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海洞都市シムロ、海だ!修行だ!スリラーだ!編
15.そもそもの話
◆
「ツカサ、下着を洗ってやろう。さあ脱げ」
「じ、自分で洗うからいいデス……」
「何を言う、メイドという者は下働きをするのだろう。だったらオレがツカサの下着を洗わないで誰が洗うと言うのだ。さあ貸せほら貸せ」
「あ゛ッ、やだっやめろ脱がすなぁあああ」
賢者タイムに気を取られて放心していた俺につけこんで、クロウが強引にズボンを脱がして下着を取り去ろうとして来る。
台所で何をさせようとしているんだと抵抗したが、しかしさっきの余韻を引き摺ってしまっている俺は抵抗らしい抵抗も出来ず、下着まで脱がされてしまった。
こうなるともう、俺のしょうもない下半身が剥き出しになってしまうワケで……。
「…………きょ……今日は、もう駄目だからな……?」
怒ろうにも、勢いが出ない。
いやそもそも、俺ではクロウの怪力には到底敵わないんだ。変に刺激してクロウを煽ったりなんかしたら、何をされるか分かったモンじゃない。
キスとあんなゆさぶりでイッてしまうなんて情けないにもほどがあるが、それは俺の堪え性のなさが原因なので、怒るのも逆恨みって言うか……。
悔しくはあるけど、とにかく今エスカレートされるのはヤバい。
そんなことを思いながらの情けない弱い声だったのだが、クロウは俺の態度に妙な満足感を感じているのか、むふーと鼻息を漏らしながら頷いた。
「安心しろツカサ、今日はしない。……して良いと言うんだったら喜んでするが」
「しっ、しなくていいっ、しなくていい!」
まだやろうってのかアンタは! お前さっき散々啜っただろ!?
頼むから勘弁してくれと顔を歪めた俺に、クロウは少しつまらなさそうに熊の耳をくるりと動かしたが、俺の下着を得た事で満足したのか、それ以上変なことは言って来なかった。いや、使用済み下着を嬉しそうに握っている女装メイドおっさん(熊耳)という時点で、物凄く変と言われても仕方がないんだけども。
「と、とにかく……下着……替えの下着持って来なくちゃ……」
「それはオレが持って来よう。ツカサは……そうだな、股間が濡れたままだと困るな。本当はオレが綺麗にしてやりたいんだが……」
橙色の瞳でじいっと下半身を見つめられて、慌てて手で隠しながら首を振る。
「いいいいい良いですっ、遠慮します!!」
「ムゥ……。まあキスして貰ったから仕方がない……持って来るぞ」
「た、頼んます……」
素直に頼むと、頼られたと思ったらしいクロウは張り切ったような雰囲気を漂わせながら台所を出て行った。
…………ま、まあ、双方収まったならそれでいいか……。
「い……今の内に、ちゃんとしとかないと……」
まだ力が戻り切れていないのか、立とうとすると足が震えてしまったが、棚に手をやってなんとか立ち上がると、俺は布を濡らしてなんとか後処理をした。
しかし、自分の粗相の後処理なんて格好つかねえなあ……。
なんでこう、然るべき感じで出来なかったら妙に落ちこんでしまうんだろうか。
普通にシコるだけだと、オカズが間に合わなかった時なんかションボリしたりするけど、それでもこんなに妙な悔しさと言うかやるせなさはない気がする。
……っていうか、人に良いようにされて無駄打ちしたのがイヤなんだよっ!!
しかも、すっぽんぽんならまだしも、昼日中に服着たまんまで出さすとか、ほんと信じらんないんだけど! 洗濯物増えるし恥ずかしいし普通はこんなことしないワケだから、何かすっげえ罪悪感あって嫌だし悔しいしいいいい!
なんなんだよもうっ、クロウまでとんでもねえスケベな事しやがって……!
