異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編

31.閑談と密談

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   ◆



「ったく、僕のツカサ君を引っ張り回すとはふてぇ野郎だ」

 プンスカ怒りながらも、腹が減っていたらしいブラックはケルンクラクラの骨付き肉を男らしく噛み千切り、もっしゃもっしゃと咀嚼する。
 胡坐をかいたその光景は、服装がちゃんとしてなければ山賊と見紛うばかりだったが、それはともかくとして。

 やっと追いついて来てくれたブラック達と合流した俺は、振り回したお詫びとして肉を全員に振る舞って貰おう……と思ったのだが、良く考えたらコイツの金は国民の税金だったので、人数分の肉を確保して貰う命令だけ出させて、あとは俺がなけなしのポケットマネーで支払い肉を御馳走することになった。

 人の金で食うメシは美味いとはよく言ったもんだが、でもそのお金が血税って言うのは小市民の俺にはちょっとその……荷が重い。
 かなり懐に響いてしまったが、まあ元から素寒貧で旅するのが当たり前だったので、これは元に戻ったと言うことにしておこう。うん。

 ともかく、この肉のおかげでどうやらブラックとクロウ達には、さっきのことはバレてないみたいだった。「腹が減ったから肉を食っていた」という、嘘じゃないが疑わしい怒りんぼ殿下の言葉も、ブラック達のハナを惑わせたようだ。
 黙ってるのは申し訳ないが、でもいらない心配なんかさせたくないもんな。

 今はこのふてぇ殿下の力を取り戻して、一刻も早く【銹地の書】を貰い人族の大陸に戻ることこそが大事なんだ。
 それに……俺が色々な意味で強ければ、こうはならなかったんだし。

 …………我ながらみじめなプライドだとは思うが、こう思わなきゃ今日は眠れそうにない。俺だって、よわっちいけど男なんだ。こんなこと人に知られたくない。

 って、そんな話じゃなくて。
 いかんいかん、まだ頭が切り替えられてないな……これじゃバレちまう。
 ともかく今は、満足げに肉を食べているオッサン達の話を聞こう。

 ブラックの不機嫌そうな声を聞いたのか、少し離れた場所に座っている殿下が同じような不機嫌顔で返す。

「だからそれは不可抗力だと言っているだろう。済んだ事をいつまでもグチグチと言うなんて、お前は底意地の悪いメスか何かか」
「テメエが言うな!!」

 俺が殿下に対して敬語をやめたせいなのか、ブラックの口調もかなり鋭い。
 でも今回の俺は、何とも思わないからな。むしろ不敬にされても言い返せないのはイイ気味だ。ブラックの旦那ァ、もっと突いてやってくだせえよぉ!
 ……ってこれはちょっとゴマスリムーブすぎるか。

 つーか殿下も本当に口が悪いな。

「あーもーイライラする……ツカサ君おいで、別の部屋にいこ!」
「え? あ、うん。じゃあロク、クロウ……」
「じゃなくて二人っきりで!!」
「えええぇ」

 考える間もなく、手を引っ張られて無理矢理起立させられる。
 ちょ、ちょっと待って。別の部屋に行くんなら、このメンツでロクとクロウを残していくのは悪手なんじゃないのか。いくらイライラしてたって、二人を獣の檻に置いてくワケにはいかな……いやだから待てってーの!

「ほらぁっ」
「ぶ、ブラックちょっと待てってば! 部屋に二人を置いてくのは……」
「アイツもだいぶマシになったみたいだし、そのくらい耐えられるよ! それより、僕がもう耐えられないんだよぉ!」

 よほど切羽詰まってるみたいだけど、何をそんなに焦っているのか。
 いつも以上にワガママだが……もしかして、ブラックも何か異変が起きているとでもいうのか。……そっか、こんだけグイグイ来るんだからありえるよな。

 常に我が道を行くハタ迷惑なオッサンだけど、ブラックだって意外と繊細だし弱い所もあるのだ。俺が離れている間に何かあったのかもしれない。
 きっと俺と二人きりでないと言えない話があるのだ。

 それなら、この強引さも頷ける。
 ならば俺も話を聞いてやろうじゃないか。そう思いブラックに付いて行くと……相手は一部屋離れた場所に俺を連れ込み、ぎゅっと抱き着いて来た。

「……ん……んん? ぶ、ブラック?」

 何か耐えられないんじゃないのか、と相手を見上げると、ブラックは無精髭だらけの頬をフグみたいに膨らませて俺の頬に擦り寄って来る。
 相変わらずチクチクして痛痒い頬に呻くが、抱き締められていては動く事も出来ずなすがままにされる。近場に顔があるせいか、肉のニオイが強く残っている。

 ……あの肉って、だいぶ香りも強いんだな。
 そっか、そのせいでクロウも俺が何をされたか判らなかったのかも。

「んんん……ツカサ君……もうホント、勝手にどこかに行かないでよぉ……。指輪が無かったら、すぐに見つけ出せなかったんだからね?」
「ご、ごめん……」

 ブラックは、俺に何事も無かったと判断しているようだ。
 なんだか騙しているようで気が引けたが、でも話したらもっとブラックが傷付く。俺が我慢すれば良いだけの話にならなくなるのは、絶対に嫌だ。
 だから……ブラックには、何も言えなかった。

 そんな俺の遠慮がちな様子を上手く誤解してくれたのか、ブラックは俺の体を抱き締めたまま軽く抱え上げると、天蓋付きのベッドに持って行く。
 簡単に宙に浮かされた俺は、そのままブラックとベッドへダイブしてしまった。

「ツカサ君……もう僕人族の国に帰りたいよ……。なんでツカサ君が、あのクソ熊のために振り回されなくちゃなんないの? おかげで全然いちゃつけないじゃないか! しかもグリモアを受け取るだけのはずだったのに、遠回りしまくってあのクソ熊殿下に協力しなきゃ行けないなんてぇえ……っ」

 しんそこ嫌そうに腹の奥から低く這いずるような声を出すブラックだが、その声は俺のお腹に押し付けられているのでくぐもっている。
 低いせいなのか、それとも口が腹部に押し当てられているせいなのか、なんだか腹に響くみたいでちょっとくすぐったい。やっている事はまるきり子供だけど……でも、今の状況を思えばブラックがダダをこねるのも無理はなかった。

 そもそも、俺達の目的はグリモアだけなんだもんな。
 なのに、こんな風に遠回りさせられちゃって、本来協力しなくても良い事を無理矢理手伝わされてるんだから、そりゃ嘆きもでようというものだ。

 それに……俺は色々動いているからいいけど、ブラックは何をするってワケでもなく客室でただ待ってるしかなかったんだもんな。
 子供のお留守番みたいな状況を何度も強いられれば、そりゃあ……今までずっと一緒に居て、旅して来たんだから……不安になったり不満が出たりもする。

 ブラックは大人だけど、こういうところは素直すぎるくらい子供なんだ。
 それに、俺がちょくちょくいなくなるのも不満だったんだろう。
 俺が逆に待つだけの立場になれば……当然、俺だってブラックが何かを強要させられてやしないか心配になる。

 しかもブラックの場合、サービニア号の時から不満持ってたもんなぁ。
 ……その不満が、今ちょっとだけ漏れ出てしまったんだろう。

「ブラック……ごめんな、ずっと留守番させて」

 俺の腹にぐっと押し付けられる堀が深い顔の感触を感じながら、赤い髪を撫でる。砂漠を往復してきたせいで、また髪の毛がザラついているみたいだ。
 柔らかで繊細なうねりを流すのに、しっかりとしている不思議な赤い髪。その感触をゆっくり感じるのも……なんだか、遠い昔みたいに思える。

