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日高博士の育児AI研究日誌 乳児・幼年期編
18話 “親”でないとできないこと
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施設名:日高人工知能技術研究所
記録担当:所長・日高雪雄
2029年2月14日 室温25℃ 湿度50% 屋外気温10℃(雨)
午前9時15分
身長70cm 体重8.10kg
保護した日に比べてだいぶ重たくなった。子どもの成長って早いんだな。
今日から数日は玲司が休みだ。昨夜タケルが熱を出して、インフルエンザだと診断された。
ハルに移すと悪いからと、大事をとってのことだ。
ハルは離乳食で固形物を食べる回数を増やした。
おもちゃも知育玩具を取り入れてみた。
━━━━━━━━━━━━━━━
今日は玲司がいないからやけに静かだ。
日高はプレイマットに座り、ハルの遊び相手をしていた。
ハルは柔らかいスクイーズ素材の積み木を器用に積み上げては、キャッキャと声を上げて笑う。
その様子を見ているだけで、不思議と胸の奥が温かくなった。
「すごいな、ハル。三段目まで積めたか」
「ばあっ」
嬉しそうに声を上げたハルが、倒れた積み木をまた拾い集める。
HANAはハルにせがまれて一緒に積み木を乗せる。
「……なんだか、すっかりお父さんが板についてきたね」
振り向くと、千花が研究室の入り口に立っていた。
手には小さな紙袋。少しだけ緊張したような表情を浮かべていた。
「バレンタインだから、お菓子持ってきた。ハルと一緒に食べられるように、ニンジンの蒸しパンなんだ」
「ありがとう」
日高は立ち上がって袋を受け取る。
「……あの、ね。ちょっとだけ、話したいことがあるの。ハルが寝てから、いいかな」
千花の声は、決意のようなものを帯びていた。
「……ああ」
いつものように洗濯を手伝ってくれて、しばらくするとハルがお昼寝タイムに入った。
向かい合って座ると、少しの沈黙のあと、千花が切り出した。
「兄さん、夜中にタケルを夜間医院に連れていったって言っててね、その時思った」
千花は一呼吸置き、まっすぐに日高の目を見て言った。
「……ハルが病院に行くとき、小学校に上がるとき。法的な“親”じゃないと、できないことがあるでしょう? だから──私と結婚して、ハルを特別養子縁組しよう」
日高はその言葉に少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに口を開いた。
「……千花。それでいいのか? 俺は、ハルが成人するまで研究を続けると決めている。
結婚しても、ハルの育児を最優先にする。自分の子どもを持つつもりは──ない」
千花は日高の瞳を真っ直ぐに見つめ返して、頷く。
「わかってるよ。だって日高さん……雪兄ちゃんは、研究に人生を捧げるって、出会った頃からずっと言ってたもん。私はその信念に惹かれて、尊敬してきた」
声がほんの少し震えていた。
「わかったうえで、この提案をしてる。……あなたがハルのために、研究に一生を捧げるなら、私は隣でその研究を支えたい」
千花は冗談でこんなことを言う人間じゃない。
日高の目標を聞いて、それでも隣にいたいと望む。
胸にこみ上げるものがあって、日高は言葉に詰まった。
「……………馬鹿だよ、お前は。親を安心させたいって言っていただろ? お前の両親は、普通の結婚して、普通に子供を産み育てることを望んでいるんじゃないのか? だから、お見合いだってしたんだろ?」
「父さんたちに言われて仕方なくお見合いしたけれど、それは私の幸せじゃなかったから。私の幸せは、あなたの隣にいること」
まっすぐに告げられたその言葉は、静かに、けれど深く、日高の胸を打った。
かたくなだった日高の心は、とっくにほだされていた。
千花に一生勝てないと感じた。
記録担当:所長・日高雪雄
2029年2月14日 室温25℃ 湿度50% 屋外気温10℃(雨)
午前9時15分
身長70cm 体重8.10kg
保護した日に比べてだいぶ重たくなった。子どもの成長って早いんだな。
今日から数日は玲司が休みだ。昨夜タケルが熱を出して、インフルエンザだと診断された。
ハルに移すと悪いからと、大事をとってのことだ。
ハルは離乳食で固形物を食べる回数を増やした。
おもちゃも知育玩具を取り入れてみた。
━━━━━━━━━━━━━━━
今日は玲司がいないからやけに静かだ。
日高はプレイマットに座り、ハルの遊び相手をしていた。
ハルは柔らかいスクイーズ素材の積み木を器用に積み上げては、キャッキャと声を上げて笑う。
その様子を見ているだけで、不思議と胸の奥が温かくなった。
「すごいな、ハル。三段目まで積めたか」
「ばあっ」
嬉しそうに声を上げたハルが、倒れた積み木をまた拾い集める。
HANAはハルにせがまれて一緒に積み木を乗せる。
「……なんだか、すっかりお父さんが板についてきたね」
振り向くと、千花が研究室の入り口に立っていた。
手には小さな紙袋。少しだけ緊張したような表情を浮かべていた。
「バレンタインだから、お菓子持ってきた。ハルと一緒に食べられるように、ニンジンの蒸しパンなんだ」
「ありがとう」
日高は立ち上がって袋を受け取る。
「……あの、ね。ちょっとだけ、話したいことがあるの。ハルが寝てから、いいかな」
千花の声は、決意のようなものを帯びていた。
「……ああ」
いつものように洗濯を手伝ってくれて、しばらくするとハルがお昼寝タイムに入った。
向かい合って座ると、少しの沈黙のあと、千花が切り出した。
「兄さん、夜中にタケルを夜間医院に連れていったって言っててね、その時思った」
千花は一呼吸置き、まっすぐに日高の目を見て言った。
「……ハルが病院に行くとき、小学校に上がるとき。法的な“親”じゃないと、できないことがあるでしょう? だから──私と結婚して、ハルを特別養子縁組しよう」
日高はその言葉に少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに口を開いた。
「……千花。それでいいのか? 俺は、ハルが成人するまで研究を続けると決めている。
結婚しても、ハルの育児を最優先にする。自分の子どもを持つつもりは──ない」
千花は日高の瞳を真っ直ぐに見つめ返して、頷く。
「わかってるよ。だって日高さん……雪兄ちゃんは、研究に人生を捧げるって、出会った頃からずっと言ってたもん。私はその信念に惹かれて、尊敬してきた」
声がほんの少し震えていた。
「わかったうえで、この提案をしてる。……あなたがハルのために、研究に一生を捧げるなら、私は隣でその研究を支えたい」
千花は冗談でこんなことを言う人間じゃない。
日高の目標を聞いて、それでも隣にいたいと望む。
胸にこみ上げるものがあって、日高は言葉に詰まった。
「……………馬鹿だよ、お前は。親を安心させたいって言っていただろ? お前の両親は、普通の結婚して、普通に子供を産み育てることを望んでいるんじゃないのか? だから、お見合いだってしたんだろ?」
「父さんたちに言われて仕方なくお見合いしたけれど、それは私の幸せじゃなかったから。私の幸せは、あなたの隣にいること」
まっすぐに告げられたその言葉は、静かに、けれど深く、日高の胸を打った。
かたくなだった日高の心は、とっくにほだされていた。
千花に一生勝てないと感じた。
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