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魔境山脈ネイリ、忘却の都と呪いの子編
まさかそれが狙いじゃないよな2
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「おや、えらく美味そうな格好をしてきたな! やっぱりメスだもんな、こういう時くらいは、ちゃんとしたメスらしい服にしたいという気持ちはわかるぞ」
「い……いやぁ……ははは……」
……夕食にお呼ばれして、大広間と呼ばれる巨大絨毯が敷かれた空間にみんなで胡坐をかき円座で食事を囲んでいる。のだが、俺はそういうワケにもいかない。
ブラックに半ば強引に穿かされた激ミニ半ズボンでの胡坐はちょっと公序良俗的に問題があるので、女々しいと思いながらも正座しているのである。
だが、そんな俺を好意的に見てくれているのか、怒りんぼ殿下ことカウルノス殿下のお母さん――マハ・カンバカランさんは、俺の丸出しの太腿を見てニコニコと機嫌良さそうに笑ってくれていた。
この感じは知ってるぞ。
アレだ。俺のかあさんが知り合いの娘さんを見て微笑ましく思ってる目だ。
つまりマハさんは別に俺をメス扱いしてからかっているワケではなく、本当に心の底から俺をメスだと認め、褒める方向で微笑ましいなぁと思ってくれているのだ。
………………。
ボーイッシュポニテマッスル美女に褒められるのは嬉しい。めっちゃキュンとくるし俺はなんて幸せ者なんだろうとは思う。思うけども……ッ!
「ほんと、ウチの息子が甲斐性なしじゃなけりゃ、夜這いをかけさせて貰いたいくらいだ。にしても……人族のメスってのはずいぶん肉が軟らかいんだねえ。良い跡継ぎが生まれそうだ、なあカウルノス! アンタもこういう嫁を早く貰うんだぞ」
「グッ……は、母上……ッ、こういう時にそんな話はやめて頂きたい……っ」
普段はキライだけど、こういう時は素直に同情するぞ怒りんぼ殿下。
そりゃそうだよな、ヤだよな。友達に母親を紹介したくないのって、自分の巣の状態を知られるのがイヤってのもあるが、こういう感じで恥ずかしい事をペラペラ言われるかもって思うから紹介したくないんだよな。
母さんが嫌いなわけじゃないんだが、親って大体そういうところあるから……。
「もう既に強いオスに“匂いづけ”されてるってのは本当に残念だ。人族ってんなら、一ひねりで殺してメスを奪えると思ったんだけどなあ」
えっ、な、何言ってるんですかマハさん。
夕食をムシャムシャしながら、今とんでもないこと言いませんでしたか。
あとなんでみんな平然としてるの。
ブラックも不敵な笑みで酒を飲んでいてちょっと今の状況がわからない。どういう事だと視線をキョロキョロ動かしていると、ブラックがいつもより大人な声を漏らした。
「この大陸では人族と言えば弱者だと思われるのに、妃殿下は私どもをずいぶんと高く評価して下さるのですね」
「おいおい他人行儀は要らんと言っただろう。まあいいが……そうやって謙遜するのは人族の特徴か? だが、お前の場合ソレは慇懃無礼だぞ」
そう言いながら、マハさんは骨付き肉へとかぶりつき、豪快に獣の牙を見せながら獣のように笑う。
「お前、私らの“武力”とは別の“武力”を持ってるな。正直、お前達と戦うようなことが無くてホッとしているぞ」
「母上」
不敵な笑みのマハさんは、綺麗な目を細めて口端を吊り上げる。
顎の力だけで簡単に肉を引き裂き、大量の肉を即座に噛み砕いて飲み干しながら指についた油をペロリと舐めた。
「カウルノス。お前も、下獣どもで言えば百をとうに越えていたかな。ならば、そろそろ子どもと言う歳ではなかろう。ディオケロス・アルクーダなれば、己を最も強きものだと考えることと同時に、その強さ故に賢くあらねばならないということをかんがえろ。王として選ばれたのであればなおさら、な」
「…………」
マハさんの言葉に、怒りんぼ殿下は無言で目を伏せている。
色々と気になる部分はあるが、確かクロウの一族って長命なんだっけ。他の“神獣”と呼ばれる特殊な獣人族もそうみたいだから、彼らの感覚からすれば怒りんぼ殿下も子供みたいなカンジなんだろうな。とはいえ外見はオッサンだが。
しかしマハさんの言っている事は確かだ。
強いからと言って過信してはならないし、物事を良く考えなければいけない。
王様って言うのは色んな人の命を預かっているようなモンなんだから、特に自分のやっている事を冷静に顧みなきゃ行けないんだよな。
……とはいえ、今の怒りんぼ殿下に出来るんだろうかと心配になるが。
だってこのひと、弟の暗殺計画企ててるんですよ。
そりゃ王族なら陰謀暗殺当たり前なのかも知れないけどさ、そういうのはドービエル爺ちゃんが悲しむんじゃないのかな……父親の事を尊敬してるのに、父親みたいに正々堂々戦えないってのも、なんというか……うーん……。
「まあ、そのあたりは再び王座を取り戻してからだな。聞けばお前達は、以前耳長族に……えーと、神族に託された本を受け取りに来たのだろう? ならば、早く不肖の息子に復権して貰わねばな」
わりとキビしいことを言っているが、マハさんもだいぶ息子に甘いようだ。
王として失格だレベルのことを言ってはいるけど、結局のところ怒りんぼ殿下は王に相応しいと考えてるみたいだし、忠告はごもっともだしな。
しかし、人の母親のお小言を聞いてると自分の事も考えちゃうな。
俺も母さんから「アレしろコレしろ」ってよく言われるけど、あれもご尤もな忠告――いや、それはないな。俺の家は普通のご家庭なので関係ないだろう。
ついつい自分の家の事を思い返してしまったが、気を取り直して食事を進める。
夜は部屋から出られないから、夜中に腹が空かないようにしないとな。しかし……何で夜は外に出ちゃいけないんだろう?
