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海洞都市シムロ、海だ!修行だ!スリラーだ!編
師匠が右向きゃ弟子も右2
しかし、どこからダンジョンに入るんだろう。
橋一本ってことは、港に入口があるのかな……なんて思っていたら、港の端に在る岩場から、なんとも頼りなげな橋が一本掛かっていた。
いや、あれは橋だと言えるのだろうか。
岩場のほんの少し平らな地面に柱を深々と差した通路は、まるで工事現場の足場のように狭い。しかも一本かと思ったら行きと帰りを合わせた細い橋二本だったし、ちゃんと柵も有るけど、でも潮風のせいなのか柵の所々が錆びて腐食しており、手を預けるのがちょっと怖かった。
けれど、師匠もブラック達もそんな危ない橋を平然と渡って行く。
歩く旅に、ギッ、ギィッ、とかキィイォとかいう嫌な金属音が聞こえるのに、何故このオッサン達は怖くないんだろうか。海に落ちる事を恐れていないんだろうか。
どう考えても俺より重いしガタイが良いのに、狭い橋を渡れるその胆力が謎だ。
いや、もしやこの胆力が冒険者であるという事なのか……?
だとしたら、俺は度胸も足りないのかも知れない。ううむ……なんか悔しい。でもこれから何度もダンジョンに入る事になるんだろうし、俺だって流石に慣れるよな。
そうだ。俺だって立派な冒険者なんだから、これからは堂々としてないとな!
……などと思いながらも、重たいオッサン達から少し離れて最後尾でギシギシ言う橋を渡る。いや、落ちるのが怖いワケでは無いぞ。現代人は危機管理能力が凄まじいんだ。だから俺は慎重なだけであって、断じて怖がっている訳じゃ無いからな。
誰に言い訳をしてるんだか解らないが、とにかく暫く歩いて行くと……橋の真下が海の水で満ちて来た。古びた橋は怖いんだけど、真下に広がる海は透き通った綺麗な青色で、小さな魚がついついと泳いで行くのが見えた。
よく見たら、カニっぽい小さな赤いヤツも居る。
思わず「カニだ!」と嬉しさで声を上げそうになってしまったが、ぐっと堪える。
俺は大人の男だし冒険者として胆力のある男になるのだ。こんな場所で小さなカニくらいではしゃいでいてはいけない。カニ捕りしたいけど我慢だ我慢。
浅瀬で動いていた赤い綺麗なカニに後ろ髪を引かれつつも更に進んでいくと、橋を支える幾つもの柱が、海底を目指してか急に長く伸びた。それだけここが深いと言う事なんだろうが、それにしてもホントによく崩れ落ちたりしないよな……。
オッサン二人と爺ちゃん一人、それに俺まで乗っているのに、音は鳴るけどそんなにガタガタ揺れもしないなんて……やっぱ曜術的なものが掛かってんのかな?
そもそもここが栄えていたのは大昔だって言うから、むしろこの錆の入り具合でも橋は綺麗な方なのかも……てか、栄えてた時代っていつだ?
「あの、カーデ師匠……この海洞ダンジョンって、何年くらい前まで冒険者が来てたんですか? 橋の具合から見ると、そうとう前からですよね……」
先頭を行く師匠に少し大きな声で問いかけると、相手は振り返りもせずに答えた。
「そうさのう……このダンジョンが発見されたのは、ざっと百年くらい前かのう。そして完全に冒険者が途絶えたのが……うーむ、ハッキリ断言は出来んが、風の噂では四十年ほど前じゃと言われておる」
「なんだ、僕が生まれる前じゃないか。そりゃよく知らないワケだ」
あ、そっか、ブラックまだ三十代だったもんな。正確な年齢は知らないけど。
しかしそう考えると、俺的には凄い昔みたいに思えるなあ。
「たった六十年の栄華だったのか」
クロウが少し意外そうに言うのに、師匠はチラリと背後を振り返って肩を竦める。
「獣人にゃあ“たった”じゃろうが、人族の街の近くに在るダンジョンであればもった方じゃよ。ダンジョンなんぞ冒険者くらいしか潜らんし、逆に言うたら六十年の間は確実に“意味のある宝”が採掘されていたと言う事だからのう」
「そういうモンなんですか……」
なんだか鉱山みたいで悲しいなあと思っていると、ブラックが俺の方を振り向き、さらに詳しく解説してくれた。
「ダンジョンってのは、基本的に【空白の国】と一緒で、調査したらハイそれまでよって所だからねえ。それに、旨味が無ければただの“モンスターの巣穴”でしかないから、依頼が無ければ冒険者も寄り付かないんだ。だから、この街も御多分に漏れずこうなってるってワケ」
「なるほど……」
【空白の国】と言うのは、この世界における古い遺跡や、何かのお宝が眠っているであろうダンジョンの事を言う。何故こんな独特な名称で呼ばれてるのかと言うと、この世界では、今現在の国々と繋がりのない謎の遺跡が多くて、それらを総称して【空白】……つまり、各国の歴史に存在しない国が存在するとして、各国の領土内にその場所があっても所有権を主張しない協定が成されている……らしい。
なので、冒険者が勝手に入ってトレジャーハンターを出来るんだとか。
俺もよく解ってないんだけど、とにかく【空白の国】と呼ばれている遺跡は、どんな奴だろうが盗……ゲフンゲフン、宝探しに入っても大丈夫って事だな。
段々と近付いてきた小島――海洞ダンジョンも昔はその一つだったんだろうけど、今となってはただの危険な場所になっちまってるんだから、世の中世知辛い。
「うーん……こころなしかあの小島が寂しげに思えて来た……」
この世界のダンジョン全部が“モンスター無限湧き仕様”になっているのかは疑問だが、しかし残ったのはモンスターの巣穴だけって……街の人達は嫌だよなぁ。
四十年以上前にブームが終わったんなら、過去の隆盛を知っている人もまだこの街にいるだろうし、それを考えると何とも居た堪れない物がある。
せめて、同じ冒険者である俺達が潜る事で、意味のある遺物になって欲しいところではあるが……しかし俺達がやることなんて修行だし、たかが知れているよな。
うーむ……この世界でも俺は「過疎の村」やら「人気を失った観光地」やらを色々見て来たが、魔法があるのにホント夢のない世界だよなぁ……いや、人間が存在して暮らしている以上、避けて通れないことなのかも知れないけども。
そんな俺の感傷も、この世界で生きているオッサン達にはどこ吹く風で、特に何の感慨も無さげに一足先に小島に着陸していた。
わびとかさびとか無いんかいこの世界のオッサンどもは。
「…………足場が少ない」
「本当に、この部分だけ隆起して作られた小山って感じだなあ」
クロウとブラックは、小さな山の周りをぐるっと囲っている岩場を見て、なにやら矯めつ眇めつしているようだ。俺も崖の道に小石が敷き詰められたような狭い陸地に降りると、確かに普通の地面とは違う感じがした。
うまく言えないんだけど……なんというか、海岸の延長線にある岩場みたいな。
土が全く無くて、それでいて地上の石が敷き詰められた道とは違う、少し不安定に思える歩き心地というか。コレどっかの石が揺らいで海に落ちたりしないよな?
不安になって来てブラックのそばまで近付くと、カーデ師匠が手招きした。
いつのまにかダンジョンの入口まで移動している。
小島を半周するように歩いて辿り着いたダンジョンは、不自然なほど綺麗な細長い半円形の入口に整えられていて、その上には朽ちかけた木の看板が乗っていた。
もう文字も読めないくらい劣化しているけど、何が書いてあったんだろう。
「まず入るぞ。説明は中でも出来る」
「第一層にはモンスターがいないのか?」
ブラックの問いに、カーデ師匠は「来れば分かる」とだけ言って中に入った。
つまり、危険は無いと言う事なんだろうか?
俺達は顔を見合わせたが、入らない理由も無いので従って入った。
外からの光があまり入らない、薄暗い洞窟。
奥へ進めば真っ暗になるのではないかと恐れた俺の目の前で、カーデ師匠が携帯用ランタンに火を入れて周囲を明るく照らした。
「ただの通路じゃよ。別に危険は無い。それより、階段が崩れとるかも知れんから、気を付けて降りるんじゃぞ」
「えっ、階段……?」
そういえば、この場所は細長い一本道の通路だ。
モンスターが出てくる気配もないし、ひっそりしている。カーデ師匠が言っていた「俺が驚くようなもの」は、この先に在るんだろうか?
階段って事は、下に降りるってことだよな。
言われるがままについて行くと、ランタンの明かりの先に、ぽっかりと空いた黒い穴が見えた。どうやらあそこが階段のようだ。
進んだ先には、なんと岩を削って造られたのであろう螺旋階段が有って、俺はちょっとだけ驚いてしまった。だって、岩を丁寧に削って、降りやすい明確な段がある階段……しかも螺旋階段を作るなんて、並大抵の努力じゃないだろう。
俺の世界の神社の石段だって、登れりゃオッケーなレベルの凄い荒削りなつくりをしている石段があるってのに、この一段一段の真四角で削れた所のない綺麗さは、途轍もないお金の掛け方を感じる。
あっ、もしや、ダンジョンで潤ってた時に、この街の人が整備したのかな?
その事を考えるとまた悲しくなりそうだったので振り切って、俺はとにかく下へと降りる階段を黙って進んだ。と、五分もしない内に下の方に光が見えてくる。
なんだか青い、綺麗な光だ。
しかし光って……このダンジョンには照明が存在するダンジョンなのかな。
不思議に思っていると、師匠がランタンの明かりを消して懐にしまった。
「さて、お前が驚く顔を見ようかのう」
ニヤニヤしながら俺を見やる師匠に首を傾げつつ、全員で階段を脱出する。と――――目の前に広がった光景に、俺は思わず瞠目してしまった。
「なっ……なんだ、ここ……すげえ……!!」
「こりゃ確かに……壮観だねえ……」
「海の底か……?」
クロウの言葉に思わずハッとして俺は拳を握る。
そうだ、その通りなんだ。でも、そう思うと胸が一気にドキドキしてくる。
だって、今俺の目の前に広がっている光景は――――
天井を光で揺らぐ水に覆われた、不可思議な広場だったのだから。
「おうおう、そうじゃろのう。この風景は中々見られるもんじゃない」
俺達が驚いた事に満足したのか、カーデ師匠は満足げに白髭を扱く。
予想通りになってしまったことに悔しさが無いでもなかったが、しかしそれでも、目の前の光景には感動せざるを得なかった。
だって、俺の目の前に広がっているのは……まるでゲームに出てくるような、魔法に満ち溢れた海の中のダンジョンだったんだから。
「はぁああっ、こ、これ、本当に海の中なんですか!?」
見渡す広場の地面には、これ見よがしに綺麗な貝やサンゴっぽい欠片が散らばっていて、パステルカラーの小石なんかが落ちている。なんなら水の壁の向こうにもざくざく転がっていた。物凄く海底っぽくてワクワクする。ほのぼの系のフィールドだと、絶対に海のダンジョンってこう言うキラキラした感じなんだよな~!
これだけでも大興奮なんだけど、地面自体も不思議だ。岩が隆起していたり、幾つかは石柱のように上へと伸びている。その伸びた柱のような岩は天井に引っ付く事は無く、青い光で広場を照らす海の中に直接突き出てしまっていた。まるで、海の水に食い込んで支えているみたいだ。
そういえば、壁も岩と海の混合だな。
キョロキョロと見ていると、海の壁を時々魚がつつっと泳いで行くのが見えた。
魚、やっぱりここは海の中なんだろうか。だとすると凄いぞこんなの!
思わず大興奮してしまった俺に、カーデ師匠は偉ぶって腰に手を当てた。
「ふふん、紛う事無き海の中じゃ! このダンジョンには何か不思議な術が掛かっているようでな。その構造が把握された事は無いが、本当に海の中に大地がそのまま入ってしまっておるのじゃよ。故に、ここでは我々人族も息が出来るのじゃ」
「はええ……術……!」
鸚鵡返しをしてしまったが、師匠は頭を叩くことも無く、俺達の目の前に一歩進み出て、びしっと人差し指を立てた。
「さて、ツカサ。お前にはこの先に居るモンスターを拘束する修行をさせるぞ」
「あっ……そ、そうでした……でもあの、本当に俺に出来るんですか?」
「心配ないわい。第一層におるモンスター小物ぞろいじゃ。子供だってそうそう負けたりはせん。それに致命傷で死ぬことも無いから安心せい」
そ、それなら良かった……。
でも、致命傷も与えられないモンスターって、どういう奴なんだろう。
まさか状態異常系の技を使って来る奴じゃなかろうな。それだと拘束して堪えるって修行も捗りそうだが、痛い思いは出来るだけしたくないな。
師匠に急かされて、ファンシーなダンジョンを進んでいくと……なんだか広場の先に、うごうごと蠢いている小さなものがいくつか見えた。
なんだろうかと目を凝らすと、そこには……。
「えっ……!」
「さっそく一匹捕まえてみい」
そう言われて、師匠に背中を押されて前進させられる。
だけど俺は目の前のモンスターに釘付けになって、暫く集中できそうになかった。
だって……だって……!
目の前にいるモンスターが、めっちゃ可愛かったから……!
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