異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編

27.神たる水牛の武力

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 最も戦闘が激しい場所――つまりは、最前線。

 チャラ牛王とクロウが言うには、そこに指揮を執っているルードルドーナさんがいるという。話では、大将たる司令官をを狙うビジ族――――つまりは長が最も強くて、双方毎度毎度リーダー同士でやりあっているらしい。

 ……普通、リーダーが最前線で戦ってたらみんなやめろって言いません?

 そんなお話の中の英雄じゃないんだから、とつい変な顔になってしまったが、クロウ曰く「武力を尊ぶ我らからすれば、大将首が最前線に立つのが誉れ」なのだそうで、逆に後衛は雑兵とかそういう配置になるらしい。

 まあ、一騎当千の人間が先に踏み込んだ方が、敵を蹴散らして戦いやすくなるってのは確かだけど……大将首が討ち取られたらどうするつもりなんだろうか。

 普通なら散り散りになって逃げだすだろうけど、この世界の獣人族ってわりと戦闘ジャンキーみたいな所があるみたいだから、戦い続けちまうのかもしれない。
 そもそも、決め事すら決闘で決めちゃう種族なんだもんな。
 あと、逃げる事は獣人にとっては恥になるらしいし……いや、家族としては逃げて生き残って欲しい物だと思うが。

 まあそこも獣人だとすると家族も「逃げたのか! 恥さらしめ!」ってなっちゃうのかなぁ……家に帰ったらコゲた肉ぶつけられて追い出されそう。悲しい。

 所変われば恥変わる……などとショゲた顔になってしまったが、慌てて頭を振って周囲を警戒する。まだここは戦場の真っただ中なのだ。いつまたビジ族に襲われるか分からないので気合を入れないとな。

 ……とは言え、オッサンが達が襲い掛かってくるビジ族を殴ったり蹴ったりして牽制しているので、俺は何もする事が無いのだが。
 これで良いのか。良いんだろうな、俺弱いしな。トホホ。

 そんなワケで、ナントカフェアを開催している催事場の中を行くがごとく、人が犇めく戦場をスイスイと通り抜けて行くと――ついに最前線の怒号が耳に入って来た。
 剣戟に雄叫び、獣と人が戦っているにもかかわらず、双方の種族とも大型獣並の声を轟かせてお互いを狩ろうとしている。

 最前線を任されたルードルドーナさんの周囲には、彼に勝るとも劣らない筋骨隆々の戦士達が、それぞれの武器でビジ族達と肉薄していた。

「わ……こ、これは……っ」
「ルードルドーナが指揮する軍隊、トル・クシャヤだ。基本的には支援部隊なのだが、もう一つの軍が動かせぬため【トル・クシャヤ】が一時的にカウルノスの坊主の軍を取り込んで鍛錬を行っておる」
「軍隊、ですか」

 チャラ牛王を見上げると、相手は漆黒の長髪を戦場の風になびかせ、黒い瞳で俺を見てニヤッと笑う。

「そう。こやつら熊の国は、群れではなく軍として戦士の群れを構成している。その名も人族ぶって【護国武令軍】というのだ。ワハハ、まあ獣人どもの多くは人族の国なぞの知識も無いので気にしておらんのだがな」
「陛下……!」
「おっと、スマンスマン」

 チャラ牛王の軽い言葉には少しカチンと来たのか、いつの間にか付いて来ていた怒りんぼ殿下とアンノーネさんがムッとして言葉を掛ける。
 さすがに自分の群れ……というか国を侮辱されると我慢出来ないらしい。
 そんな二人に牛王はチャラく「スマン」と笑うと、気にせず笑いながら続けた。

「とはいえ、精鋭には違いないぞ? 特にカウルノスが指揮していた第一大隊である精鋭軍【ファルシュ・バーン】は天下無双とも謳われた軍だ。本来なら、このビジ族と行う鍛錬も、こやつが指揮するファルシュ・バーンだけなら……俺達が着た頃には、もう鍛錬が終わっていただろう」
「はぁ~……ビジ族に圧勝するほどの強い軍隊なんですね」
「フンッ」

