684 / 1,098
邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編
10.最短距離で攻略するには
しおりを挟む◆
なんというか、なんとも難しい話になってしまった。
今までの俺は、クロウが「過去に“弱い”と判定される事があって、そのせいで敬遠されていた」のだと思っていたんだよな。
でも、ホントは……というか、少なくともあのデハイアというクロウの伯父に関しては、そんな理由だけでは無かったらしい。
「弱者など我が血族には不必要なのだ!」と軽蔑しているだけならまだマシだったんだけど……さすがに、人の生死が関わって来ると……何とも言えなくなる。
――――デハイアは、クロウクルワッハが妹を殺したと思っている。
つまり、あの伯父は、クロウがお母さんであるスーリアさんを殺したと思っていると言う話なのだ。……真偽は一先ず置いておくとして、あの人がそう考えているなら、そりゃまあ……ああなっても、仕方がない……かも知れない……。
だって、王妃にまで選ばれた才女のスーリアさんなら、当然デハイアさんも自慢の妹だと思っていただろうし、溺愛だってしていたかもしれない。
そんな肉親を、実の息子が殺したのだと思えば、憎しみは凄まじい物だろう。
むしろ無視くらいで済んでいるのが恐ろしいとすら思う。
まあ……何十年も時間が経ってるみたいだし、それで抑え込める程度には怒りを制御できるようになったってダケかもしれないけど……それでも、仮に俺がその立場に置かれたと考えたら、正気じゃいられないかも知れない。
きっと、あの人の怒りはそれ以上のものなんだろう。
…………でも、まだクロウがお母さんであるスーリアさんを殺したなんて、決まったワケじゃない。少なくとも俺は、クロウがそんな事をするとは思えなかった。
実の兄に憎まれていたって、決してこの兄の事を悪く言わなかったような奴だ。
それに……クロウは、母親が好きだった花も、お風呂好きだったことも、全部とても嬉しそうに話してくれていたんだ。そんな顔をして、殺したんだとはとても思えない。
きっと、何かの誤解があるはずだ……とは思うんだけど。
でも……怒りんぼ殿下ことカウルノスが「問えばアイツはきっと認める」と言ってるのが気になるんだよな。
少なくとも、クロウは母親の死を自分のせいだと思っている。
……もしかしたら、そのせいで今の引っ込み思案であまり表情を表に出す事のないクロウが出来上がったのかも知れない。
だとしたら、確かに……今は、聞く事も出来そうになかった。
だって、自分の背負った罪を常に自覚させるような存在がいるんだもんな。
ストレスが掛かってる状態で自分を顧みるなんて酷な事、させられないよ。
しかしなぁ、だからって……。
「…………あのう、カウルノスさん」
「だから敬語をやめろと言っただろう。お前は頭の中まで駄肉が詰まってるのか? まったく……男の体のくせに、メスらしいけしからん腹肉をしおって」
「いや、うん、すんません……? っていうか、これで本当に癒されます……? 話をするっつっても、なんか取引内容が間違ってません……?」
つい疑問符がいくつも浮かんでしまうが、無理も無かろう。
だって俺は今、カウルノスの膝の上に乗らされたまま、酒臭いオッサンに変な説教のされかたをしながら腹肉を揉まれているのだから。
…………どうしてこうなった。
いや、うん。どうしても何も、忠告をしてやったんだから少しくらい気を使えってなコトで、俺も肉をご相伴にあずかりながら膝に座ってるんだけど……何でこんな風に体をムニムニ触られているのかはよくわからない。
まあ、カウルノスの触り方は別にヤらしい感じじゃ無く、本当に癒しグッズでも揉んでいる感じなので良いんだけどさ。
しかし、こんな所をブラックに見られたらと思うと気が気ではない。
ちょっとでも見られたら、絶対に次の日はとんでもないお仕置きコースだ。
なのでホントはもうお開きにして欲しいんだけど……カウルノス以外からは聞けそうにないクロウの話だったからなぁ……。
忠告も含めて軽く話してくれたし、そのお礼はしなければならないのだ。
俺は、そういうことはキッチリやる男だからな。
ありがとうとお礼するのは当然の事なのである。
でも、そのお礼が何故か癒しを求めて肉を揉む権利ってのはなんだかなぁ。
「何が不満だ。別にお前を食わせろと言っているワケでもあるまい。それともそっちの方が良かったのか? 淫売なメスだな」
「真面目な顔して人を罵るな! ったく、人のことデブだのなんだの言いやがって」
もうやめるぞと間近にある相手の顔を振り向いて睨むと、カウルノスは朱が強い橙色の瞳で俺を見返した。
「出武? よく分からんが、俺が満足していると思ったら大間違いだぞ。お前の場合は肉が足らん。もっと肉を食って太れ。腹肉は揉み心地が良いが全然厚みが足らんではないか。この薄さでは子を産むときに死ぬぞ。男メスは死にやすいのだ」
「産む予定はねええええええええ」
ギーギーと歯軋りをしながら抗議するが、俺の抵抗など獣人のカウルノスにとってはどこ吹く風のようで、俺の横っ腹の肉を揉みながら酒を飲む。
テメこんにゃろ、これで手つきがスケベだったら思いっきりつねってやるのに。
「そう言うな。アイツは人一倍、己の血族を欲しがっているんだ。お前も我ら王族の嫁になるのなら、股が渇かぬくらい子を孕まされる覚悟はしておけ」
「マジやめてくださいそういうの言うの本当にやめて」
何でこのオッサンは恐ろしいことばかり言うんだ。嫌がらせか。
でもクロウと一緒でマジで正直なだけだからなぁあああもおおおおおおお。
「何故そんなに嫌がる。まったく……これでは先が思いやられるな。どうせ、あの赤髪の男にも死ぬほど孕まされるんだろうに」
「いやあの、俺はそういうのまだ考えられない人間なんで……ッ」
この世界での俺は「メス」である以上、もうこういう超次元なセクハラ発言をされても、メスとして甘んじて受け入れなければならないのだろう。
だが、異世界で男として生きて来た以上、俺にはどうしても「孕める」という大前提が理解出来ない。というか、深く考えたくないのだ。
けれども、それを否定するとこの世界の男メスの人に申し訳ないし……結局、まだ考えられないと言うぐらいしか抵抗する術が無かった。
ああもう、なんで男まで妊娠できるんだよこの世界は。
おかげでややこしい関係が更にややこしくなってるってのに!
