上 下
11 / 30

おっさんニートのガトーショコラ_1

しおりを挟む
病室に戻ると、意外にも雰囲気は悪く無かった。

ドッドッドッドッドッドッ、ドックン、ドックン、ドックン

元木がモニターを付けられている。

「はーい、今日も赤ちゃん元気です。お腹の張りもありませんね」

「うふふ、今日は良く動くんですよ。次のNSTは何時ですか?」

「次は3時頃に来ますね」

元木と看護士が談笑している。さっきのあれは何だったんだ? 拍子抜けだ。地雷は不発と言う事でいいのか?

「あら結構明るくていい雰囲気じゃないの」

「洗濯物回収して行くよ」

おばあちゃんはガトーショコラをベッドサイドの冷蔵庫に入れると直ぐに病室から出て行こうとする。

「待ってください。もう行っちゃうんですか?」

「これから息子とチャイルドシートを買いに行くのよ。また昼過ぎに戻って来るわ」

「ママんのガトーショコラは世界一美味しいよ。おやつに皆で食べようね」

「・・・ガァ・・・ドー・・・ジョゴラ・・・・・・」

「あら? 今何か言った?」

「えっ? 何も聞こえなかったよママ」

「ご神託かしらオホホホホ」

「やだママったら。アハハハハ」

違う、俺にも聞こえた。ご神託とか空耳とかそんななま易しいものではない。例えるなら、ほの暗い井戸の底から貞○と伽○子と八○様と姦○蛇○がそれぞれコ○○バコを持って這い上がってくるような恐ろしさを秘めた声。

ヤバい・・・プリン忘れてた。

大平様のベッドを見るとカーテンが少し開いている。

「あ・・・あが・・・ぢゃ・・・・・・」

ヤバい、ヤバい、これはヤバい。俺は目測を誤っていたんだ。大平様のこの威圧感、これは既に20人は食べていらっしゃる。

二人が去った後、俺は急いでラウンジのスイーツ自販機まで走った。血圧の事など今は考えていられない。

「売り切れ・・・だと」

終わった、俺の人生終わった。俺はおふくろと共に大平様の血肉となるのだ。

「ふっ。むしろその方が有意義なのかもしれん」

病室に戻ると大平様の周りに同室の4人が集まっていた。

「大平さん、新参が戻って参りました」

「じっ・・・じご・・・じごじょうがい・・・」

え? 自己紹介!?

「ほら新参自己紹介!」

「はい! えっと・・・谷美保です。4日前に男の子を出産したばかりです。宜しくお願いします」

俺が大雑把に自己紹介を済ませると元木が話しだした。

「元木美結よ切迫早産で先月から入院してるの。この産婦人科の看護士でもあるのよ」

元木は俺との間に何事も無かったかのように平然とした顔をしている。

「相田心愛21歳、独身よ。元木さんと同じ切迫早産で入院しているわ」

21歳! 若い!! しかも可愛い。

「井上登紀子、子宮筋腫の手術で入院しているの。もうすぐ退院しちゃうけど仲良くしてね」

井上さんは40歳位だろうか? とても気さくで優しい人だった。

「浜田佐久美よ、皆さん偉大な○○先生が【世界咲かそういぼ痔の花学会】から表彰されました。ご存知でしたか? 私達もいつか素敵な花を咲かせるためにお題目を唱えましょう・・・ゲキョゲキョ」

あっ! こいつ○○だ。絶対勧誘される。
しおりを挟む

処理中です...