「ちくしょう……なんでこうあのオッサンどもは変態なんだ……」
やっと下半身の不快感が拭われ、布を洗いながら俺は改めて溜息を吐いた。
はぁ……欲求不満なのか知らないが付き合ってたらこっちがまいっちまうよ。
いや、でも、我慢させるから酷くなるのかな……しかし俺にも体力の限界と言う物がありましてね。さすがに一週間に何回もは無理すぎる……。
とにかく、服を着たままであんな事をするのは絶対にやめて貰わねば。
洗濯物が増えるし、何より尊厳が失われた気がするので今後は絶対に阻止だ。
そんなことをフルチンで誓っていると、クロウが替えの下着を持って来てくれた。あの使用済の下着はどこに行ったのかと聞いたが、クロウは教えてくれなかった。
ただ、上の階で昼寝でもしているだろうブラックがギャーギャー騒いでいなかったので、変な事にはなっていないようだけど……。
まあ良い。替えの下着が来たならそれでいいのだ。
さっさと穿いてしまおうと下着をかっぱらって、クロウに「後ろ向いてろ」と怒鳴りつつ装着する。ズボンまで上げてようやく急所を隠しきり、やっと人心地つく事が出来たのだった。はあ……もうこんなのはこれっきりにしたい。
思わずため息をついてしまった俺に、クロウは申し訳なさそうに熊耳を伏せる。
「ムゥ……ツカサ、怒ってるか……?」
「う……お、怒ってないよ」
「本当か……? 本当に……?」
無表情のくせにウルウルと橙色の瞳を潤ませて俺を見つめて来る、大柄で熊耳なメイド服のオッサン。普通の男なら絶対に心を動かされないだろう相手だったけど、悲しいかな俺はケモミミも動物も好きで、それゆえかクロウにも甘くなってしまう。
……それだけじゃないかも知れないけど、でも、そんな風にあからさまに「悲しい」と態度で示されてしまうと、もう怒るに怒れなかった。
ぐうう、絶対わざとだっ。わざとだって解ってるのにぃいい。
「怒ってないから……ほら、頭」
撫でてやると手を伸ばすと、すぐに熊耳を上げてクロウは腰をかがめて来た。
ああちくしょう、こんにゃろめ。
撫でるけど。撫でるけどさもう!
「ンフ。久しぶりのツカサの手だ」
嬉しそうに息を漏らし、クロウはそのまま俺に抱き着いて来る。
胸に思い切り顔を押し付けられて、ちょっと苦しくなってしまった。
「ちょっ、も、もう……」
引き剥がそうと手が動いたけど、動いただけで何も出来ず、俺はクロウの嬉しそうな雰囲気に負けてしまった。
……まあ、抱き着くぐらいなら……。クロウは一時的にパーティーを抜けて一人で何日間も旅してたんだし、それを考えると甘えたくなるのも無理はないかも。いや、オッサンが何を甘えてんだっつう話ではあるんだけど。
思わず自分でツッコミを入れてしまったが、しかしその事で今更な疑問が浮かび、俺は自分の胸に擦り付いて来るクロウに問いかけた。
「そう言えば……クロウは何の用事で獣人の国……ベーマスに戻ったんだっけ?」
俺がこちらと自分の世界を日帰りできるようになってすぐ、クロウはシアンさんに何かを聞いたらしくて、それで泣く泣く一人で故郷に帰ってたんだよな。
だから、詳しい話は実を言うと知らないんだ。
ここまで甘えるって事は、そんなに深刻な用事でも無かったのかも知れないけど。
しかし気になる事は気になるので、思わず問いかけてしまったのだが……意外な事に、クロウは少し考えるようなそぶりを見せると、俺を見上げた。
「ツカサは聞いた事があると思うが……オレの故郷ベーマスでは、今までずっと内乱が起こっていた。それが父上が不在の間に拡大して、厄介な事になっていたらしくてな……。父上に協力を要請されて戻っていたのだ」
内乱。そう言えばずっと前にそんな事を聞いたな。
――このシムロの街が属している【ハーモニック連合国】の首都・ラッタディアは、南国の獣人の国と最も近いがゆえに、国交を結んでいる。