「何故そう苦み走った顔をするのか分からんが……まあ、あの恐ろしい男が子を望むことがないなら、そう簡単に頷く事も出来んか」
お……?
ブラックのおかげか、何故か妙な納得の仕方をしているぞこのオッサン。
恐ろしい男、と言っているのが少し気になるが、まあ妊娠の話題から遠ざかったのは凄く良い事だ。このまま別の事に話をスライドさせよう。
そう思い、俺は水をぐびっと飲んでカウルノスに話を振った。
「そ、それより……デハイアさんの話なんだけど……やっぱり、このままだとスーリアさんの研究は見せて貰えないんだよな。クロウのことで拗れてるとしたら……こっちはどうすれば良いと思う? “嵐天角狼族”の動きも気になるし、王都も心配だし……出来れば早く遺物を見せて欲しいんだけど……」
問いかけると、カウルノスは赤ら顔で目を細めて、目下の中年らしい溝を深くした。
「フム……それについても、難しいな。ここにクロウクルワッハが滞在している以上、デハイアの機嫌を良くするのは難しいだろう」
「それヤバいんじゃ……」
「ああ、ヤバいな。だが方法が無いわけではない」
「な、なんか良い案があるのか?!」
クロウの過去を聞いてわだかまりを解消する……という方法が取れない以上、もうその方法に縋るしかない。
カウルノスの顔を見上げた俺に、相手は片眉を上げた。
「オスを釣る方法など、どこだろうが一緒だろう」
「……はい?」
「愛想、メシ、色気だ。お前のメシは申し分ない。愛想も……まあ、あるだろう。あとは、色気を勉強して来い。この館にもメス用の服は幾つか用意してあるだろうから、あとで執事に言って着させて貰え」
「えーと……あの……」
「まだ判らんのか? お前の頭はやはり駄肉詰めか? 要するに、デハイアの前で、メスらしく振舞って色気の一つでも振り撒けということだ。アイツも独り身が長い。お前くらいのメスでも、手作りメシの効果と合わせればコロっと行くだろう」
…………えーと。
つまり……ええと……俺にスケベな格好をして、手料理を振る舞ってメスっ子らしくきゃるるんとしながらデハイアさんに近付け……って、こと……?
……………………。
「いや無理ムリむりムリ!! なんで俺がっつーか無理でしょ!?」
「俺らオスがメス用の服を着ても意味が無いだろ。それに、お前はちんちくりんのくせに妙に色気はあるからな。ダメでもともとだ、やってみろ。……それ以外に、あの難癖クソオヤジを籠絡する術は無いぞ」
オス相手にはとことん頑固なんだ、と付け加えつつ酒を煽るカウルノス。
……このオッサンは、真面目な顔をして物凄く失礼な事を言うが……冗談はあまり言わない。と言う事は、本当に俺がメスとして色仕掛けする以外に方法は無いと思っているって事で……マジでそれ以上の案が思い浮かばないってことで……。
「…………えぇ……」
「クロウクルワッハが自分から過去を話せるくらいに自分を保てれば、他の解決策も有るだろうが……今は無理だろう。短期間で決着を付けたいなら、お前自身が一肌脱いで、己のオスの為に頑張るしかない」
「ぐうう……」
確かに、クロウが不安定な今の状況では過去の話もしにくい。
でも、心が安定するのを悠長に待っているヒマもないのだ。当然、デハイアさんとの和解を模索する時間も無いだろう。
だとすると…………最短で相手を落とせる策はもう……。
「……で、やるのか? やるなら、俺も協力してやるぞ。デハイアも中々のムッツリだからな。アイツが自然と目で追うような服を見繕ってやろう」
カウルノス本人は、俺を何とも思っていないような目で見やがる。
その視線の方が、俺にとってはよっぽど楽なのだが……俺の「メス」という属性が唯一の切り札になるのなら、もうどうしようもない。
「…………おねがいします……」
がっくりと肩を落として観念する俺に、カウルノスは何故か「ブフッ」と笑った。
テメこの脳筋おこりんぼ王子め覚えてろよ。
→
※ツ…エックスで言ってた通り遅れました…!:(;゙゚'ω゚'):
ブラック達出て来てなくてもうしわけねえ
13
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる