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亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編
30.てのなるほうへ
しおりを挟む狭い視界の中で周囲を見渡し、俺は人の気配が無い事を再度確認する。
ブラックが【索敵】で小刻みに周囲を探ってくれているけど、この【付加術】を使う時に使用する“大地の気”は、人族の冒険者なら感知出来ちまうからな。
まあブラックより上の術者ぐらいしか【索敵】の気配は分からないそうだけど、それでも用心に越したことはないだろう。
この城の内部を把握するまでは、気が抜けないからな!
なので、ブラックの後に続いて俺も周囲を警戒しながら、にじりにじりと歩き城の中の探索をしているのだが。
「ツカサ君……ねえ、その……やっぱりその兜は要らないんじゃない……?」
このオッサンは、まーたこんな事を言う。
だが俺は毅然とした態度で、自分の顔を覆っている兜を動かした。
「何言ってんだよ、コレは絶対必要だろ! お前はともかく、俺はケシスさん達に顔をバッチリ覚えられちゃってるし、それに傭兵ってどこいっても兜を被ってるもんだろ? だったら俺だけでも被ってなきゃ!」
ふふん、俺だってゲームとかで傭兵の事はしってるんだからな。
なんかよくわからないけど、彼らはパンツ一丁でも兜を外さないのだ。多くのゲームで、彼らは頑なに兜だけは守り続けているのである。
多分アレは、顔を隠し敵に表情を読まれないようにして、そこから一矢報いるという冷静沈着な判断をしているからなのだろう。
なので俺も兜は外さないようにしたのだ。パンツ一丁になっても外さないからな!
……とはブラックにも一度説明したはずなのだが、全然響いていないようだ。
「ねえツカサ君。下着一丁で兜被ってる傭兵って、それただの変態だからね? 普通に警備兵に通報した方がいいヤツだからね……?」
「戦場に警備兵なんていないだろ」
「戦場で下着一枚とかもっとナイから!! どんな性的な戦場!?」
なんでそんなツッコむんだよお前は。
まったく分からん奴だなぁ。
ともかく、俺は顔が割れてるんだから隠すに越したことはない。
そんな俺の弁舌にブラックは最後まで嫌そうに顔を歪めていたが、兜の重要性は理解してくれたのか、ハァと溜息を吐きつつ作業を再開した。
「そんで……どんな感じ? 今のところ人の気配は全然ないっぽいけど……」
「うーん……なんか、なんだろうね……不自然なくらい人がいないんだよねえ。変な気配もしないし……ツカサ君も一応【曜気】を探ってくれてはいるんでしょ?」
「う、うん……どの属性も変な動きをしてる感じの奴は無いかな……」
以前俺達はサービニア号という船で、あまりにもデタラメな術を目の当たりにした。
それは「船体となる金属を曜術で支配し、船内のありとあらゆる情報を傍受する」という手法だ。それによって、俺もかなり苦しい思いをしたのである。
今回はソレを警戒して、俺も「全属性の曜気を使える」という【黒曜の使者】の能力で、周囲の気の動きを確認しているのだ。
……まあ、あんな物凄い術はさすがにそう無いと思うし、仮に【黒い犬】の派閥の中の誰かが、彼……【金のアルスノートリア】ほどの力を持っていて、城を形作る石や土を支配できたとしても、占拠して二日三日では支配も不完全だろう。
それに、リメインは……巨大な船を支配したせいで、苦しんでたし……。
………………。
万が一ってこともあるし、まあ……用心するに越したことはないからな。
けど、今のところ変な気の動きは見えない。
だから何か変な事が起こってるってワケでもないんだろうけど……。
「……それにしても、ホントに曜気が少ないんだなぁ……でも、曜気って無くなったらその物質が脆くなっちゃうんだろ? よくこんなガチガチな城を作れたもんだ」
石が剥き出しになっている壁をぺちぺちと叩くが、全然崩れる感じはしない。
これで土の曜気がほぼゼロなんだから驚きだ。
「大地……土や岩だけは特別なんだよ。ソレそのものが強固っていうか、この世界の土台になる存在だからなのか、それともどこに在ろうが自然と繋がってるからなのか、流動する土の曜気がほとんどなくても壊れず存在して居られるんだ」
「やっぱ、大地と接触してるから?」
この世界の土の曜気って、絶えず流れ続けてるんだよな。だから土の曜術師達は基本的にその曜気を捕えるのが難しくて、戦闘にもあまり出てこないんだ。
そのせいで、一番不遇だと言われていたりして地位が低い。……俺としては、家を造ったりしてくれる凄い人達だと思うんだが、現実は世知辛い。
あっ、クロウも強力な土属性の曜術を使えるけど、例外中の例外だな。
獣人は曜術を使えないはずなのに、クロウの特殊技能のおかげなのか唯一曜術を使えるみたいだし、しかもソレも普通の人族よりかなり強力だし。
……クロウも、自然の岩や土みたいに大地と接触する力が強いんだろうか?