「あの、マハさん……俺達みたいな客は夜に外に出てはいけないって聞かされたんですが、どうしてなんですか? 防犯上の問題なんでしょうか」
肉と酒とで山盛りになった食卓から適当に取りつつ問うと、マハさんは相変わらずデカい肉を齧りながら「んあ?」と眉を上げた。
「ああ、そういうしきたりもあったな。客が来るのは久しいから忘れていたが……確かこの城には不可解な現象が起こるとかで、気味が悪いから出歩くなと聞いたような気がするな。……しかし何だったかな? 前任者は死んでるから覚えてないな」
「母上、それは別に気にすることでは……」
「しかしなあ、召使いが言うんだから一応は気にするべきだろう。下々のものから話を聞いておくのも大事なんだぞカウルノス」
それはとても重要な事ですな、うむ。
我ながら女性に対して肯定し過ぎるなとは思うが、しかし間違ってないからな。
だけど、マハさんが覚えてないって事はそれほど重要な事じゃないのか?
領主として統治してるんだから、重要な事なら忘れるはずも無かろうし。
「しかし気味の悪い現象とはなんですか。ここに来た時は一言も……」
「それは私達がこの砦の領主に関わりがある者だったからだろう。ここに客人が来た事などほとんどないが、それでもそう言われるのだから仕方ない。……というワケで、私達も深くは知らんのだ。しかし、気分を悪くするものなど誰も見たくないだろう?」
「じゃあ、絶対に出てはいけないってワケでもないんですか」
酒精が抜けたちょっと酸っぱい酒を水代わりに飲みながら言うと、マハさんは少し考えて「そうかもな」と顎に指を当てた。考えるポーズだ。可愛い。
「まあ、万が一何か有っても、クロウクルワッハとそこのオスがいれば平気だろう。私が許可するから、何か有ったら言いに来ると良い。お前達は蔵書を読みたいのだし、時間が必要だろう? 夜も見たいのであれば止めはせんぞ」
「あっ、ありがとうございます!」
「なに、礼などはいい。が、良かったらお前のその美味そうな太腿をひと揉み……」
「母上!! 何をおっしゃってるんですかッ!!」
メスだとしても獣人は獣人か……。
女性に触れて貰えるのは無条件に嬉しいが、己の親がそんな発言したらちょっとの気まずさどころじゃないな。気持ちはわかるぞ怒りんぼ殿下。
「残念ですがツカサ君の太腿は僕の所有物なので」
「何言ってんだお前は」
「オレも揉んでいいことになっている」
「開口一発目がそれか駄熊め、誰が許可したぶっ殺すぞ」
こらっ、親戚の前でなんてこと言うんだブラック!
せっかくクロウが緊張せずにご飯食べてたのに、また気後れしたらどうすんだ。
いや……でも、今のクロウは怒りんぼ殿下の前でもいつもみたいな感じだし、何か心境の変化があったのかな。
マハさんと話して何かまた自信がついたみたいだ。
何を話したのか知る事が出来ないのがもどかしいけど、でもクロウが徐々に自分の事を「強い」と再び思えるようになったみたいで良かったよ。
「ツカサ、今度はオレもついていくぞ。ブラックだけ一緒に居るのはずるいからな」
「なーにを言っとるんだこの横恋慕熊!!」
ふざけるなと牙を剥くブラックに、マハさんは何がおかしいのかガハハと笑う。
そんな母親の姿が恥ずかしいのか、殿下はなんだか萎縮しているようだった。
……うーむ、これじゃなんだか逆転したみたいだ。
クロウが元気になって良かったけど……ショゲてる殿下はなんだか殿下らしくない気もするな。……いや、心配してる場合じゃないんだけど。
でも本当に、こんな感じで暗殺なんてしようとしてるのかな。
なんだか分からなくなって来たぞ。
怒りんぼ殿下……カウルノス殿下って、ホントにどういう気持ちで「自分が憎い弟を殺す」なんて言い出したんだろう。
こんなに一緒に居るのに、今だって一度もクロウのこと見てないし……。
それに、なんだかいっぱいいっぱいな感じで、クロウに構ってる暇なんてなさそうな感じがするのにな。
……考えてみれば、俺……カウルノス殿下の事、何も知らないんだな。
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