中年で汚いおっさんニートが出産子育てする話し

沖田きょう

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おっさんニートと病室の主

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急いで服を着ると元木に腕を引っ張られ入口から見て左手、一番窓際のベッドの前に連れて来られた。

「大平オオダイラさん失礼します。カーテンを開けてもよろしいでしょうか?」

「・・・う、うむ」

「それでは失礼します」

シャッ

カーテンの中には優に120キロは超えるであろう巨体が鎮座していた。彼女の名前は大平、俺と同じ妊娠高血圧症候群で既に3ヶ月の間入院しているそうだ。妊娠高血圧症候群特有の浮腫か、それとも元々ぽっちゃり体型であったのかは分からないがパンパンに膨れ上がった顔と四肢は異様な貫禄を醸し出している。

「大平さんは、この病室で一番長く入院しているの。言わばこの病室の主よ」

病室の主!?

「ハフ、ハフ、ハ・・・あ・・・あだ・・・じ、プディン・・・たでたい・・・」

降圧剤の副作用だろうか? そんな事よりも経験豊富な引きこもり人生が警鐘を鳴らしている。

こいつには逆らうなと・・・。

「分かりました。プリンですね」

元木がそう言いながら俺を見据える。

「少々お待ちくださいませ大平様。只今、買って参ります」

俺は一瞬で屈服した。浮腫んだ瞼から僅かに見える大平様のあの切れ長の冷たい目、あの目が全てを物語っている。プリンくれなきゃお前とお前の赤ん坊食べるわよと・・・。

2階のラウンジにあるスイーツ自販機の前で俺は涙を流した。他人になろうが、母親になろうが結局俺は何も変われない。強い者の前では媚を売り、顔色を伺う情けないおっさんニート。

こんな俺が子供をマトモな大人に育て上げる事などできるはずもない。あの赤ん坊に待っているのは沢山の漫画本やフィギュアに埋もれた汚部屋で母親に罵詈雑言を浴びせる毎日、それならば生まれて来ない方が良かっただろうに。

「ちょっと遅いじゃない。何やってんのよ」

後ろを振り向くと元木が居た。

「やだっ、アンタ泣いてるの!? あれくらいの事で」

「い・・・いや、そうじゃない、うっ・・・うえっ・・・」

しゃくりあげてしまって上手く話せない。

「何? 何なのよここで泣かないでよ。私が何かしたみたいじゃない」

「うえ~ん」

皆の視線が痛い。でも涙が止まらない、俺もどうしたらいいか分からない。

「あんな糞みたいなおっさんニートにしかならない赤ん坊なんていらない! 生まれて来なければ良かったのに~うええぇえぇん」

バッチイ―――――――――ン!!

突然、頬に激痛が走った。元木にビンタされた。何でビンタまでされなきゃならないんだ。俺はこんなに可哀想なのに。

「アンタ何て事言うの! 母親でしょ!」

うっせー! だから俺は45歳きもオタ童貞ニートだっての。

「母親になれたんでしょ? 私に向かって何て事言うの」

「・・・ん?」

「あの病室で今、無事に赤ちゃんを産めたのはアンタだけなのよ」

元木の声が若干震えている。もしかして俺、地雷踏んだ?

「あんた贅沢すぎるわ・・・」

そう言うと元木は点滴スタンドをガラガラと引きながらラウンジを後にした。

もう病室に戻りたくない。大平様も怖いが元木の地雷を踏んでしまった。どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・・・・・・・・・・・・・取り敢えず1階のキッズコーナー行くか・・・・・・。

一階に降りると、いつもと雰囲気が違う事に気付いた。玄関前の照明がついていない。キッズコーナーのシャッターも閉まっている。いつもは妊婦検診に来た連中や見舞い客で騒がしいのに。

「ああ、そうか今日は日曜日か」

俺は誰も居ない受付前のソファーに座って時間を潰す事にした。

「あら、美保さん。こんなところで何してるのよ」

「げっ」

顔を上げるとおばあちゃんと親父が居た。

「病室移ったんだってね。居心地はどうだい?」

「美保さんのためにガトーショコラを焼いてきたわ。病室の冷蔵庫に入れさせてね」

「ママがちゃんと看護士さんに許可を取ったんだよ。少しくらいなら食べていいってさ」

「取り敢えず病室に行きましょうよ」

え~、戻りたくないのに~。


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