 いや背後で誇らしそうに鼻息出すのやめて下さいお兄さん。
 アンタのこと褒めてないです。

「まあ、最近はビジ族相手にも敗者を出してたがな。それに今は、支援軍である弟の軍隊に指揮権を奪われているわけだし」
「グッ……」
「カウルノスよ、このまま手をこまねいていると……周囲に『弟の方が強いな』なんて侮られる事になろうなあ。意地を張らんでさっさとツカサを喰うなり舐めるなりすれば良いものを。好き嫌いしていては育つものも育たんぞ」
「人の婚約者を野菜みたいに言うなっ! あと絶対に食わせないからな!?」

 ぶわっ、ちょ、ちょっとブラック、歩いてる途中で抱き締めるのやめろって!
 いやでも俺も食われるのはヤだな……クロウの食事ってその……アレだし……。その“アレ”を怒りんぼ殿下もやるのかと思うと、ちょっと遠慮したいと言うか……。

 俺、ブラック達とえっちな事してるけど、別に男が好きな訳じゃないからな!?
 ブラックとクロウだから「やりたい」って言うなら俺でよければと思ってるだけで、他の野郎に言い寄られたって、普通に勘弁して欲しいとしか思わないんだからな!?

 そこんとこ解ってくれて……たら食えとか言わんか。うう。
 どうしてこの世界には俺の世界と同じ「前提」が無いのだろうかと悲しく思いつつも、ブラックに抱き締められて宙ぶらりんになりながら進んでいくと、とうとう賢竜殿下のルードルドーナさん……縮めてルードさんの所に到着した。

「ちょっ……な、何してるんですか貴方達」

 最前線にピクニック気分でゾロゾロとやってきた俺達を見て、なんだこの非常識な人達は的な顔をするルードさん。さもありなん。
 だって、ルードさんは今ビジ族のボスと膠着状態の真っ最中なんだもんな……。

 「両手を熊の手に変える」という器用な変化でビジ族と組み合っているルードさんの様子からすれば、そりゃ俺達は何だコイツらにしかならないだろうよ。
 俺だって真剣に戦ってる途中にヘラヘラしながら来られたら困る。

 だがそんなルードさんを余所に、チャラ牛王は平気で近付いてこう言う。

「なんだ、まだ終わっとらんかったのか。さっさと引き分けにするなり地面に倒すなり、ビジ族を追い払うことは出来るだろう」
「おっ……お言葉ですが……っ、私は元々、支援軍でして……!」
「グルルルルル……!」
「なんだ、カウルノスの後任に推されるかと思ったがそうでもないようだな。……はぁ仕方ない、今回だけは俺が力を貸してやろう」

 まーた上から目線の物言いを……。
 いやでもこのチャラ牛王は、態度と姿は全くの若者だけど、獣人族の間じゃあ一目置かれるほどの実力者なんだよな。
 これは牛王の実力の一端を確認できるいい機会かもしれない。
 それはブラックもそう思ったようで、俺を抱きかかえたままでジッと事の成り行きを見守っている。やがて、何やら言い合っていた二人は納得したのか、ルードさんは今留めているビジ族の長に視線を戻した。

 それと同時、今までブスッとしていた怒りんぼ殿下が背後から声をかける。

「おい、少し離れていろ」
「海征神牛王陛下の武力はかなりのものです。ひ弱な人族では、影響が出る恐れがありますから早く距離をとってください」

 続けてそう言うのは、俺をじっと見るアンノーネさん。
 二人とも不機嫌そうな顔だが、そんな相手をブラックが睨みつける。

「なに? ツカサ君をあんまりバカにするなよ! これでも普通のメスよりずっと強いんだからなっ」
「そうだぞ、ツカサほど強いメスも居まい。侮ると痛い目を見るぞ」

 コラコラお前らなんで俺オンリーへ向けての発言だと思ってんだ!

 今の忠告は人族全体に向けてのだろとオッサン二人を見上げるが、コイツらと来たら完全に俺を「ひ弱な人族」と思ってやがる。いや事実そうだけどさあ!
 それにしたってもうちょい庇い方があるだろ、と思ったが、もうオッサン達はそんな事を言い合いながらもしっかり距離を取り始めている。

 ぶらぶら足を宙に浮かせながら抱え上げられている俺は、ただドナドナされるしかない。ううう、悔しいけれどひ弱だ俺は。
 そんな俺達を余所に、牛王は首と肩を動かしてコキコキと音を鳴らすという、漫画でよく見かける動きを見せながら、何故かタンタンと片足で地面をタップする。

