異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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聖獣王国ベーマス、暗雲を食む巨獣の王編

16.砂漠の夜と極彩の朝

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 砂漠の夜は寒い。

 そう聞いては居たけど、まさか真冬並みに冷え込むなんて思っていなかった俺は、急いで【スクナビナッツ】に入れていた木箱を出して防寒具を取り、頭からすっぽりかぶりまくっていた。

 いやだって、こんなに寒くなるなんて思わなかったんだもの。
 なのでついテンパって、砂の事など気にせず毛布を人数分用意してしまった。

 ……よく考えたら、クロウやシーバさんは自前の毛皮があるので大丈夫だったんだがな。まあでも用心ってコトで出しておいても良いだろう。……べ、別に引っ込みがつかなくなったとかじゃないんだからねっ。

 それはともかく、ホントに寒いな。砂漠って夜はマジで冬みたいになるんだ……。

「うう……満天の星だけど、時間が進むたびにどんどん冷えて行くなぁ……」

 ほう、と手に吐いた息は、乾燥しているせいか寒いのに白くもならない。
 だが変化が目に見えずとも、温度は確実に下がっているのだ。
 数時間前まで凄い暑さだったと言うのに、どうしてこんなに寒くなるのだろう。

「砂漠って、砂の大地のせいで熱をたもちきれないんだっけ。そのせいで、夜になると熱が一気に逃げるから寒くなっちゃうって話だったけど……やっぱし異世界でもそうなのかなぁ……」

 だとすると、それ相応の準備をしておくべきだった。
 パチパチと音を立てる火にあたりながら、俺はまたもや溜息を吐いてしまう。

 テントなんかも持っておけば良かったんだけど、人族の大陸だと緑が豊富で野宿も楽だったし、馬車での移動が主だったりでロクに用意してなかったんだよなぁ。そもそも街道沿いには村があったから、野宿ってのもそうそうなかったワケだし……。

 ああ、こうなるなら食材だけでなく寝床の事も考えておくべきだった。
 ここで寝袋を広げたって、砂まみれで寝心地が悪いだけだよなあ。

 そんな用意不足の自分に落ちこみながらも、俺は炎の前で肩を落とす。

「はー……。浮かれすぎて、食材しか目に入って無かったからなぁ……」

 いや、正確に言うと食材とブラシとか……なのだが、それをオッサン達の前でブツブツと呟くのはさすがに恥ずかしい。せめてロクやペコリア達のお手入れをしてから「そういえば、コレも買ってたんだけど~」みたいなさりげなさで出して、クロウとかの毛並みを整えたい。……って、そんな事を考えてる場合じゃないな。

 ともかく、壊れた馬車を放置して来てしまったせいで、俺達は雨風を防げる大事な場所を失ってしまったのだ。これは由々ゆゆしき事態だぞ。寒いってのもあるけど、食事も寝るのも砂漠の上では何かと都合が悪い。

 風が吹いたら砂が料理に入っちゃうし、寝袋だけじゃ砂を防ぎきれないのだ。
 クロウ達は獣モードでいればモフモフの体毛で温かいとは思うけど……でも、砂は避けたいだろうし、何より疲れが取れないような気がする。

 シーバさんもクロウも頑張ってくれたのに、そうなっちゃあ申し訳ない。
 何より、二人だけを働かせておいて自分だけ何もしないと言うのは我慢ならんぞ。俺だって、せめて食事や体のケアをするくらいの役には立ちたい。

 …………まあ、寝床については何も考えてなかったんですけどね……。

「ン゛ンッ。い、いかんいかん。落ちこみすぎるなよ俺……」

 反省するのはいいけど、卑屈ひくつになってはイカン。
 ともかく……クロウとシーバさんが心配だよな。

 そもそも二人とも砂漠仕様のケモノじゃないんだから、鼻とか口にわっさわっさと砂が入って凄くイヤなはずだ。特にシーバさんなんて熊のクロウより毛が柔らかいし後で地獄になりそう。人間体だと毛皮が肌に変化するからマシだろうけど、それでも髪に砂が入って来るだろうし……イヤじゃないのかなぁ。

 まあ俺は髪の毛が短いから何とかなるけど……ブラックやクロウは髪が長いし後で絶対大変だよな。ヘタすると髪が痛みそうでそこも心配だ。

 コイツらの髪をくのは俺の役目になってしまってるので、砂でギシギシになった髪を手櫛てぐしだけでほぐすのは難しいかも知れないしどうしたものか。
 そう考えると、やっぱりテントみたいな物は必要だったよな。

 寝袋は持ってるし、たき火のための燃料も用意はしてたけど……俺ってばホントに肝心かんじんな所でドジっつうかなぁ、もう……はぁ……。

 ついつい落ちこんでしまっていると、背後から声が近付いてきた。

「ツカサ、夕飯の用意か」
「ツカサくーん、お腹減ったぁ」

 暢気のんきに歩いて来るブラックと熊モードのクロウに、俺は溜息を飲み込んで普通の顔をしながら振り返る。こうなったらせめて普通にメシは作らないとな。
 ……とはいえ、砂だらけのここでどうしたもんか。

「ん、どーしたのツカサ君。なんか浮かない顔してるけど」
「あー……いや、砂が入りそうでちょっとなあって思ってさ……」

 悩みの一つはソレだから間違ってないぞ。
 素直に答えた俺に、ブラックとクロウはすんなり納得してくれたのか「ああ~」と呟き、それから二人ともどうしたものかとこまり顔を見合わせた。

「うーん……普通の地面なら、コイツの土の曜術で簡易の調理台とかを作る事も出来たんだろうけど……砂地じゃちょっと難しそうだねえ」
「ムゥ……砂地は大地の気も微弱だし、何よりこの砂漠には土の曜気がほぼ無いからな……。どうにかしようとしても、出来るものではない」
「砂地ってそんな枯れ果てた感じなのか……」

 そういえば、夜になったと言うのに砂地の大地の気はとても少なくて、ぽつぽつと蛍のような小さな光がまばらにいている程度ていどだ。
 考えてみたら、荒野の集落もそんな感じだったなぁ……。

 この世界は“大地の気”という命のエネルギーみたいなモノと、色々な属性の“気”で構成されている異世界で、人族はその様々な気を自然界から貰って体内で循環しつつ生きている。大地の気は、人の自己治癒能力や命にも直接関わる大事なもので、この“大地の気”が少ないとその土地は荒れ果てることになる。

 植物だって、大地の気がなければスクスク成長するのは難しいのだ。
 だから、その気が少ないせいで砂漠になっちゃったってのは分かるんだけども……しかし、どうしてこれほどまでに大地が枯れているのか分からない。

 人族の大陸でも東の方……プレイン共和国のあたりも荒野だったけど、あそこは昔にヤンチャしたせいで大地の気が枯れたって話だったもんな。
 だから、何か理由があっての砂漠な気もするんだけど……そんなこと考えていても仕方ないか。ついつい余計な所まで気になっちゃうな。

 ともかく今は砂漠でメシがマズいって話だ。
 どうしたもんかと二人を見上げるが、二人のオッサンも「どうにもならないねえ」などと言わんばかりに首を振る。

「ツカサ君の料理は食べたいけど……今日はさすがに我慢しなきゃだね」
「ムゥ……仕方あるまい。砂や余計なモノのせいで、ツカサの手料理が台無しになるのだからな。だがまあ、明日王都に到着しさえすればいいのだ」

 ふんぬ、と鼻から息を噴き出してドヤァと言わんばかりに鼻筋を上へ向ける大きい熊さんの可愛い態度に、ブラックもそうだそうだと頷く。

「駄熊の癖に良いコト言うじゃない。そうだよ、休んだりツカサ君の美味しい料理を堪能たんのうするのは、王都で安全を確保してからでいい。……だから、今日は手持ちのすぐに食べられる食料で我慢しておくよ」
「ブラック……クロウ……」

 それで良いんだろうか。
 でも、今のところどうしようもないもんな。

 クロウやシーバさんには申し訳ないけど……今回は、持って来た果物や焼くだけで食べられる物で夕食を済ませて貰う事にしよう。
 心苦しくは有るけど、気落ちするような食事をさせるわけにもいかないしな。

 二人をねぎらうなら、王都に到着して安心出来るようになってからでも遅くない。

 よーし、じゃあ王都に到着したら腕によりをかけて食事を豪華にするぞ。
 俺のレパートリーじゃたかが知れてるけど、それでもめいっぱいもてなしてやる。実は密かに購入していたお酒も出しちゃうぞ。

 サプライズプレゼントなので今は秘密にしているが、お高くて良さげな酒を出せばブラック達はとても喜んでくれるだろう。これは間違いない。

「ツカサくぅん……でも、パンとかだけじゃ物足りないから……そういう果物とか、買ってあったりする……?」

 上目遣うわめづかいでうかがうように言うブラックは、その仕草のせいでなんだか子供っぽい。
 大人のやる行動かよとあきれてしまうが、これもいつもの事だ。

 でもさっきまでの緊張がけたような気がして、俺はブラックのそんな仕草に苦笑してしまったのだった。





 ――――ともかく、大事なのはしっかり休む事だ。

 果物と保存食だけの質素な食事のあと、理不尽に砂を浴びないようにとせめてもの抵抗で布と棒を使って簡易のテントのような物を作り、俺達はその下で一晩を明かすことにした。横たわった熊さんモードのクロウの腹に俺とブラックが体をあずけ、足元にはシーバさんがせてくれるという布陣だ。

 熊っ毛のボリューミーながらも沈めば柔らかい独特な感触は、防寒効果のみならず俺達を非常に癒してくれる。それに、シーバさんが足元に居てくれるおかげで毛皮が熱を逃がさず寝袋を適度に温めてくれた。
 ううむ、さりげなく気を使ってくれるシーバさんは本当に凄いな……でもなんか、守って貰いっぱなしで少々情けなさといきどおりを覚えてしまう。俺に知識さえ有れば、今日は保存食だけで……なんて事にもならず、料理を振る舞えたはずだったし……。

 ……やっぱ俺、色々と勉強不足だよなぁ……。

 砂漠の国じゃカーデ師匠の「修行」も出来ないけど、でも少しずつ毎日勉強をして覚えて行けば、出来ることも多くなるはずだ。王都で落ち着く事が出来たら、改めて指南書を読みなおしてみよう。

 そんな事を思いつつ、俺は凍えるような砂漠の夜の寒さに耐え、大熊の腹の寝床で目を閉じたのだった。

 ……で、そんなこんなで眠りにつき……明けて翌日。
 日も登る前の薄明るい時間に、俺達は朝食もそこそこにして王都へ出発した。

 ――――シーバさんいわく、この「いかにも」な普通の砂漠地帯までくれば、王都にはあと数時間くらいで到着できるらしい。

 なんだか曖昧あいまいな数字だが、それでもようやく目的地に到着するのだと思えば、何か妙に気持ちがみなぎって来る。
 ついに使命を果たす時がくる……って気持ちもあるけど、でもたぶん俺もブラックも心のうちの大半は「ようやくベッドで眠れる」って嬉しさの方が強いかもしれない。砂漠での野宿はやはりつらかったからな……もうあんなのはこりごりだ。

 なので、シーバさんに「急いですみませんが、安全のために……」と起こされても、何も迷惑だなんて思わなかった。
 砂漠には悪いけど、ここにとどまる理由なんてないからな。

 景色は砂漠ならではの素晴らしさがあるけど……寒さであんまりよく眠れなかった今となっては、遠くの砂丘を楽しむ余裕よゆうも無い。
 じりじりと熱くなってくるのを恐れて、ただ出発するのみだった。

「それで……王都はどのくらいで到着するの?」

 ブラックと一緒にクロウの背中に乗って、振り落とされないように気を付けながら問いかけると、クロウは前方を見たまま熊の長鼻を動かして答えてくれた。

「ムゥ……もう数刻走っていて、もうすぐ昼だから……そろそろのはずだぞ。前方に姿が見えてくるはずだが――――」

 そう言って前方を見つめるクロウは、数秒黙っていたが……やがて、何か見つけたのか熊の耳をピンと立てて口を開く。

「ああ、見えてきたぞ」
「えっ……ホント?!」
「ふーん、どれどれ?」

 ブラックと一緒に前方を見ると、確かに蜃気楼のごとくぼやけた前方に、何かの影が見えてくる。距離が近付くと、それは次第に明確な姿を見せ始めた。

「うわ……!」

 思わず驚いてしまったが、無理もないだろう。
 誰だって、だだっ広いだけの砂漠に突然あんなものが現れたら驚くはずだ。

 なにせ、俺達の視界の先に見えてきた王都は――――本当に蜃気楼の幻のような、極彩色の城壁と鮮やかな緑に染まった都市だったのだから。









※スクナビナッツ:
 豆……というかカプセルみたいな形の幾つかの曜具。
 一種類の物を大量に収納する事が出来る(収納限界あり)。
 ツカサはこの曜具のバグを利用して、大きな木箱に様々な
 道具を収めることで収納限界を誤魔化している。
 が、一つ間違うと盛大に中身をまき散らす事になるので
 最近ではキャンプ用具かあまり使わない物の収納器具に
 なってしまった。
 【スクナビ】という人族が開発した縮小曜術を用いている。

 
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