 慰めるように撫でると、腹に押し付けられていた高い鼻がスンと鳴った。

「…………もっと甘えて良い?」

 優しくした途端にコレか、と思ったが。

「ちょっとだけだぞ。……呼ばれたら終了だからな」
「えへ……」

 俺の言葉に、ブラックが嬉しそうな声を漏らす。
 なんともしまりのない笑いだったが、こういう気の抜けた感じがいつもの姿なのだ。そう思うと、なんだか胸がぎゅっとなって、俺は内心苦笑してしまった。

 この、でっかいオッサンに抱き着かれて髪を撫でていると、不思議と自分の感情も落ち着いて来る。赤子のように服を掴み「抱き締めて」と見上げる、大人でしかない相手の頭を両腕で抱えると、鬱々とした気持ちより頭が気持ちいい熱に浮かされる感覚になって、ただブラックの頭を抱え込んでその赤い髪に頬を埋めた。

 ――――なんでだろうな。
 さっきまで色々考えて苦しかったのに、ブラックと抱き合っていると……その苦しさが全て消えてしまったような気がする。

 心が温かくなって、ずっとこうしてぎゅっとしていたいな……なんて、自分らしくない少女漫画みたいな願望が脳裏をかすめてしまって。
 でも、それを恥ずかしいと思いこそすれ、ブラックを拒否するような行動なんて全く思いつかなかった。

 これじゃ、あべこべだ。
 甘えられているはずなのに、俺が甘えて慰めて貰ってるみたいだ。

 でも、何も言えない情けない俺には、そんな情けない事実すらありがたかった。

「ツカサくぅん……ね、もう駄熊の寝室で寝るのやめよ? もうアイツ自信とか何とか取り戻したみたいだしさ。だから一緒に寝ようよ……ねっ。ね?」
「お前なぁ……それは聞いてみないとわかんないだろ」
「いや聞いたら絶対あの野郎延長しようとするからもう良いって絶対」

 早口で言う事かと思って笑ってしまう。
 ブラックは不満げに口をとがらせていたけど、そのいつもの甘えた表情がなんだか今は嬉しかった。






 ツカサとブラックが別室へ去った後の部屋には、一匹のモンスターと四人の獣人族だけが残されていた。
 だが、その場に残された者達は、一人として怯える事は無い。

「おあつらえむきに、人族の二人が下がったな。……では、腹を割って話すか」

 そう言って胡坐をかいた膝を叩くのは、獣人族の中で最も強い力を持つ獣人。
 たった一人の種族ゆえその群れの名すらも“海征神牛王”と呼ばれる孤高の王が、黒髪を軽く靡かせ角飾りをわざとらしく鳴らした。

 そんな孤高の王の言葉に、カウルノスとアンノーネが居住まいを正す。
 追放された身の上のクロウクルワッハも同様だ。

 彼らの敬意に海征神牛王は快活に笑うと、三人と一匹を見やった。

「人族には悪いが、あまり時間が無い。後で喚かれるとしても、ここでしっかりと確認をしておかねばな。そのためには、クロウクルワッハ。お前の力も必要だ」
「はっ……」

 頭を下げる弟を、兄のカウルノスが冷ややかに見つめる。
 その視線を知りながら、海征神牛王は勝気な笑みのまま続けた。

「お前達の願いとて、このカウルノスが王に戻らねば果たせまい。だが、そのためには……試練に一つ“枷”が必要だ。それを、お前に頼みたい」

 人語を理解する稀な黒蛇は、その言葉の意味を測りかねているのか海征神牛王とクロウクルワッハを交互にみやっている。
 だが、その問いに答える物は誰もいない。
 この黒蛇が人族のしもべと理解しているからこそ、あえて無視を決め込んでいた。

 そんな彼らが話したのは、どんなものだったのか。
 理解は出来たとて、黒蛇には伝えることが難しかっただろう。










※ちょと遅れました…(;´Д`)最近スミマセヌ
 もうちょっとで次の章です(まだベーマスだよ)
 
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