 何をするのだろうか、と思い、俺達が目を見張った刹那。

「――――ッ!?」

 軽く上半身を曲げた、瞬間に牛王の背中がもくしできないほどの速度で膨らみ、体が一気に漆黒に染まって視界を覆った。
 じゃら、と、横に伸びた大きなツノが幾つもの装飾具を鳴らし音を立て、ぶおん、と、空気を震わせるかのような風が一体に広がる。だが、これは普通の風ではない。

 目の前にいる――――

 神の使いであるかのように金の装飾具を着飾った巨大な水牛が、ただの溜息を鼻から噴き出しただけの、たったそれだけで起こった風なのだ。

 象のように巨大で、その黒光りするごつごつしたツノすらも馬を余裕で薙ぎ倒す事が出来るような存在感。地面を打ち鳴らした蹄はその切っ先が鋭く尖っており、普通の水牛とは明らかに違う姿だが……これが、海征神牛王なのか。

「砂漠の死肉喰らいごときが俺を無視するとは良い度胸だな。褒美に――――お前達が受けた事のない、珍しい攻撃をしてやろう」

 牛王が喋る度に、その声に乗って唸り声が聞こえる。
 何故二重に声が聞こえるのか解らないが、その音は何故か体を震わせる。
 あれこそ地の底から覗く悪魔の声だと言われれば納得してしまうくらい、耳を塞ぎたくなるような恐ろしい声。

「お前らの耳は、惰弱な獣か?」

 そう、問いかけたと同時。
 大きく牛王の口が開き――――けたたましい音が、周囲に響き渡った。

「――~~~!!」
「ギャア゛ッ、ギッ、ギィイ゛イ゛イ゛!!」

 これは、なんだ。耳が痛い。大音量だからと言うわけじゃない、聞いていると、脳が揺れそうな気持ち悪さが襲ってきて頭がガンガン痛くなってくる。
 雄叫びだと言うのは分かるのに、そんな音がしない。これは、これは……まさしく、超音波だ。そうであるかは分からない。だけど、そう言った類の声を、牛王は当たり前のことであるかのように吐き出しているのだ。

 それでいて、この人は……それを、最大の攻撃だとも思っていない。
 なのにビジ族はその凄まじい音に驚いて、すぐにルードさんから離れて耳を塞ぎ、その場でのた打ち回る。見れば、周囲のビジ族も同じように苦しんでいた。

 …………無論、味方側も……だけど……。

「な、なんつうデタラメな技……っ」
「海征神牛王陛下の声は、と、特殊なのだ……っ」

 ブラックもクロウもその音にたまらず耳を塞いでいる……のだが、ブラックは片手で俺を抱き上げているのでどうしても片耳がおろそかになる。
 仕方なく俺が空いた方に片手を当てると、ブラックがニマリと笑った。いや、そういう場合じゃないだろ。

 だけど、俺達が思ったより早く事は片付いたようで……ビジ族は驚いたのか、牛王を見てブワッとその短い毛を膨らませるとギャッギャと号令をかけ、そのまま荒野の奥へと走って帰ってしまった。

「おっ、この程度で逃げ帰るか……どうも今の世代のビジ族は軟弱になっているようだな。なるほど、このあたりも平和になるわけだ」

 そんな事を言いながら、ぴしりぴしりと己の尻に黒い牛の尻尾を叩きつける牛王。
 仕草は思いきり牛そのものだけど……やったことは、牛とは思えない。

 この人が「獣人族最強」とも言われるのは、伊達じゃないんだな……。

「さてルードルドーナ、俺達はちょっと話があってここまできたんだ。今いいか?」
「は、はぁ……あの、その前に、負傷兵や志望者を確認してもよろしいでしょうか」
「おっとそうだったな。おいお前達、そう言う訳だから少し休むぞ」

 ワハハ、といつものように笑い、牛王は黒牛のままでニヤッと口を歪める。
 牛の顔ということでちょっと可愛いと思ってしまったが、良く考えたらこの人は一般の獣人に恐れられるビジ族にすら簡単に勝てちゃう人なんだよなぁ……。

 蹄一つ動かさずに敵を退けるのは、それだけでもう凄まじい武力だろう。
 怒りんぼ殿下が素直に従う訳だと思いつつ、俺は息を吐いたのだった。






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