そんな疑問に、ブラックは少し真面目な顔をして軽く天井を見た。
「うーん……そこは学者連中の間でも長年研究されてるみたいだね。神様の力って
言っちゃったらそれまでだけど、この世界の初期の神ってのはだいぶ面倒臭い性格ばっかりだったみたいだし……もしかすると、なんらかの作用が証明される日が来るのかも知れない。曜術だって、そういう積み重ねの歴史で出来ているからね」
ブラックの表情がほんのり楽しそうで、俺もちょっと笑ってしまう。
知識欲が凄いのか、こういう話が結構好きなんだよなブラックって。
深い所まで行くと俺はついて行けなくなっちゃうけど……敵地なのについこうして顔を明るくするブラックを見るのは、嫌いじゃない。
ホントは、こういう風にもっと気兼ねなく好きな話をさせてあげたいんだけどな。
【銹地の書】を譲り受けて人族の大陸に帰ったら、ちょっとくらいそんなヒマを貰えるだろうか。……あいつらが……【アルスノートリア】がいるうちは、無理かな……。
そもそも、獣人大陸に居るうちは難しいか。
「ツカサ君?」
「あ、いや、なんでもない。……これでこの階は調べ終ったかな?」
「うん。隠し通路とかもないみたいだし、ここは出歩いても大丈夫そうだ」
とはいえ、ここは厨房や訓練場、それと兵士や使用人の部屋しかないフロアなので、ここを探っても何か重要な物が有るとは言えないのだが。
……いや、重要っちゃ重要だよな。だって、この階に俺達二人以外の誰もいないんだもん。さすがに厨房まで無人ってのはおかしすぎるもんな。
「なあブラック……やっぱこの城の人達って、全員纏めてどこかに監禁されちゃってるのかな。この階に誰も居ないって、どう考えてもおかしいよな……」
「さすがに城の料理人全員が厨房を留守にするのはね。……だけど、この上の階にも人の気配はなさそうだしなぁ……やっぱり地下なんだろうか」
あ、そっか。全ての術は基本的に地中は探れないけど、上空は妨害されてなきゃ一緒に探れるんだっけ。まあそんな芸当出来るのはブラックくらいだろうけども。
「ここは一階……もし地下への隠し通路が有るなら、ここが一番可能性が高いと思うんだけどなぁ。でも、そんな感じはしないし……やっぱり丁寧に探すしかないか。まあ三階には【蔵書保管庫】があったし、この城の事をもう一度調べてみるのもアリかも知れないね」
「あ、そっか! そういうのもあったな!」
あの時はザッと見ただけだったし、もう少し詳しく探せば城の見取り図が見つかるかも知れない。そしたら、そし……たら……――――
………………あれ……なんか、視界が急になんか、かすんで……。
……え……なんか、全部滲んだみたいな……あれ……。
「ツカサ君?」
目の前にはブラックがいる。俺の顔を覗き込んでいる……はず……なのに、何故かその姿が見えない。目の前にある色のついた影がスッと溶けて、そしたら、ブラックの体に隠れていたはずの廊下が見えて来て。
そこには。
『――――こっち』
そこには――――砂色の大きな三角耳と、ふわふわした金色の髪の、不思議な女の子が立っていた。
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でも悪い気分じゃなくて、そうしてもいいかって思えてくる。
気が付くと俺は歩いていて……ただ、彼女に招かれるまま進んでいった。
→
※ツイ…Xで言ってた通り遅れました(;´Д`)
残暑がまだまだキツイですね…
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