それに、多国籍国家みたいな国だから、獣人に対する風当たりもゼロなので、この国だけは異様に獣人が多いんだ。
そんな気風だからか、初めてこの街に来た時、俺は内乱で逃げて来たと言う獣人のお姉さんたちとひょんな事から知り合ったんだよな。
その彼女達のお手伝いをした時に、そんな話を聞いたような気がするけど……。
「クロウとドービエル爺ちゃんって、なんか軍部とかに入ってるの?」
内乱を治める為に……ってなると、そういう職業って事だよな。
確かにクロウには部下みたいな仲間が数人居たし、彼ら軍人っぽかったから、そう言う職業だったとしても別に驚きは無いんだけど……俺が言い当てた事に、クロウはちょっとだけ動揺しているようで、耳がぴくぴくと動いていた。
なに、なんでそんなに目を泳がせてるの。
「ぐ……軍……いや、まあ……その、なんというか……武人ではあるが……」
「んん?」
「と……とにかく……国に協力はしていた……」
「……?」
なんだか煮え切らない回答だが、軍人じゃないって事なのかな。
あっ、もしかして、軍人と言ってもいわゆる“影の暗躍部隊”だったりとか、それか大企業に雇われてるハッカー集団みたいなものなのかも。
だとしたら、ちょっと後ろ暗いから言い難いのも無理はないよな。
クロウのあの魔王みたいな力なら、荒くれ者ぞろいの獣人の国でもリーダーや王様になれそうだもんな。そういう部隊を取り仕切ってたら、そりゃ言い難いか。
後ろ暗い所が有れば、動揺するのも不思議はない。
でも、ブラックだって過去の話なんか話さずにいるんだから、クロウもそう恐縮しなくたって良いのに。まったく、面倒なオッサンだ。
「とりあえず、良い事して来たんだな」
そう言うと、クロウはそこだけはしっかりと頷いた。
うんうんそうだよな。クロウは正直者だからそこは譲れないよな。
改めて「偉い」と撫でつつ、俺は話をまとめた。話しづらい事が有るのなら、無理に聞かない方が良いだろう。話したくなったら話せばいいんだし、俺達は別にそんな切羽詰ったような関係でもないからな。
「ツカサ……んんん……好きだ……」
「はいはい。……ま、なんでも良いけどさ、無事に帰って来てくれて良かったよ」
この世界は海も空もモンスターだらけだからな。
クロウなら滅多な事なんてないとは思うけど、でもやっぱり心配ではあったから、無事に帰って来てくれて良かったよ。
色々忙しくてすっかり言いそびれたけど、ここで言えて良かった。
そんな俺をクロウは見上げて、またもや目を潤ませる。
表情はあまり動かないけど、でも「嬉しい」と思っている事はよく解る。
ずっと一緒に居た仲間なんだから、それくらいは分かるんだ。でも、そう思える事が何だか妙に嬉しくなってしまって、俺は余計にクロウの頭を撫でてしまった。
「ング……ツカサ……」
グウグウと、クロウの喉の奥が鳴る。これは猫が喉を鳴らすような音と一緒だ。
本当に嬉しいんだなと思うと思わず苦笑してしまって、俺は肩を揺らした。
「とりあえずさ、俺が勉強してる間はゆっくり骨休めしててよ。クロウは故郷でたくさん頑張ったんだろ? だったら、手伝いも無理しなくて良いから」
メイド服を着ているからと言って、無理に手伝おうとしなくても良い。
内乱って事は、同じ人種同士で争ったって事だろうし……獣人って言うのは仲間を大事にするみたいだから、そう言う意味でも辛かっただろう。
だから、休める内にゆっくり休んでほしい。
ふとそう思って、クロウのボサついた頭を撫でながら言うと、相手は喉を鳴らして熊耳を嬉しそうにふるふると動かしながら、満足げに頷いたのだった。
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