を取り入れてみた。 


━━━━━━━━━━━━━━━


 今日は玲司がいないからやけに静かだ。

 日高はプレイマットに座り、ハルの遊び相手をしていた。
 ハルは柔らかいスクイーズ素材の積み木を器用に積み上げては、キャッキャと声を上げて笑う。
 その様子を見ているだけで、不思議と胸の奥が温かくなった。

「すごいな、ハル。三段目まで積めたか」
「ばあっ」

 嬉しそうに声を上げたハルが、倒れた積み木をまた拾い集める。
 HANAはハルにせがまれて一緒に積み木を乗せる。


「……なんだか、すっかりお父さんが板についてきたね」

 振り向くと、千花が研究室の入り口に立っていた。
 手には小さな紙袋。少しだけ緊張したような表情を浮かべていた。

「バレンタインだから、お菓子持ってきた。ハルと一緒に食べられるように、ニンジンの蒸しパンなんだ」
「ありがとう」

 日高は立ち上がって袋を受け取る。

「……あの、ね。ちょっとだけ、話したいことがあるの。ハルが寝てから、いいかな」

 千花の声は、決意のようなものを帯びていた。

「……ああ」

 いつものように洗濯を手伝ってくれて、しばらくするとハルがお昼寝タイムに入った。
 向かい合って座ると、少しの沈黙のあと、千花が切り出した。

「兄さん、夜中にタケルを夜間医院に連れていったって言っててね、その時思った」

 千花は一呼吸置き、まっすぐに日高の目を見て言った。

「……ハルが病院に行くとき、小学校に上がるとき。法的な“親”じゃないと、できないことがあるでしょう? だから──私と結婚して、ハルを特別養子縁組しよう」

 日高はその言葉に少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに口を開いた。

「……千花。それでいいのか? 俺は、ハルが成人するまで研究を続けると決めている。
結婚しても、ハルの育児を最優先にする。自分の子どもを持つつもりは──ない」



 千花は日高の瞳を真っ直ぐに見つめ返して、頷く。

「わかってるよ。だって日高さん……雪兄ちゃんは、研究に人生を捧げるって、出会った頃からずっと言ってたもん。私はその信念に惹かれて、尊敬してきた」

 声がほんの少し震えていた。

「わかったうえで、この提案をしてる。……あなたがハルのために、研究に一生を捧げるなら、私は隣でその研究を支えたい」

 千花は冗談でこんなことを言う人間じゃない。

 日高の目標を聞いて、それでも隣にいたいと望む。

 胸にこみ上げるものがあって、日高は言葉に詰まった。

「……………馬鹿だよ、お前は。親を安心させたいって言っていただろ? お前の両親は、普通の結婚して、普通に子供を産み育てることを望んでいるんじゃないのか? だから、お見合いだってしたんだろ?」
「父さんたちに言われて仕方なくお見合いしたけれど、それは私の幸せじゃなかったから。私の幸せは、あなたの隣にいること」


 まっすぐに告げられたその言葉は、静かに、けれど深く、日高の胸を打った。

 かたくなだった日高の心は、とっくにほだされていた。
 千花に一生勝てないと感じた。
 


しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...